9.ランカープレイヤー V
血まみれで壁に背を預け、視線が固定されていないカラーズを、ルミナスとミスターBで一先ず地面に寝かせる。
「なぁルミナス、これ死んじゃねぇだろうな?」
「縁起でもないこと言わないでください……」
端から見れば死人にも見えるが、カラーズは浅く儚い呼吸を繰り返している。
痛みは相当なものだろうが、自身が気絶したことで死亡と誤判定されないよう、何とか気を保っているようだった。
「つーかよォ、カラーの描いてたあの魔法陣──あんなんアイツの能力には無かったはずだが……何だったんだァ、アレ」
「恐らくですが、ノームコアの言っていた"スキル"というものかと……Bさんのことなので、多分聞いてないと思いますけど」
「悪かったなァ?説明聞けなくてよ」
カラーズ以外にいじられるのは少々癪なようで、若干悪態をつくミスターB。そんなミスターBと二人、カラーズのことを介抱している最中、ルミナスは未だに壁にベッタリと付いているものの、色素が抜けて真っ白となった魔法陣を脇目に写す。
(どんなものが配られたのかは、敵味方関係なく完全ランダム……私のスキルは"夜明けの響声"、これもカラーズさんのように何か贄になるものが必要なのか──)
自身のスキルはメニュー画面から確認できる。だが、そこから知ることができるのはスキルの名称だけなので、その中身がどんなものかも現状は想像に委ねるだけなルミナスは、そこで考えるのをやめにした。
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ルミナス達とは別のステージ──
そこでは既に戦闘が終わっていた。戦闘を切り抜けたことに安堵する数多のプレイヤー達の衆とは少しはぐれたところ、ついさっき倒したこのステージの討伐対象──群れなす反逆者という革命侵略者のボス──である異形のバケモノだったものが、乱雑にばらまかれたペンキのような大量の斬撃の跡で、これでもかと塗り潰されていた。
その死骸をまじまじと観察する者と、討伐対象達が持っていた武器を拾い集める者──そして、禍々しい雰囲気の札がこれでもかと貼られた重そうなトランク型のバッグを傍らに、刀の手入れをする者がいた。順に言うと、シップとパーク、そしてナギの三人のランカープレイヤーだった。
実力だけならば、ランカーの中でも屈指の強者達だったが、どこか疲弊しているようにも見えた。
刀の手入れの最中、決まり悪そうにナギが二人に声をかける。
「……少しばかりよろしいか、お二方」
「ん、どうしたんだい?ナギ」 「……なんだ」
「先刻は、何と言うべきか──私の不甲斐ないところを対処してもらい……すまない、助かった」
Yシャツの上に古い様相の学生服、そして色褪せたコートにスカートという、現代社会からしてみれば少々奇抜な服装のナギだが、それに自然に溶け込むような──現在自身の傍らにポツンと置いてある、ガッチリと閉ざされたコンテナ型のバッグを、ナギは警戒を含めた目で一瞥しながら謝った。
その原因は、数十分前に遡る───
───討伐対象であった群れなす反逆者のボス以外を制圧したシップとパークは、"タイマンなら負けはない"とボスとの一対一を任せていたナギの様子を見に行った。
結論だけ言うと、ナギはやはりボスを倒していて、足元に"だったもの"が転がっていた。
だが問題はそこではなく、ナギの見た目が大きく変化していたことである。もちろん、ナギ──もといネオンズプレイヤーに、第二形態なんかは備わっていない。要するに異常だったため、二人は警戒しながら、ナギのことを注視した。
後ろで短く結われていて、コートと同じ色の汚れた薄緑色の髪の結びがほどけており、緑が青へと変色していた。片方の目にはそれと同じ色の焔が宿っている。一刀流のはずのナギの両手には刀が一本ずつ握られており、一方は黒く、もう一方は淡い水色に鈍く光っていた。
そんなナギの少し離れた地面には、パッカリと開いたトランク型のバッグが脱ぎ捨てられたように放置されている。
「やっぱり……ん?あのバッグは確か、ノームコアとのゲームが開始してからナギが持っていた……」
「今それは気にするな、シップ。考えたとて分からん……が、味方がヤバくなった時の対処法は知っている」
「パークが知ってる対処法はアテにならなそうだけど、一応聞くよ──」
その時ナギが──ナギの体を借りた"ナニカ"が、ボスにトドメを刺し終えて、二人の方を向いた。
パークは鉄パイプと猟銃を、シップは武器である錫杖を手に臨戦態勢となる。"ナニカ"も刀の汚れを振り落とすと、二つの刀を交差させて隙無く構える。
「あぁいう奴はだな……気絶させれば大抵治る」
そう言ってナギとの交戦を開始したパークの言葉に、予想通りと言わんばかりに肩をすくめたシップもその後戦闘に加わり、二人がかりで何とかナギを気絶させることに成功した───
───ついさっきの出来事を振り返り、脳内で情報を咀嚼するように、シップは時折頷きながら言葉を返す。
「仕方がないさ、そのバッグが開いて怨霊的なのに取り憑かれるなんて……スキル名だけ分かったとて、誰も考え付かない」
「……はえ?スキル名なぞ確認できたのか?」
なんとも間抜けな声で小首をかしげるナギ。パークはため息一つ、シップは少し乾いた笑いでそれに応えた。
「戦闘IQはバカ高いクセに、こういう重要な部分には頭回らないな、貴様……」
「メニューから見れるはずなんだけど、どう?」
ナギは未だおぼつかない手付きでメニュー画面を開き、目を通して──眉を潜め、小首をかしげた。その一連の動作を二度三度繰り返した後、ナギは困り果てた子供のように、万事休すと顔全体に貼っ付けられた表情でシップを見た。
「シップ……私は、ついに文字が読めなくなったかもしれん!」
「いや、そんなことはないと思うけど……」
そうしてナギのメニュー画面を覗き込んだシップも、おおかたナギと同じような反応をした。
パークにも見てもらったものの、やはり読めないようで覆面の下の眉が動く。日本語でも外国語でも、どこかの民族特有の言語でもなさそうで──どうやら、文字化けを起こしているらしいという結論に至った。
「一応聞いておくのだが……私だけ意地の悪いことをされているわけでもあるまいな?」
「まさか、我は見えてるぞ」 「同じく」
念のためナギは二人のメニュー画面から、スキル名を確認してみるが、やはり普通に書いてあった。
シップは"確証せし未来"、パークは"朱乱"とそれぞれ表示されていた。
ナギはフッと軽いため息を吐いた後、ずっと手入れしていた刀を鞘にしまい、立ち上がる。
「……まぁ良い、名なぞ分からずとも中身が知れておれば大した問題ではない」
「それはそうか──さて、と……他の皆はボスを無事に倒せたかな?」
そうシップが呟いた時だった、微かなノイズと拍手の音と共に、少々ムカつく天啓が降ってくる。そう呼ぶのは烏滸がましいくらいに、多くのネオンズプレイヤーからヘイトを買っているが。
「やぁやぁプレイヤー諸君、楽しんでくれたかな?」
「ゲーム開始時に集まってくれたネオンズプレイヤーの数は、大体三千人!そのうち、今回で生存したプレイヤーの数も大体だけど、二千五百人だ!」
"見ているだけなら楽しい"の最上級に位置するのが、こんな風なゲームなのだろう。よっぽど楽しいらしく、一人でテンションが爆上がりしている。
「いやぁ、もう少し減ると思ってたけど──流石はネオンズプレイヤー。純粋な戦闘のプレイスキルなら、屈指のゲーマーの集まりだ」
「第一ステージはこれでクリアだ。一旦おめでとうと言っておこう!これより、2日間の休憩を挟む。明後日の十二時までは、ネオンズ出入り自由だから、よろしく!」
ノームコアからの音声が途切れると同時、フッと体が浮いた感覚がしたと思うと、プレイヤー全員が待合室前の広場に転送された。




