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4.レイドバトル





転送された先は、真上から月明かりが差していた。

私を含めた数十人──恐らく五十人かなと思える程度の人数で分けられたようだった。

周りの景色自体にこれといった大きな変化はなかったが、通常道路を挟んで並列しているはずのビル達が私らを囲むよう円形になっている。

広さ的には、甲子園とかやってそうな野球場くらいだろうか。

急な転送と、どう見ても異様な光景に各々多少は動揺してるようだ。

すると微かなノイズ音と共に、ノームコアの声が空から聞こえてきた。


『やぁやぁ、無事転送を終えられたようで何よりだ──さて、先刻も言った通り、これから君たちにはレイドバトルと洒落込んでもらうよ』

『ルールは簡単……今からそれぞれの空間にランダムで一体、ボスとなる革命侵略者(イノベーダー)を出現させるから、それを制限時間三十分の間に倒せばクリア──ただし、倒されたプレイヤーは次のゲームでも復活しないから注意だ』


今とんでもなく大事なこと言ったぞ、あいつ……

倒されて復活しないとなると、ゲームアカウントの削除かログイン禁止辺りの措置なんだろうが──恐らくノームコアは性格が悪いから、アカウント削除くらいはするだろう。

痛覚上限値の引き上げのせいで、倒される時に受けるダメージ次第では相当痛みに悶えるパターンもあり得るうえ、まだ想定の域だがアカウント削除までするとは──とんでもない野郎である。

私は、共に転送されてきたアキに会話をふっ掛けてみる。良かった……近くに居といて。


「アキ、聞いた?復活しない、もとい出来ないとなると……ワンチャンだけど、ゲーム垢削除っぽくね?」

「あくまで想定だけど、大体そうだと思うな──ネオンズでのゲームが生き甲斐に近い私達からしてみれば、メンタル的に死活問題だね」

「アキはシンガーソングライターじゃん!現実で収入源とかあるじゃんか……私なんか、現実で仕事してねえのにミスって倒されたりでもしたら、色んな意味で一生悔やむね」


少しおどけた笑みを作ってそう言ってみせると、同じように微笑みを返すアキ。

この時は、まだお茶らけられる余裕があったが……まさか、あんなことになるなんて──というフラグ台詞が脳裏をよぎったが、まぁ平気だろう。

今まで大抵行き当たりばったりで生きてきた私だ。先を無駄に考えるのはナンセンスすぎる。

その間もノームコアは話をしていたが、何やら革命侵略者(イノベーダー)の自慢話っぽかったため耳は貸さなかった。


『さて、一通り説明も終わったところだ──じゃあ、これより!レイドバトルといこうか!精々頑張ってくれよー』


ガザッと一際強く鳴ったノイズを最後に、その放送は途切れた──と同時、ガラスが割れる音の強化版のような破壊音と共にビルの一部分がバグったように割れ、その奥から今回のボスである異形のバケモノ──革命侵略者(イノベーダー)が空気を揺らし、地を震わせながら姿を現した。

一言で表すならば、殺戮兵器といったところだろうか。

キャタピラの脚に人型ロボットの上半身がくっついた見た目で、人間なら右手にあたる場所には喧しく回転する丸鋸の刃があり、左手にあたる場所には三本に分かれたアームがあった。目とおぼしきものは一つで、赤く発光している。

全体的に黒い鋼鉄で構成されていて、ところどころに紫の光が迸っていた。

その体躯はビルには及ばないが大きく、大体三階建ての家屋くらいだと推測できる。


「初戦からなんちゅうバケモン寄越してくれてんだ、あの野郎!」


すると再度、空からノイズ音が響いたと思うとノームコアのニコニコしてる顔が目に浮かぶような声が耳に届く。


『驚いたかい?アイツは千差万別の殺人兵器──名付けて無量対応殺戮巨兵(ワイド·バスター)!!まぁ、楽しみながら戦ってくれ』


それだけ言って満足したのか、言い終わった途端に放送が乱暴に切れた。

少し周りを見ると、勇敢にも武器(ウエポン)を装備して立ち向かおうとしてる者、早々に腰が抜けてる者、どうすべきか分からず挙動不審になっている者と様々だったが、全員取る行動が不正解だった。

人数が減るにしても、ただ減らされるだけなのはマズいと考えた私は、とりあえず指示を出す。


「全員、まず奴の無数にあるだろう攻撃パターンと攻撃手段の把握を最優先!あと、こっちのただの攻撃は多分通らんから、次点で弱点と思わしき部分探しだ!!」


私がそう周囲に叫び終えた瞬間、奴は動き出した。

キャタピラが重そうにギシギシと音を立てながら、丸鋸のついた右腕を無量対応殺戮巨兵(ワイド·バスター)が私達を目掛けて振り下ろされた。

私の言ったことは理解してくれてたようで、奴の丸鋸で切り刻まれる範囲にいた、私達を含めたプレイヤー達は──数人を除いて一斉に飛び退き、攻撃を回避した。

何人かやられたが、まぁ恐らくは油断していた初心者辺りだろうし、見た目より機敏な動きだったとはいえ、あれくらいは躱せないなら今後も出番はないだろう。

奴が丸鋸が振り下ろされた地面は、見事なまでに半円状に削られていたが、丸鋸自体にはパッと見傷はない。なんて固さしてんだ。


「アキ、あの丸鋸の刃見える?コンクリにぶち当てたうえ回転させてたくせに、刃こぼれ一つありゃしねぇ……」

「この時点で、あぁいう機械系のお約束──武器破壊して弱体化って手はなくなったね……」


丸鋸があんだけ頑丈とくれば、もう片方のアームも柔い作りではないはずだ。

武器破壊不可となると、次に狙うべきは顔面の一つ目かキャタピラの下辺りだろう。

私は思考を巡らせていたが、誰かの悲鳴で仕方なく気を奴の方へ戻した。

見ると、丸鋸攻撃の後隙を狙ったプレイヤーらが固まって近付いたら捕まったらしく、数人程度仲良くアームに収まっていた。

奴は捕まえたプレイヤー達に気を取っているようで丸鋸をそいつらに向けて動かし始めた。申し訳ないが、良い囮だ。


「奴が捕まえてるのに気取られてるうちに、遠距離プレイヤーは顔面の赤い一つ目!近距離プレイヤーはキャタピラの下辺りを叩け!」


普通、ああいう巨大なのの懐に潜り込むのはハイリスク極まりないが、奴は下半身がキャタピラだ。同じキャタピラで動く戦車も下は脆いらしいし、効くと思われる──まぁ、やってみるの精神だ。

奴に近い周りの勇猛果敢なプレイヤー達が駆け出していくのを見送り、私も行こうとすると肩を半ば捕まれる形で叩かれた。

後ろを向くと頬に指が当たり、頬の肉がムニッとなる。そんなイタズラをしてきた相手を見ると、それはランキング二位のプレイヤー──私の師匠兼ライバルである、PN(プレイヤーネーム)ヘイズだった。


「……どうしたのさヘイズ、私も行こうとしてたところだってのに」

「なぁに、こんな序盤も序盤にランカーが出ていくことはないだろと思ってね……この後だってノームコアによる"ゲーム"は続く──後は言わなくたって分かるだろう?相変わらず、戦いたがりが抑えきれない奴だ」


カタギの人間じゃなさそうな奴がつけてそうなサングラス、現実でもネオンズでもタバコの吸いすぎでしゃがれ気味な声、頭にはカウボーイハットもどきを被った見た目をしたプレイヤーだ。

戦闘への参加を止められて、なおかつ副流煙をぶっかけられた不機嫌な私の顔が変だったか、ヘイズはフッと鼻で笑ってくる。


「ごめんごめん、レノは正論が嫌いだった」

「正論が嫌いって言うな、私は面白味のないのが気に入らないだけ」

「合ってるじゃないか?正論は、何時だって退屈なもんさ」

「……さいですか」


コイツは常時こんなんだが、実力は確かなものだし性格だって根は人当たりの良い面がある。

だから今回も、万が一が怖くて私を心配してのものだろう。そう思うことにする、多分違うが。

そんな間にも、無量対応殺戮巨兵(ワイド·バスター)による攻撃は続いていた。顔面の赤い一つ目は破壊され、キャタピラにも至るところに傷が出来ていた。


「まぁ、そう落ち込むなレノ。アタシらにだって出番はあるぞ?いくら指示が常識内で正解に近くても、動くのがネズミじゃ象は倒せん」

「どうだか……ランカーじゃないとはいえ、腐ってもネオンズプレイヤー──戦闘経験は他のゲーマーと比べりゃ優位だろ?」

「レノ、経験は時に──常識は常に枷となるものさ」


何が言いたいかは私のゲーム脳じゃ理解しがたかったため、"どういう意味だ"と聞き直そうと口を開いた。

するとキャタピラの部分──奴の下部が、唐突に爆発を起こして上半身が宙へ飛んでった。

もちろん、爆発に巻き込まれた下を攻撃してたプレイヤー達は、ゲーム内では御陀仏だ。

私の指示でこうなったことは申し訳ないなと思いつつ軽く受け流し、奴の変化に目を向けた。

なくなった、もとい爆発して破壊されたキャタピラの代わりに、飛んだ上半身から人間のような下半身が生えてきた。要は戦隊ものとかでよくある巨大人型ロボットだ。

ヘイズはそれを脇目に私を見て、ニヤリと笑ってみせる。


「良かったなレノ、出番がありそうで」

「こんな形で来るとは思わねーよ……」






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