5.ランカープレイヤー I
人型ロボットとなった無量対応殺戮巨兵は、足に搭載されているらしいジェットで空中に飛び立つと、背中からガシャガシャと音を立てて出現させた六本の発射台からミサイルをぶっぱなした。
一つ一つは大きくないが、それでも固まり気味な私らを狙うには十分で、発射された数の分だけそこらで悲鳴があがった。
「おいヘイズ、この調子じゃ人数だけ減らされるぞ!」
「下手に周りに気を配りすぎるな、落ち着けレノ──アタシらにもいるだろう?あんな風なデカブツを操れるヤツが」
放たれたミサイルを避けながらヘイズの視線の先を見て、私は自分が思い切り失念してたことを理解した。ヘイズの言う通り、どこか他のプレイヤーやらに気を遣いすぎてたらしい。
アキだ。ランカーの──ネオンズプレイヤーの中でも結構異質な、ギターを武器とするアキの能力は他と比べると少々特殊で……いや、やっぱり説明するとムズくなるから、とりあえず一見してもらおう。
ミサイルを全弾避け終えると、さっきの私とヘイズの会話から意図を汲み取ったアキは、武器であるギターを召喚して肩に掛け、ポケットからピックを取り出す。
「おっと、その前に周りのプレイヤーを避難させるぞ──アキの能力だと味方撃ちは必至だ」
「お前ら!巻き込まれて死にたくなけりゃ、とりあえずアキの後ろに居ろ!」
さっき何十人かプレイヤーを殺した指示を出した私の、かなりと言うか滅茶苦茶に雑すぎる避難指示だったが、やはりゲーム内で"死ぬ"行為が今のネオンズだと痛いうえに、ネオンズの死イコール垢削除だ。全員が従順であった。
もちろん、無量対応殺戮巨兵が黙って見てたわけじゃなく、再度ミサイルを飛ばしてきたのだが、それはヘイズが全て着弾の前に撃墜した。
高速かつ不規則なミサイルを当たり前のように撃墜できるような技量を持ち合わせるヘイズだが、秘訣的なのを聞いても"経験と、それによる勘だ"としか答えない。どんな勘ならマグナムでミサイル撃墜できんだよ、怖いわ。
「じゃあ二人とも、私自身の護衛はよろしくね?」
「了解っと」 「任せておけ」
アキは軽く咳払いをして深呼吸を一つ、そしてフレットに指を置くとオープンコードで一弾き──ギターといえばの、あの強く空気を揺らすジャーンという音が響いた。その音をギターが出すのに必要なアンプは、いつの間にか大きめのやつがアキの右隣に、左隣には他の楽器の音を補うスピーカーが出現していた。
「……っし、お前ら!盛り上がってるよなァー!!」
私とヘイズ、それとアキの事情を知っている僅かなネオンズプレイヤーは"いえーい"と控えめすぎるくらいのテンションで一応盛り上がるが、大半のプレイヤーはアキの変わりようやらで、何がなんだかサッパリらしくポカンとしていた。
アキは武器を使う──もとい、ギターを鳴らしたり歌い始めると、急に豹変する。車でも、ハンドルを握ると性格やらテンションが、春の気圧並みに急変する奴がいるだろう。それと同じだ。
「あんな巨大ロボ……スクラップ業者の仕事の足しにでもしてやろうぜ!!」
「鳴冥黒!それがオレの能力の名だァ!!」
今のところ、ただアキがソロライブするようにしか見えないが、スピーカーから音楽が流れ始めると、アキの背後に白銀に輝く人型のドラゴン──異世界ものとかに出てくるリザードマンの、ドラゴンバージョンみたいなやつ──が現れる。いや、厳密に言うとドラゴンの姿をしたランプの魔人だ。
コイツの分かりやすい例を挙げるなら、奇妙な冒険してる高校生の持つ、オラオラ言いながらラッシュを放つ幽霊みたいなアレだ。
もっとも、アキの能力であるこの魔人は大きさがそれより格段にデカい。無量対応殺戮巨兵より一回り小さい程度──普段乗るような大型バスの長さくらい、といえば分かるだろうか。
「かかってきなロボット……オレのライブを、特等席で堪能させてやるよッ!!」
無量対応殺戮巨兵が威嚇でもするように丸鋸を見せつけながら、けたたましく回転させると、その音に呼応するように鳴冥黒が咆哮した。
そして前奏が終わり、アキが歌い始めるとドラゴン魔人が青く迸る熱線を口から、無量対応殺戮巨兵がレーザーを、いつの間にか修復された赤い一つ目からそれぞれ放つと、ぶつかり合って爆ぜた。
よし、あっちで怪獣大決戦してる間にこっちはこっちで出来ることをするか。
「あの赤い一つ目、破壊できるか?ヘイズ」
「言われなくとも承知はしてるが……」
ヘイズがマグナムを構え、標的に一寸の狂いもなく弾丸が発射された。
がしかし、人型となったことでヤツの頭の位置がその分高くなり、その一つ目には弾が届かなかった。
「……流石に、アタシのマグナムには高すぎるな」
「こうなるとなぁ~……めんどくさいんだけど、やるか。ヘイズ、お前の能力使ってくれ」
「能力なら距離は届くが、撃ち落とされない確証はないぞ」
「んなもん百も承知だっつーの」
ヘイズが副流煙をフーッとマグナムに吹き掛けると、その煙が銃口へと徐々に吸い込まれる。
「行くぞレノ。ズリ落ちるなよ?」
「分かってら、ちゃちゃっと潰してくる。アキの護衛は頼むわ──あ、あと帰りの便も忘れんなよ?」
「任せておけ、行くぞ──霧中·遊術」
放たれた弾丸は、飛行機雲のように空中に線を引きながらヤツの頭辺りまで飛んでいく。
私は空中に残留している線に飛び乗り、その上を駆け上がっていく。この煙、上を人が歩けるようになっているのだ。
ちなみに、これは元々ついてるオプションではなく、ヘイズが能力から自力で編み出した技だ。どんな理屈で煙の上に人が立ってるのか……仮にもネオンズはゲームなので、深くは考えないことにした。
アキのドラゴン魔人と取っ組み合いながらも、私の方へ無量対応殺戮巨兵はミサイルを飛ばしてきたが、煙なため足場が壊れるという心配もなく、直撃だけを免れながら上へ上へと飛行機雲のように伸びてゆく煙を駆け続け、ヤツの顔面まで迫る。
こちらの狙いを理解したか、煙の道を蹴って飛び移ろうとする私から、ヤツは距離を取ろうとするも、アキのドラゴン魔人と組み合っていて動こうに動けないようだ。
私は半ばしがみつく形ながらも、何とかヤツの肩に着地する。
「さぁてと、後は目の部分をブッ叩けば……」
私がヤツの方へと顔を上げると、その赤い目と視線がバッチリ正面衝突した。
それを互いに認識した時、ヤツの目の奥に赤い光が収束するのを一目見た私は、一人なら十分に動けるほどデカい肩の上で横っ飛びすると、レーザーが髪を掠った。
「……って危なっ!けど、能力使わなくても避けれる感じの──」
そこで、私は言葉を中断せざるをえなくなった。取っ組み合いで拮抗していたアキのドラゴン魔人が、無量対応殺戮巨兵の胴体へと攻撃を通したらしく、その衝撃がヤツのバランスを大きく崩した。
私は落ちないよう、ヤツのデコボコに手足を引っ掛けながらよじ登り、ようやく顔面までたどり着く。武器以外の耐久力は低いのか、さっきの攻撃が堪えたらしく、その後もドラゴン魔人に良いように攻撃されている無量対応殺戮巨兵。
ドラゴン魔人の攻撃の激しさから、そろそろアキのライブ──もとい能力も終わりが近いことを察した私は、レーザーに一応注意しながらも素早く近付くと、脇差を逆手に持ち替えて構え、出来る限りの力で振って突き刺した。
思いのほか、ヤツの赤い目玉はパリンと軽い音を立てて割れ、脇差が深くまで入り込んだ。
そして、トドメと言わんばかりにドラゴン魔人が、口からヤツへと熱線を放出した。
私は巻き込まれないよう、急いで無量対応殺戮巨兵から助走をつけて、空中へと身を投げる。
すると、飛び降りる先を弾丸が通っていき、その後に引かれた飛行機雲のような煙に、私は背中から着地した。痛くはない、何せ煙だからだ。
私は着地した煙の上から、ドラゴン魔人の熱線で焼き溶かされていく無量対応殺戮巨兵を見て、少しだが拍子抜けしていた。
「なんか……攻撃さえ通っちまったら案外だったな、お前」
初戦だからなのだろうが……私達は何十人かの死者を出しながらも、無事に第一ステージを突破したのだった。




