夏の思い出
暑い日差しとエアコンの冷たい空気がバスの中に入る。ガタンと何回かバスが揺れる。この時間が心地いい。だけど、、、
「楽しみですわね」
目をキラキラさせてるジョニーがこちらを見ている。話ではこういうのが初めてらしいので気持ちは分かる。
「そうだね、そうなんだけどさ」
スマホの写真をこちらに見せる。水着を着ている写真なのだが、なんというか露出が激しく感じる。今の子ってこんな凄いのを着ているのか?
「あのね、彼だって男の子なんだよ」
ぐいっと俺の顔をこちらに向ける照。
「ぐぇ」
「ダメ」
白い髪が揺れる。鼻に流れる甘い匂いがした。目はあまり見てなかったのかな、思ったよりも綺麗な目をしている。
「ねぇ、そんなに気になる?」
「え?」
「私の水着」
俺の顔を下に向かせる。
「返事がしにくいな、それは」
「いいじゃん、どう言ったって」
はにかんで答えていた。前回のこともあってちょっとは意識してしまう。
「わたくしのも見ませんの?」
ぎゅっと手を握られる。
「ちょっ」
もっと力強く握られる。
手を振り切って顔を動かす。、、、意外と力強いな。
「ふん!」
「あ?!」
ジョニーの方を向く。急にこっちを向いたからか、鼻先が掠るくらいの距離になってしまった。
「あ、近いですわよ」
「うん、そう、そうだね」
ちょっと微妙な空気が流れる。
どさっと頭を後ろに下げる。
「夏だね」
「「下手くそ!」」
両方から突っ込まれる。
「しょうがないじゃん。どうしたら良かったんだよ」
「別に普通に話しかけたら良かったじゃん」
「そうですわよ、何言われてもわたくしは広い心で返しますわよ」
「そんな真っ赤な顔で」
ジョニーは顔がりんごぐらい赤かった。
「別にいいですわよ」
ぷいっと向こうを向く。耳まで真っ赤になっていた。
「あ、ごめん」
「謝られるとこっちが悪いみたいですわね」
「君だって真っ赤じゃん」
「え?!」
自分の耳を触る。思ったより熱い。俺もしかしてジョニーのことも意識してるのかな。一緒にお風呂入ったりしてるしな。なんなら好きとか言われたな、ヤバい、意識するとまた身体が熱くなる。
「海、見えるよ」
言葉を聞いて窓の方を見る。そこには光と混ざった海がそこにあった。
ー
「海だ!!」
放はデカい声で駆け出す。あの子もあんなにはしゃぐキャラだっけ。
「頼むから準備運動してくれよ」
先生は体を伸ばしている。
「そうですわよ、ここで吊ったら元も子もありませんわ」
ジョニーは至って冷静だ。バスの中ではしゃぎ散らしてなかったか?
「うん、そうだね」
照は頷いている。
「眩しい」
花が瞼をこすりながら何かを渡してくる。
「何これ?」
「嘘でしょ!?」
そんなにか。
「日焼け止めだよ、塗ってくれないの?」
「お、おう」
動揺してしまう。こんなストレートなことを言われるのはびっくりする。
「パラソルで待ってるから」
彼女は手を振り、そっちに向かう。
「意外とやりますわね」
「彼、やっぱりそういうのじゃない」
「聞こえてるよ!」
耳を塞いでパラソルの方に向かう。
ー
「だからといって男にやらせますか、普通」
「知ってるでしょ、クラスの中の私」
「仲良いじゃん」
「そうなんだけどね、それは」
足をパタパタと動かしながら、こちらを見ている。
「私なんだけどさ」
ため息をついて地面に頭をつける。
「でもさ、意外とみんなミーハーでさ!オタクの私にとっては死活問題なのさ!」
「そんなに」
「そうだよ!」
ギアが一段階上がった気がする。
「このキャラ知ってる?とか言ってもみんなは大人みたいな反応するしさ。別にそこまで、、、みたいな顔するしね」
「俺もそれなんじゃないの」
「君は特別だよ」
持っていた日焼け止めがぎゅっと握ってしまう。蓋をしていたから中身が出ることはなかったけど。
「言い方考えてね」
「そうかな」
「勘違いされたらどうするのさ」
「勘違いしないでしょ、私と君の関係は」
「何の話??」
放が膝を曲げてこちらを見ていた。
「おわぁ?!」
思いっきり飛び跳ねてしまう。
「え?」
後ろを振り向く花。
「いやぁ、気になってね」
「そう」
そのまま地面に頭を下げてく。
「え?俺がおかしい?」
「おかしくないよ、おかしいのは僕」
「そんな卑下すること?」
「だってはしゃいで行ったらさ、鍵、かかってたんだよね」
アハハと乾いた笑いを放はしていた。
「みんなの前だとさ、まだ男だからさ」
「あれ、そうだっけ」
手にクリームを塗り、両手に馴染ませる。
「知ってるでしょ、君は」
「そうでしたね」
「ひゃあ!」
手に触れていた背中が揺れる。
「言え!一言ぐらいは!」
「ごめん」
「分かってるならよろしい」
「だ、大胆だね」
「そうかな」
「そうじゃないの」
「ごめん、こういうの分かんなくて」
ぐいっと背中をさする。
「いいね、ちょうどいいね」
「おじさんすぎないかい」
「いいの、君にしてもらうことが嬉しいから」
「お、おう」
心臓が強く一瞬跳ねる。
「二人そんなに仲いいんだ」
「え?」
「まぁ、私にとって話せるのが彼ぐらいだからね」
「へ〜、そうなんだ」
ズリっと膝を地面につけて仰向けになる。
「なにしてるの?」
「いや、折角ならね」
後ろから手を伸ばし、シャツを捲る。肌白い背中が見える。
「塗ってもらいたいなって」
「俺はいいけど」
「いいの?!」
大声が聞こえる。隣の花の顔が歪む。
「耳が、飛ぶよね」
「あ、ごめん」
「謝れるなら良し」
「こっちも背中終わったよ」
手をパパッと振り払い、終わった合図をする。
「あれ、いつの間に」
「意外と器用ですからね、俺は」
「女の子の扱いも器用だったらよかったのにね」
「それは、、、どうかな?」
苦笑いで返す。
「だって今みたいに苦労してないでしょ」
「言うね〜、放は」
花が顔が見えていないが多分笑顔なんだろうな。
「冷たぁ!」
「どうでしょうか、お客様」
「分かった、分かったから。直接液かけるのやめて」
「いえ、俺はまだ悩んでいるので答えが出るまではこうですからね」
「ごめん、ごめんってば」
「ならばよろしい」
ぐいっと力を入れて背中をさする。
くぅと声が出ていた。別にそれで興奮するほど子供ではない。
「鼻が膨らんでいるよ」
花がこちらの横に立って見てくる。
「えっちじゃん」
下から放の声だって聞こえる。
「ち、ちげぇし」
「ガキじゃん」
「裸だって何回も見てるしね」
「それは、、、は?!」
手をどけてしまうくらいには動揺していた。
「まさか鎌かけが成功するとは」
花がすごい目でこちらを見ている。正直鬼とかがここにいたらこんな顔なんだろうな。
「ち、ちがわ、、、ないか」
「誰と誰と誰を見たのかな?」
思ったより多く見てると思われてないか?
「それは黙秘します」
「関係ないよね、不可抗力でも」
首元にヒヤリと汗が流れる。もしかして俺の終わりここかもしれん。
「わたくしは見せましたわ」
後ろから声が聞こえる。後ろを振り向けないかもしれない。
「そうだね、ボクもなんだけどね」
声がもう一人増えた。こんなに首が動かないことがあるんだな。
ー
「その、なんだ、辛いことなら聞くぞ」
先生が俺に声をかけてくれる。
「いえ、全然」
そんな風に言うが、身体はボロボロである。あの後、信じられないぐらい怒られたし、なんならあの二人とも言われてた。
「そうか」
納得している様子をしていた。
「お前には悪いが、この後出てもらうぞ」
空気が変わる。
「はい」
「急に納得するな、理由ぐらい聞け」
「そんなこと言う時って緊急時の時くらいでしょ。昔からそうなんだからさ」
思い出す、昔のことを。何かあるときは一言、それだけで何か起こることの前兆である。目をパチクリしていた。
「おまえ、、、」
「成長してますよ、俺は」
フッと笑って見せた。
「そうか、そうだったな」
ゆっくりとこちらに近づいてくる。
「だから、行かせることはできないな」
「え?」
お腹に衝撃が来る。視界が歪んでいく、色んな感情が回る中、言葉すら出ない。
ー
「これは秘密事項だか、この映像を見てほしい」
モニターに映る映像、それは炎の中に立ちこむ一つの機体であった。
「これは、、、何ですの」
金色の髪を触りながらジョニーは質問する。
「分からない、今あるデータベースの中には存在しない。つまりは幽霊だな」
先生はそんな軽口を叩く。
「前に僕らを襲ったあいつらの仲間とかあり得るんじゃない」
「そうかもしれないな。だが今の段階では何も分からない」
「そうですよね」
「我々三人がいれば問題はない」
照が指をおりながら確認する。照、ジョニー、先生この三人である。
「まぁ、お古は持ってきているからな」
「いや、そういうことではなくてですね」
「彼はどこに行ったの?」
「あぁ、あいつか。あいつには別のことをしてもらう」
「そうですの?」
「そうだ、私たちでやるしかないんだ」
「そ、そういうならやりますよ」
「了承だな、準備をしろよ。だいぶハードだからな」
「では作戦を立てましょう」
「そうだね」
タブレットをジョニーと照は取り出す。
「機体名は幽霊、外から見る限り遠距離の武器はなさそうだね」
「でしたら、わたくしが前に出ますわ。近接ならお任せを」
「そう言うとボクもそうなんだけどね」
「そうでしたわ、大分偏ってますわね」
「先生のお古はどうですか」
「おっ?聞くか」
片目をピクッと動かしている。
「そうだな、出来るちゃ出来る」
「曖昧ですわね」
「でも、いないよりはましだよ」
「お前、先生に対してそういうことは言うなよ」
「そうでしたね」
「わたくしが前に出ますわよ」
「ありがと」
「いえ、全然」
ー
おきて、起きて。起きて!
「うわっ?!」
バタンと尻餅をついた花がいた。
「ごめん」
「いや、それはこっちの話でもあるんだけどね」
「そうなの?」
「うん、暇だなと思ってその辺ウロウロしてたら廊下に君が倒れてたから」
まじか、あの人変なとこ雑なんだよな。
「で、流石に寝てるだけかと思って声かけたり、ゆらゆら揺らしたんだけどさ」
「今って何時?!」
驚いた顔をしている。
「いや、夕方17時くらいだけど」
「本当に?!」
「そんなに寝てたの?」
あの人の話を聞いたときは11時くらいだから、、、6時間?!寝過ぎじゃないか?
「あぁ、いや全然」
「そうなの。自由時間だからさ、何しても良いわけだけどね」
「ごめん、ありがと」
「なんでそんなに急いでるの?」
「え、それは。ほら、あるじゃん。休日寝過ぎたからその分夜で取り返そうって奴」
「あんま、そういうの意味ないと思うよ」
「そうかな、まぁ個人的にね」
「だからといって、だんだん早足になるのは違うくない」
「え?全然、そんなことないよ。いつも、いつも」
「ちょ、ちょ、早い、早いよ」
「ごめん、後で先生に言っといて」
「はぁ?!いないわ、今は!」
ぐっと足に力をいれ、跳んでいく。
ー
彼がいてくれたら、どんだけ心強いか今になって分かる。上を見る、あの時いた奴がいた。さらには幽霊が姿形を変えながらこちらに迫ってくる。
右腕の牙を振りかぶって幽霊に向かうが、とんでもない動き方をして避けられる。そのまま足で蹴られ、地面に叩きつけられる。
「ぐっ」
口の中に血の味がする。幽霊は上を向いているが、笑っているようにも見える。
「ジョニー!」
「き、こ、え、てますわ!」
後ろから風が通り、幽霊に肉薄する。
刀を振りかざす姿を見た。だが、まだ足りなかった。姿を変えて器用に避けて見せた。
「あれって無人じゃないの」
「だと思うんですけど、反応はあるんですよね」
「まぁ、考えてもしょうがないか」
「あそこは先生が止めてくれてるけど」
両手に銃を持った先生が、あいつと対面している。
「バリアとは、卑怯だな」
「はぁ?そんな機体で目の前に来るなんて舐めてんだね」
「そうだな、今のと比べるとちょっと見劣りするかもしれないがな」
「違うよ、私に傷一つつけられない君を指してるんだよ」
「そうか、じゃあこれはどうだ」
瞬間ーーナイフが飛んでいく。バリアで防いでいた。まだ通じない。
「だからぁ、言ったじゃん」
「そうか、じゃあこれか」
銃を両手に構え、後ろに回っている。彼女は避けて、バリアを展開する。
「やめなよ、意味のないことを」
「なぜ避けた」
「え?」
「バリアが貼れるなら避けなくて、良くないか」
「何言ってるの?」
「図星か」
「そうだよ!言ってあげようか、私の特性を!」
「いや、こういうのは解明するのが楽しい」
銃を放ちながら、彼女に近づく。
「だから、効かないって言ってるだろ!」
「そうだな、だが動けないだろ」
不敵な笑みをしている。腕から大量の兵器を出す。
「それだけで私を倒せるの」
「いや、試すだけだよ」
大量の爆発を起こす。周りには煙が立ち込める。
「なんだ、それだけじゃん」
首筋にナイフが詰められていた。
「やはり、前面だけか」
「良く分かってんじゃん」
「冷静だな」
「だって助けてくれるからね」
「あの幽霊がか?」
「ちがうよ、あの子が助けてくれるんだ」
「周りには幽霊と私たちの仲間しかいないぞ」
「誰か、助けて!」
閃光が走る。それは彼に似た美しい姿であった。
「やっぱり来てくれた」
「おまえ、まだ気絶してただろう」
「もう起きちゃった」
「そうかい」
銃を構え、彼に似た姿を睨みつける。
「良かった、前は起きなくてビックリしちゃったけど」
「あれは使えるよね」
「うん、あっちにあるよ」
「そう」
壁を蹴りながら、ジョニー達の近くに飛ぶ。
「なんですの、急に!」
「まだ、傷だってつけられてもないのに!」
「ありがとう、これでいいよ」
二人の腕を掴み、思いっきり投げられる。
「じゃあ、始めようか」
幽霊は形を変え、中身の人間を放り出し光出す。
身体全体に纏わりつく機械、それは恐怖だけがあった。
ー
なにか混ざっているような感じがする。でもこんなのは些細なことの一つだ。ほら、もう終わる。力を入れただけで爆発を起こせるのだから。抵抗だって無駄だ。刀だってほら、こんな風にパキッとチョコみたいに砕けるのだから。そんな顔をしないでよ。ふぅと息を吹きかける、それだけで壁にぶつけることだって出来る。変な顔だってやってくる。昔、図鑑で見た恐竜て奴だ。おかしいな、もういないと思ったんだけどね。でもいいや、変わんないし。顔を潰してみる。簡単だね、そんな泣きそうな顔をしないでよ。悪者みたいじゃん。腕に力を入れるだけで光線だって撃てちゃうのに。目の前に何かが来る。盾になって防いで見せたけど、ダメだったね。
「ありがとう、私の化け物」
「そう呼ぶのはやめてよ」
「やめないよ、あなたのおかげで大変なことになったんだからね」
「そうなんだ、眠っていたから分かんないや」
「教えてあげるよ、目覚めるまでの時間を」
「うん、ゆっくりでいいからね」
「待って」
か細い声が聞こえる。耳を傾けなくていいはずなのに。
「どこに行っちゃうの?」
手が震えてくる。頭の中に何かが扉を叩いてくる。
「もう帰ってこないよ、彼は」
「なんで、、、」
「だってもう彼はいないもん」
そう、もういない。あの時の傷がすぐに治ったのは治ったのではなく、身体が入れ替わったからだ。
だから、彼に変化だって起こる。
「い、、や、、、だ」
「残念、もう終わり。帰ろっか」
目の前に手を出してくるのと遠くに見られるその手、掴むのはどっちだっけ?
パチンとデカい音が聞こえた。目の前の子は驚いた顔をして頬を抑えている。
「何考えてるの」
「え?」
「だからなんで私をぶったの!」
「いや、そんなことはないよ」
「嘘!じゃあその手は何?」
「へ?」
「ふざけないで」
「ふざけてない、これでいい」
声が出ない、混ざる水が彼の主導になってしまう。
力が入るのが分かる。止められない、これは。
背中が外れる。軽くなるのが分かる。
「重たいんだよ!」
そのまま彼女達に投げつける。
「もう、変わったんだ」
あまりにも声色が裏返っている。強がりを言っているようにしか見えない。
「悪いけど、逃げさせてもらうよ」
「出来るの?ボロボロの三人を連れて」
「出来ないよ」
「はぁ?」
「だからこうさせてもらう」
右手に刀と左腕にツノがどこから飛んでくる。
「へぇ、抵抗するんだ。でも私たちが欲しいのは君の中にいる化け物なんだよ」
「そんな感じはしてる。でも時間はもらう」
何を言ってるのだろう。影の中で思う。ほら、黒い機体だって入っていったよ。これで2対1、彼の不利は変わらない。このまま眠ってしまえば、次目覚めた時には終わっている。でも眠れない、彼が激しく動いているから?違う、そんなんで眠れなくなるなら結構寝れてない。じゃあ、なに?無駄な抵抗をしている彼を見ても面白いものは無いのに。
「知ってるよね、バリアを貼れば無敵だなんて子供みたいな言葉!」
「知ってるよ、何回それで俺が鬼になったか」
「じゃあさぁ!諦めてくれない」
情緒不安定かな、あの子は。それはそうか、男の人にぶたれるなんて久しぶりだもんね。
「お前はなんだよ」
言葉を喋らない幽霊は身体を変形させながら彼に近づく。
「もっと喋るぞ、人間なら」
幽霊の身体が止まる。そのまま上を見上げていた。流石に彼は驚いていた。
「この子はね、戦闘用だから。取り上げたんだ、言葉を」
「へぇ」
彼はまだ刀を構えながら、話を聞く。
「でもしょうがなかったんだ。そうしないと居なくなっちゃうから」
彼は刀の刀身を見て何かを確認している。
「たくさんいたんだよ、君が殺しただけどね」
そうだ、彼の身体を借りてやった。
「寂しかったよ。帰ったらさ、誰もいないの」
「そうか、それはすまん」
左腕を外し、刀で切る。爆発が起きて彼は背中を向けて逃げ出す。
「なんだよ、話を聞くなら最後まで聞けよ」
幽霊は形を変えて、口に何かを蓄えている。
「しかも見えなくなるなんて」
彼女は周りを見渡す、多分見えてないはず。
「いいや、また会った時に話そうか」
幽霊の頭を撫でて、その場を後にする。
誰もいなくなったのを確認して、マントから顔を出す。
「あぶねぇ〜」
「あのさ、入るなら早く言って」
「いや、まさか口からビームを出しそうになるとは」
そう、爆発が起こったあの一瞬で放の近くに入りこみ、マントの中に隠れていたのだ。しかも機械を解除していたので、ほぼ裸に近いのであった。
「これだって、その場から消えるように見えるだけだからね」
「だから、助かったんだよ。ほんとにありがとう」
「そう言われると悪い気はしないね」
うんうんと放はうなづく。彼女に声をかけたのは飛んですぐの時だった。ちょうど誰かと話をしていたので、声をかけていたのだ。驚いた顔をして、色んなことを話していたのだ。彼女は悩んだ顔をして、戦闘に出ないという条件を提示してそれで納得してもらった。
「じゃあ、帰るか」
「そうだね、この子達も連れて帰らないとね」
ボロボロの三人が横たわっている。
「そうだな」
彼の心は分かる。不安、恐怖、自分の実力不足を嘆いてる。それでいい、それで頼って欲しい。そしたらまた会えるから
ー
空気が重すぎる。それもそうか、あまりにも戦いになっていなかった。機体の安全装置が作動していたからこんな軽めでいるが。
「負けたな〜」
先生がため息をついてベッドに頭をつける。
「そうですね〜」
俺はりんごの皮を剥いている。
「私だってさ、強いんだぞ。昔とった杵柄だってすごいのにな。心折れちゃうな」
「強かったよ、先生は」
「まぁ、誰かさんが邪魔しなかったら倒せたかもしれないけどな」
ザクっと包丁の鈍い音がする。
「それは、、、ごめん」
「いや、お前じゃなかったんだろ。ジョークだよ、ジョーク」
「今のはやりすぎじゃ無い」
「そうかな、こんなに空気が重いんだ。少しぐらいは軽くしたいよな」
「分かるけど、その気持ち」
「そうだよな」
カットしたりんごを皿の上に置く。
「上手くできたな」
「ありがとう」
先生はりんごをつかみ食べ出す。
「あいつらにも渡してやってくれ」
指を指して、出入り口を示す。
「いいけど、これは食べてよ」
「分かってるよ」
部屋を後にして扉を閉める。その場で足が止まってしまう。あの人、強かったけどな。自分の指が震えているのが分かる。意識が混濁していたとはいえ、あんなことが出来てしまった自分が怖い。もっと強くならなくちゃな。
「泣かされましたの?」
「え?」
ジョニーが下からこちらを覗いていた。
「いや、ほら、反省だよ」
「にしては悔しそうですわね」
「そう、、、見えるのかな」
「見えるだけですわよ」
首を横に向けて立ち上がる。
「身体は大丈夫なの?」
「全然、ダメですわよ」
「あ、そうなんだ」
ジョニーは顔が萎んでいく。
「機体だってボロボロ通り越して、お釈迦ですわよ。これでなんと言われるか」
「そう、なんだ」
「まぁ、いいですわ。量産機には興味がありましたので」
「ごめん」
「いいですのよ、あなたがやったわけでは無いので」
「でも力不足だよな」
ぐっとまた力を入れてしまう。
「あら、力を入れすぎですわね」
ジョニーは俺の手を握る。
「え?」
「気をつけませんとね」
手の甲にキスをされて向こうに歩いていった。
やばくないか、今の。目をパチクリと開けるくらいには動揺するし、心臓の動悸だって早くなる。
ち、ちょっと汗かいてしまう。喉だって乾く。
近くの自販機にお金を入れてジュースを買う。
炭酸がついた水を買ってしまった。しまった、俺あんま得意じゃないんだけどな。動揺してているな。
もう一回買うしかないか。
「ねぇ、聞いてる?」
「へ?」
照がジュースを持ってこちらを見ている。
「聞いてなかったんかい」
「ごめん、考えごとしてて」
「いいよ、珍しいねそれ飲むのなんて」
「間違えたんだよね」
「じゃあ、ボクのあげようか。蓋、開けてないし」
俺に渡そうとする。甘いジュースであった。
「これって好きなやつじゃん」
「まぁ、暗そうな顔してたし。あげる目的だったんだけどね」
「ありがとう」
「いいよ。だけどその代わり炭酸水ちょうだい」
ちょうど持っていたので渡した。
「もう一本ぐらい買おうか」
「いいよ、これだけで満足だよ」
気にしなくていいのに見てしまうのは、悪い癖だと思うけど。
「開けられないの?」
「いや、その、部屋に戻ってあけようとおもって」
嘘かな、右手の震えている様子が見える。
「ごめん、開けるくらいはしたほうがいいよね」
「そんな考えなくてもいいよ」
「いいや、やります」
プシュと音がなり、炭酸が飛ぶ。
「別にしなくてもよかったのに」
「開けられないともったいなくない」
「ごめん、こんな状態で」
「謝らないでいいよ。手伝えることがあったら言ってよ」
「そう、だったらわがまま言ってもいい?」
上目遣いで見られる。
「うん、なんでもするよ」
「じゃあ手を繋いでもらっていい」
「それぐらいなら」
「ありがとう」
震えている右手を見せてくる。そこに俺はぎゅっと握る。
「伝わる?」
「うん、大きいね」
「それなら良かった」
「もうちょっとこのままが良いかな」
そのまま照は自分の頬を俺の手につける。
「いいよ、好きな時間まで」
言葉は聞こえてないのか、代わりに寝息が聞こえる。疲れすぎてるな、これは。誰かに見られたらなんて言い訳しようか。そんなどうでもいいことを考える。炭酸の泡の音がよく聞こえる。




