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寄宿  作者: すいか公爵
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第五話 思い出と真実

僕は帰ってきた。城は楽しかった。防具・武具の展示やけん玉などの昔のおもちゃ、絵の展示もあった。

「行って正解だった」

僕は大満足だった。

 ホテルの一階から階段を使い、上へ。部屋へ戻ると時計は8時だった。

「え! もうこんな時間か。確かに城以外にもいろんな所ふらついたが、そこまで時間を使った感覚無かったんだけどなあ。……まあ、とりあえず風呂だ」

僕は着替えを持って地下へと急ぐ。さっき駆け上がった階段を今度は下りていく、忙しく階段を上り下りしたので、少しばかり目が回った。

大浴場に着くと、僕は脱衣所で服を脱ぎ、サッと入る。浴室は誰もいなかった。朝と同様に一人の風呂だった。

しかし、僕が桶とイスを取ってシャワーの席を決めて座ると、間髪いれず、あの二人組みがやってきた。これも朝のときと同じだった。

その二人は話を続けながら浴室へと入ってきた。

「……いやあ、それにしても今日も疲れましたね」

「今日は奔走したからな。目撃の口コミとかはこのホテルが中心だから、地縛霊の類だと俺は推理したんだがな……」

「地縛霊という線で、調査がんばりましたけど、手がかりは見つかりませんでしたね……」

「まあ落ち込むなよ。熱海の爽快さを肌で感じられたし、これはこれで、よかったんじゃないか?」

「まあ、そうかもしれませんね」

「いよーし、まあ、明日ここを出るし、楽しい思い出だったって事で」

「そうですね」


(こいつらは、今日もまた失敗だったようだな、明日帰るみたいだし。結局のところ、お化けなんていなかったんだよ)


「いやあ、しかし、先輩」

「ん? なんだ」

「秋口にしては暑いですね」

「そうだな、もう9月中旬になろうっていうのに。ひどい残暑だよ、全く」


(9月中旬? 嘘だ、俺は8月の頭に泊まって、それから予定の1週間。そんで、追加のもう1週間だから、計算では8月の中旬ぐらいだ。どういうことだ!?)


「いやあ、でも今回なんつーか体験したのにな、怪奇現象。フロントに言ったら、そんなのは気のせいだとか言われて」

「まあ体験では証拠としては弱いですからね。嘘だと言われたら反論も難しいと思いますし」

「でも、ビビったぜ、ウワサの5階の部屋。「締切」とか書いてあっても開くんだもんな」

「部屋も掃除されてないみたいで、ホコリまみれでしたし」

「そうそう、電気は点いたんだよ」

「それで、なんか先輩と話しているといきなり胸辺りを強く小突かれた感じがして」

「そう、で、()されて外に出たっていうか、出されたっていうか。あの時は確かにお化けの手応えがあったんだけどなあ」

「お化けなのに手応えですか、ハハ」


傍らで聞いている僕は驚愕していた。

(……俺、なのか?)

けれども、ここ数日を思い出した。そうだ、地縛霊だったらホテルからは動けないはずだ。そして、あの感動の感触、死んでいるなら得られないはずのものだ、絶対に。俺はロープウェイで感じた。忘れない。生きるものを、ことを、見たんだ、この目で、確かに。

「嘘だ、俺は生きている! 間違いだ、死んでいるなんて!」

その刹那、頭に激痛が走る。

「グアッ……」

ひどく痛みがして、僕はうつむく、座っている膝の間に頭をうずめる。

そうしている間に少し治まった気がして顔を上げると、衝撃の真実が顔をのぞかせた。

「そん……な………」

鏡には、額を大量の血で染めた人の姿が映っていた。

「なんで……? どうして……?」

鏡の痛々しい姿をよそに、痛み自体はだんだんと治まっていった。

すこしずつ冷静になっていく間、唐突に変なことを思い出した。とある映画のセリフだった。


『お化けは、自分にとって都合の悪いことは見えなくなるんだ』


「そうか……、だから部屋もいつも通りきれいだったし、ドアに「締切」の文字なんか無くて、頭洗っても今までは鏡には見えなかったんだ」

 すると、また別の映画を思い出した。少し考えてから、立ち上がって、ガラス戸のほうへ行った。戸から脱衣所のほうへ身を乗り出した。電気を消してみた。暗くなった浴室を見ると、例の二人が慌てているのと共に、湯船の奥のほうに光が円く差しているのが見えた。

「行けるのか? あの光で?」

その映画では、死んだ場所の近くに光が差し、そこに入ると吸い込まれるように昇天した。僕がここを死んだ場所だと思ったのは、「ここにいる時だけあの頭の痛みが起きるから」だった。電気を消したのは、浴室の照明が強いために光が見えなくなっていると考えたためだ。

 俺は死んだ者だったんだとようやく理解できた。そして、びっくりしていた。冷静に驚いていた。

「でも、ここで感じた事は全部本物だったんだよな、嘘じゃないんだよな」

 目をつぶって思うと、心に浮かんでくるものは自然の風景だった。もしかしたら、僕が求めていたものはそれだったのかもしれない。そうであるならば、僕はここでそれをよく見ることができたのではないだろうか。漲るようなものを感じることができたのではないだろうか。それなら、もういいのではないだろうか?

 僕は生きている気持ちにけりをつけた。死んだことをなんとか受け止めた。

 けれども一つだけ心残りがあった、熱海を去ることだ。色々教えてくれた熱海を離れるのが辛かった。空気はいいし、涼しいし、海はきれいだし、山もきれい。名残惜しかった。ずっと居たかった。

 なかなか動けない僕だったが、ふと気がつくと頭を上げていて、なんとなく浴槽の光を見つめていた。

 俺の世界はここじゃない、光を見つめているとひとりでにそう思われた。

「そうだよな。もう終わったやつが、途中の人たちに迷惑かけちゃいけない。人の障害になっちゃいけないよな」

僕は浴槽のほうへ向かった。ザブンと足を入れ、ずんずん奥へ、光の差すほうへ行った。円い光は、ちょうど僕の体が収まるくらいだった。

 数秒置いて、スーッと体が浮かび上がった。昇るにつれて、だんだんと粒になっていく、光になって消えていくのが分かった。

「ありがとう」

そこからはもう何も知らない。

――

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