第四話 熱海城
自室に入ると、ひとまず窓を開けた。さわやかな風が窓から入る。昨日寝過ごしてしまった分を取り戻す、そんな意気で仁王立ちをしていた。
テレビをつける、7時5分。テレビを消して、電気消す。出口へ向かう、靴を履く。部屋から出る、カギ閉める。階段下りて、外へ出る。
朝の日差しは想像していたより少し強かったが、僕はそのまま意気揚々と出かけていった。
(どこへ行こう?)ワクワクしながら、歩を進める。
「そうだ! 熱海城に行ってみよう。海なら少し歩けばいつでも行けるし、たまには気分転換で城というのも良いだろう。それに、ロープウェイからの景色も楽しみだ」
さっそく、ロープウェイの発着所を目指した。どこにあるか位置は把握していなかったが、城のある山からワイヤーが垂れているのが見えたので、その方向を目指して歩いた。
程なくして、ワイヤーの端を飲み込んでいるような建物を見つけた。(これだ!)と思い、僕はその建物に入っていった。
一階はなにやら筐体のゲームが複数置かれていた。その近くに、ロープウェイ乗車券と書かれた古びた券売機があったので、すこし不安に思いながらも僕は券を購入した。そして、2階へ行ってみると、ちょうど出発手前だったようで、ロープウェイはほぼ満席で、係員さんが数人忙しそうにしていた。
「まもなく発車いたします」
係員さんのその声を聞き、僕は焦りながら一階の券売機で買った乗車券を切符箱に入れた。そして、少し小走りしてピョンと軽く箱に跳び乗った。
「気をつけてください」
そう言われて、僕はすこし申し訳ない気持ちになった。
係員さんがドアを閉め、安全確認をする。
「異常なし、それではロープウェイ発車いたします」
そう言うと、ガクンと動き出した。最初は不安定なようで、箱はユラユラと大きく揺れていた。足元にいた小さな子はちょっとビビっている様子を僕に見せた。しかし、少しずつスピードに乗ってくると箱はだんだん安定して、揺れは少しずつ治まっていった。景色のほうも最初は工場などが見えるばかりで面白みに欠けていたが、煙突を下に置き去りにして中ほどまで上がると、大きくそびえる山と水面の輝く岬が見えた。
相対する二つのものを一緒に見られたような気がして、興奮した。
(海と山か、違うけれど一緒なんだな)
少しずつ高くなっていくと風景もだんだんと変わっていく、自然が生きていることを感じられた気がして、とてもワクワクした。
(これがリアルだ、この景色こそが現実なんだ!)
山を上っていくその数分間は、僕にとって奇跡の時間だった。
山上の発着所に着いて下車してみると城までまだいくらか山道が続いていた。
(健康志向の僕にはちょうどいい)
そう思いながら、意外と急な坂道を上っていった。
山の頂に立つ熱海城は、城の雰囲気をほのかに醸し出している建物だった。荘厳というより、新しくて見栄えが良いといった感じだ。
さっそく天守へと僕は向かった。最初は階段で上っていったが、とても段差の大きな階段でしかも最上階まで思いのほか長かったので、三階からエレベーターを使った。
最上階に着いてエレベーターが開くと高所特有の涼しい風がエレベーターの中に吹きこんできた。僕はすぐさま降ると、天守から景色を眺めた。風が強いのが快かった。海を見れば沖のほうまで見え、山を見れば頂が見えた。積乱雲が沖のほうに浮き、空の真ん中では太陽がぎらぎら燃えていた。僕は、年甲斐も無く、はしゃぎながら山の上の城の上まで来たので、少し息が上がっていた。ちょうど天守内に座るところがあったので、そこに腰を落ち着かせた。
「良い旅の思い出になった」
僕は安らかな気分になって、目をつむった。
一〇分ほどそうしていると、息の調子が戻った。落ち着いた僕は、とりあえず城の中の展示物でも見て回ろうと思って立ち上がった。エレベーターは最下階に行ったようで、待っている間は立ちっぱなし、ひどく足がしびれた。
一通り展示物を見終え、さて帰ろうと思い、エレベーターに乗った。一階に着き、出口に向かおうと思ってエレベーターを降りたそのときだった。小学生高学年くらいの子どもが僕のすぐ前を横切った。僕は急に来た彼らに驚き、またぶつかりそうになったので体をのけ反らせた。
子どもたちは振り返ることなく、階段のほうへと消えていった。それから、ドタドタと下の階へ降りていく音がした。
「危なかったな、今の子ども」
僕は何も言わずに行ってしまったその子どもたちに少々腹が立ったが、子どもの元気であるからまあしょうがない、と気持ちを抑えた。
きっとあの子どもたちも、ここに来るのを楽しみにしていたのだろう。だからこそ、猛スピードで駆けてきたんだよな。
そうして、僕は熱海城を後にした。外に出るとロープウェイ乗り場に向かう。行きでは厳しい上り坂も、帰りは楽な下り坂に変わる。昨日のような雨であれば、足元に注意しないと滑ってしまいそうだが、太陽の光でおおかた乾いているのでその心配もない。僕は楽々と坂を下っていく。歩き始めてすぐに発着所が見えてきた。




