↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生王子  作者: 弓師啓史


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/37

34 混沌と英雄たち1

 翌日。


 俺は北平原城に居た。

 オーベとの面会。

 ロムもいる。

「王子、久しぶりだな。早速だが本題に入るぜ」

 オーベが口を開く。

「……」

 ロムは無言の会釈。

 主にオーベと話す。

 オーベとの会話に前置きなどはない。

「ダナさんの居場所だけど……悪いがわからない。国内にはいない可能性が高いとしかいいようがないが、国外でも活動のうわさがない。神界でも地獄でもいけるらしいから、彼女が出てくるつもりにならないと接触は不可能だろう」

「そうですよね。僕もそう思います」

「あと、レイド王国の動きだが、どうもレイド王国は急速に結束を固めているという噂だ」

「どういうこと、分裂しまくってたんじゃないの?」

「今のところ、恐ろしくガードが固いのでわからないのだが、……何かの災害が起きて戦争どころじゃないという噂だ」

「災害?」

「ああ、それがよくわからないのだ。間諜を放っているが、死亡率が高くてな。たぶん核心地点はあんたと行ったゲール地方だと思うんだが……」

 薄暗い曇り空に死骸の山が思い浮かぶ。

 俺は首を振る。

「間諜の死亡率が高いなら、無理はする必要はないよ。その内に一般情報が出てくるだろ、災害なら」

「そうだな、腕の立つ奴に死なれたら損失が大きすぎる」

「全くその通り、危険は犯さないように部下に伝えてくれ」

 隠密は本当に貴重なのだ。

「吸血鬼の動きは?」

「これは全く不明だ、しかし、動きはない」

「『港』の現状を教えてくれ」

 俺はロムを見る。

「海路を遮断されて、人型の海賊=守備兵は減っている。しかし、ガルディアの属領一個で留められる時間は短いだろう。戦力で見たら今以外攻めるときはない」

「攻城兵器があまりないが」

「叔父に頼んで幾つか揃えた。上古人の作った壁だから手間はかかるが、不可能ではない」

 ロムがこういうなら自信はあるのだろう。

「わかった、兵を動員しよう」

「陽光騎士団だけでいい。後は俺の兵でやる。民兵は動員しても出番はないだろう」

「後詰めと不測の事態対応はいるからね、こちらが必死になってるときに背中襲う奴いるから。突入部隊には使わないけど民兵の中で腕自慢だけ動員するよ。あと冒険者と七剣は連れて行く、アモンも来てくれるといいが、コレットさんはダナと連絡とれないか? お見合いの件もあるし」

「コレットは既にメッセージ魔法を使ったが、返事はない。ダナが返事するつもりがなければこちらからはどうしようもない」

「こちらの意志は伝わってるならいいよ。そうだ、『港』攻略のことも伝えてくれないか」

「ああ、彼女が来てくれたらかなり話が違う」


 それでも、兵を集めて『港』の包囲には十日程度の時間を要した。

 これでも必死の速さである。

 装備をそろえ、食料を手配し、人員を選抜し……事前にかなり時間をかけて用意したものもあったので、普通よりはかなりスムーズだったが、それでも時間は必要だった。

 怪魔の巣『港』を包囲した兵は俺の王子部隊が五千、内三百が陽光騎士団。他は騎士と屯田兵である。ロムが三千、オーベが五百。北平原城にはルキノを将軍として残し、アモン、ミレーヌ、ケイ、ローセン、サンディの五人が参戦することになる。エルネッド、ヒルマンとリーン、ドゥリンは、城の守備に残った。

 冒険者は五十人ほど、以前と違って、民兵上がりみたいなのはほとんどおらず、装備も種族もバラバラだが野心的で非常に高い腕前の奴が多い。

 彼らも相当使えると期待していた、

「田舎の軍隊としてはマシな方ですかな」

 ハイエルフのおっさんフェルリンのありがたいお言葉。

「王子、ダナさんが来る可能性が非常に高いですから、我々も同行します」

 ハルダン、美人のエルフメイドを五人ほど引き連れて非常にチャラい雰囲気である。

「惨めな装備ですな。これでは犬死するだけだな」

 マエグペンの嫌味。

 マジで来るなといいたい、本気でウザい。こいつも秘書っぽい美人エルフを連れている。

「いやぁ、お恥ずかしい。しかし、この田舎ではこれが精いっぱいの装備なんです」

 屯田兵には何とか装備が行き届いているが、金属鎧の比率は低い。

 軍は『港』を半包囲するように囲む。

 中央は俺の部隊。南方からロム。東北から冒険者とオーベ。



 敵に動きはないと思っていた矢先。突然、門が開いておぞましい混沌の軍があふれ出す。

 主に半魚人、水棲のゴブリン、にやにや顔の海賊。

 ちなみに、海賊共にやにや顔は人面疽がじわじわと体を乗っ取り、やがて顔を失ってにやにや顔になる。おぞましい成れの果てなのである。

 人面疽が顔面にまで達すると、本来の顔を失い、完全に正気を失う。そうなってしまうと、海賊船長たちのいいなりになって悪の先兵として働くことになる。

 完全に支配された者が助かる見込みはほとんどないらしい。

 しかし、ゴードルフ島で天使の光を浴びた連中は人面疽が消失して正気を取り戻した。彼らは海賊への恨みもあり、かなり協力的な熟練兵集団で大いに助かっている。

 混沌軍団は真っ直ぐ向かってきて、ロムとアモンが率いる陽光騎士団と冒険者軍に激突する。

 一騎当千の兵士たちの上に、更に、ロム、そして、水の魔力まで得たアモンが立ちふさがるのだ。当然のように混沌軍はそこで立ち往生することになる。

 数も大したものではない。八百程度だった。

 水気を得たアモンはさらに安定が増したようで、発作に襲われることはなくなった。顔面は未だに不安定だが、どうやら、コントロールできるようになったという。ナルドリスはあまり変化がなかった。アモン曰く、大地の時と同じく防御性能が上がったらしい。

 アモンは剣を抜くと、牡牛のように突進する。そして、ナルドリスを縦横無尽に振り回すと、装甲があろうが、体重が桁外れだろうが、そんなものはお構いなしに、一刀両断していくのだった。

 人間やゴブリンなどは当たり前のように死に、強靭な鱗を持つ半魚人も紙切れのように真っ二つである。一撃の毎に光輝がほとばしり、敵の目を眩ませる。敵の戦線はアモン中心に簡単に崩れている。

 他の英雄たち、サンディはアモンの背中を守っているだけだが、ケイもアモンに負けじと次々と敵を屠っている。

 女戦士としては最上級だが、アモンと似たような戦士なので総合的に彼に及ばないのはわかる。威力も剣技もリーチも速度も全部アモンが上なのだ。ローセンは浮かぶ剣で半魚人と戦っているが、装甲が硬すぎて全く歯が立たないようだった。

 尚、ミレーヌは俺の護衛で傍らにいる。

「ローセンだけ苦戦してるね。所詮こすいセコ技。おっさんがイキリ倒しても勝てない奴には勝てないのだ」

 俺はローセンを酷評する。

「武器が合ってないですよね。鈍器とかピックを使うべきですよ。陽光騎士団にもいえることですが」

 ミレーヌは望遠鏡を見ながらつぶやく。

 ちなみに俺は義眼の能力で望遠鏡がなくてもかなり遠くまではっきり見える。

 陽光騎士団も冒険者も半魚人には苦戦しているようだが、冒険者の内、魔法使いが使う岩弾魔法がかなり有効に見えた。

「あの魔法使いが使う岩弾が有効のようだ。大地属性の武器を作ればなんとかなるかな」

 半魚人は硬い。

 手練れの戦士たちも苦戦しているが、半魚人は破壊力がないので、重装甲の騎士団員や冒険者の鎧を槍で抜けない。

 お互い金属の装甲を叩き合うという戦場になっていた。

「あの黒い鎧の戦士は何者なのだ。ハイエルフの戦士でもあれほどの手練れはおるまい」

 マエグペンが驚愕している。

「おお嫌だ、何という気持ちの悪い敵なんだ。僕は早く自分の屋敷に帰ってくつろぎたいよ、お前たちとゆったり過ごしたいのだ」

 ハルダンは戦場でメイドたちとイチャイチャしている、正直いって胸糞悪い。

 フェルリンは無言だった。よく見ると冷や汗をかいている。怯えているのだ。ある意味彼が一番人間的な反応だった。

「ダナは来ないのか」

 マエグペンがありがたくも俺に言葉をくれる。

「連絡は送りましたが、彼女次第ですね。返事はないです」

 敵の将軍は半魚人の体に人間の頭を真横にして乗せたような不気味な生き物だった。戦況が不利であると悟ったのか、一声吼えて、軍を引き揚げさせる。追撃による犠牲などもお構いなく、背中を見せて全力で撤退した。

 逃げ遅れを多少見捨てても、あっさり街門を閉じる様子を見て、突入はあきらめる事にする。

「よき判断ですぞ王子」

 ローランド、軍事顧問として彼も来てくれている。

「しかし、このままこもられると厄介だね」

「敵は狂っていますが、愚かではありません。正攻法しかないでしょう」

「うん、そう思うよ、僕も」

「敵の内情を偵察できたらいいのですが、王子、あの小鳥はどうされました」

 ローランドが髭をひねりながら聞く。

「南の島で術が解けて逃げちゃったんだよね。忙しくて忘れていたよ」

 俺は苦笑する。考えてみたらかなり重要なことだった。

「あのバカな鳥の重要度は俺ほどじゃないけど、偵察だけには使えたからな」

 モフオ、その自己評価おかしいし、ピースケの方が圧倒的にお役立ち使い魔だっただろ。


「あのー、ちょっといいゲスか?」

 突然、後ろの方から聞きなれない声がする。

 後ろを振り向くと、羽の生えた極小のゴブリンみたいなのが木の枝に止まっていた。

「うわ、何だ、こいつ。化け物か?」

「何奴! 王子を狙うとは不埒者め!」

 ズバッと剣を抜くローランド。

「待つのです、王子。そいつはグレムリン。魔法使いの使い魔では一般的な生き物です」

 マエグペンが教えてくれる。

「これはありがとうでゲス。ハイエルフの旦那様方」

 グレムリンは礼儀正しく頭を下げる。

「早く用件をいうのだ」

「あっしは『滅殺魔女』じゃなかった『白銀の乙女』ダナ様の使い魔でゲス」

「へぇ、ダナさん使い魔も使うんだ」

 彼女がそのような生き物を使っている所を見たことがない。

「それよりこの書類をどうぞ」

 グレムリンは数枚の紙を束ねたものをくれる。

 紙に書かれているのは、『港』の俯瞰図と敵兵の配置を詳細にレポートしたものだった。

「凄い、これはいつの情報なんだ」

「それは今あっしが上空偵察してきた結果でゲス。ダナ様の使い魔であるこの俺はたかい知能があるでゲスよ」

「これは助かるよ、しかし、君が極悪海賊の手先という可能性も否定しがたい」

「それは心配ご無用でゲス。紙の隅に魔術署名があるでゲス。それはダナ様の署名で偽造不可能でゲス。あっしは署名された紙を託されたゲス」

 ゲスゲスと鬱陶しい喋り方をする奴だ。

 確かに、何やら花押のような紋章が隅に書いてある。

 マエグペンに見せると、

「フム、こいつが言うようにこの紙はダナの認証がある。奪って使えるようなものでもない。信頼性は高いようだ」

「素晴らしい、では、今日は態勢を整えて、明日、この図を基に総攻撃いたしましょう」

 ローランドがひげを撫でる。

「おい、お前の御主人と我々が会いたいと伝えてくれ。必ず来るように念を押すのだ」

 マエグペンが厳しく言い渡す。

「わかりました、ハイエルフの旦那様方。でも、あっしの説得に耳を貸すお方ではないでゲスよ」

「ハイエルフ評議会の命令なのだ、しっかり伝えろ」

「あんまりダナ様に強くいうと、味噌付けて頭から丸カブリされる可能性があるでゲスからねぇ」

 恐怖の表情を浮かべるグレムリン。

 さすがにダナさんでもそれは大げさだろ……多分。

「お前のちっぽけな命と、我々の重要な用事。どちらが上かわからんのか」

 マエグペンの冷酷な表情。

「わ、わかったゲス。頑張りますゲス」

 そういうとグレムリンは消える。


 その日の夜、主だったものを集めて軍議が開かれる。

 集まったのは、俺、アモンとその弟子、ローランド。ロム、オーベ、その他幾人かの地方領主。

「この地図は?」

 誰かが問う。

「ダナが魔法で作った物です」

 信憑性などに関する問いがあったが、それは先ほどと同じ説明で概ねの諒解を得たようだった。

「半魚人の人間首連中は中央の城に集結しているようです。『儀式』と記入がありますから、何かの魔術を行っているのでしょう」

 俺は説明する。

「城の内部が判ればいいのだが」

 ローランドが述べる。

 ロムとオーベは顔を見合わせるが首を振る。

「内部への潜入調査は危険すぎて行っておりません」

 オーベが事務的に答えた。

「それは仕方がないよ。隠密を失う方が痛い」

 何度も同じをことをいっているが、熟練の隠密は貴重なのだ。

 戦士より重要な存在だった。

 専業戦士の仕事は農民を動員してもある程度は代用が効くが、隠密には代わりになる何かはない。

「不思議と中央が手薄ですな。一気にはしごをかけて突入できそうですぞ」

 領主の一人が口を開く。

「罠ではないのですか」

 他の領主。

「兵の配置はわかっている。伏兵ということもないだろう」

 あまり発言の多くない会議だったが、どうにか中央突破策でまとまりそうな雰囲気だった。しかし、

「王子、来客が……」

 伝令が耳打ちする。

「今は会議だ、少し待っていただくように」

「それが……」

 ぎょっとして、件の人物を招き入れようとしたが、

「会議なのね、ちょうどいいわ」

 勝手に入ってくる女性。警備兵は何やってんの?

 細身で背が高い銀髪の美女。

 ダナだ。

 ハイエルフの『白銀の乙女』別名『滅殺魔女』。

 美しい白銀のドレスの上に、似つかわしくない巨大猪の皮を剥いだフードマントを羽織っている。

(あれ? どこかで見たような……)

「ご婦人はどなたなか、我々は軍議中なのだ、時を改めて頂こう」

 領主の一人がとがめる。

「やめておけ、あの女がダナだ」

 誰かがいうと、会議は静まり返る。

「待っている時間なんてないのよ。あなたたちの結論聴いたわ。正面突破すれば全滅することになるわよ」

「それはどういうことですか」

「私が説明するより、私の『友達』に聞いた方が理解出るわよね」

 そういうと、数人の者たちが会議室に現れる。

 それは三人の存在、あえて人間とはいわない。二人の巨漢のオークと、一匹の半魚人。それも人間の首が据え付けられている幹部クラスの半魚人である。

「オークだぞ! しかも、あの気持ち悪い半魚人まで」

「ヒィ! 化け物だ!」

 ケヴィンの叫びが聞こえる。彼は南に行って以来、化け物に対してあからさまな恐怖を感じるようだった。

 半魚人は鱗の生えた直立歩行の人間のような体と、首だけ切り取れば美青年といっていい端正な顔が斜めに生えている。

 よく見ると、気持ちの悪い触手のようなものが生首を貫いて支えているようだった。

「だ、だな、あなたのことを愛しています」

 半魚人はかすれた声でつぶやく。

「愛しているなら教えてくれるかしら。正面から突入したガルディア軍はどうなるの」

「中、中庭に集結した時点で、深海の王である『星の息子』が混沌の原初物質をぶちまけて、無残な変容を促す」

「皆殺しにするのね」

「そ、そうです、愛する人」

「わかったかしら、あなたたちは罠に飛び込むことになるわ」

「ご、ご婦人、その化け物の言葉は……信用に値するのですか」

 絞り出すように、騎士の一人が質問する。

「彼は私の『友達』なのよ、嘘なんていわないわ」

 ダナは表情一つ変えずに断言する。

 何らかの魔法で心を操り、それに絶対の自信があるのだ。

「しかし、広い正面を無視して突撃するには、両側から無理に侵入することになります、それはそれで苦しい戦いになりますぞ」

 ローランドが地図を指し示しながら発言する。

「そうね、城壁までは占拠したらいいわ。『星の息子』が顔を出した時点で私が隕石を落とす。そのタイミングを待ってほしいの」

「なるほど、それならば、我兵が突撃しても……しかし、その化け物は一般の兵で相手できるものなのですか」

 ローランドがさらに突っ込みを入れる。

「私が知ってるのはその『星の息子』がとんでもない化け物の半神だということだけよ。魔法の武具を持たないような一般の人は相手にもならないわ」

「そうですか……勝算はあるのですか、わが軍に」

「普通に考えて……低いわ。私とアモン、そして、その聖剣を持った子、その三人以外は『星の息子』に立ち向かえば、ただ死ぬだけよ。魔法の武具があれば完全な無抵抗よりましというだけ」

 何とも無情な言葉を放つダナ。会議室に動揺が走る。

 名指しされた二人は会議室にいる。

 二人ともあまり発言しないのだが、名指しされてミレーヌは俺の方を見る。アモンは微動だにしない。

「私は多大なる援助を王子から受けた。恩に報いるためにも他の方はその化け物に向かわないでほしい。私が一人で戦う」

 アモンがぼそりとつぶやく。

「師匠を一人で行かせはしない。僕も行きますよ、一番弟子ですから」

 ミレーヌも力強く宣言する。

「話は分かってもらえたかしら、一般兵レベルの人は雑魚を掃討することだけ考えるの。王子は……あんただけはちょっと違うみたいだから、参戦しなさい」

 変な迫力で断言するダナに俺は抵抗できず、

「はい」

 と思わず答える。

「じゃあ、明日の未明から戦うから、全軍準備しなさい」

「おい、何で我々がこの女の言葉に従わないといけない、それに、何なんだあのオークは、敵ではないか」

 領主の一人が不満の声を上げる。

「ダナさんは一般的な常識で語るような存在ではないぞ、それに彼女は僕たちと一緒に長く王国の利益のために戦った実績がある。王子として彼女を信じる理由があるんだ。ここは彼女に従ってほしい」

 俺は思わずそう宣う。

 押し黙って反論するものは無かった。

「下等な種族にしてはわかってるじゃない王子」

 ダナ、全くその口を瞬間接着剤で塞ぎたい。

「何だと、我々を下等だというのか!」

 騎士たちがの怒りの声。

 怒る人々、しかし、気のせいか頬を赤らめる一部男子がいる。

「もういい! 今は緊急事態なのだ。逆らうなら反逆罪に問うぞ!」

 俺は珍しく怒声を出した。なりふり構っていられないのだ。

「……」

 会議室は鎮まる。

 俺が怒鳴ることなんて滅多にないことだったから意外だったのかも。

「中央城壁突破の後は両サイドに広がり、敵の拠点を潰す。怪物が顔を出せば英雄たちに任せる。これでいいですな、皆さん」

 ローランドがまとめる。

 特に反論はなかった。

「魔女め……」

 微かにつぶやきが聞こえる。

 ダナを憎悪の目で見る人々気持ちは静められなかったが、仕方がない。


「ダナさん、気を付けてくださいね。味方でもあなたのことを敵視している人間もいますよ」

 やはり、公の場での下等呼ばわりは、血の気の多い奴らの怒りに火をつけただろう。

「いいのよ、私を憎む人間なんて今更多すぎて数えられないぐらいいるわ。オークたちも大半は私を殺したくてうずうずしているはず」

「そういえば、なぜオークを連れ歩いているんですか奴らの態度見てると、なんだか物凄く平伏してますけど」

 会議が終わって、主だったものとちょっとした夕食を取っている。

 ダナと俺、アモン、ミレーヌがいる。

 天幕の外にはオークの凶暴そうな戦士が数名、片膝ついて、ダナの命令を待っている様子だった。

「彼らは私を大オーク王と呼ぶわ」

 ボフ! 俺は思わず、食いかけたパンとワインを噴き出す。

「うわ! 汚い!」

 モフオがジャンプして俺の噴き出したものを避けた。

「ど、どういうことです。なぜ、ハイエルフのあなたが大オーク王なんですか!?」

「どうということもないわ。乗り込んでいって、逆らう奴らを叩きのめしただけよ。オークは力社会なの。私に逆らえば隕石。暫く続けていたら私を大オーク王にしたいって、奴らの族長会議がいってきたの」

「奴らの社会なんかに入って、暗殺とか、危険はなかったんですか?」

「私には冒険者仲間もいるから、護衛を頼んでいるのよ。最近は要らないみたいだけど。それに、私も冒険者だから、隙なんてないわ」

「背後からズブリとかあるでしょ、矢で射かけられたり」

「どうせ種明かししても、対処のしようもないから教えてあげる。そういう凶事は『禍』という魔力に変換して、呪詛の力で異界に飛ばしてしまうのよ。私を攻撃するだけ無駄ということ」

「???」

 目が点になる俺。

「つまりだな、不運をおまじないで避けるのと一緒だよ。それの強力版だ」

 モフオが説明してくれる。こいつこんな知識もあったのか。

 アモンとミレーヌは会話を聞きながら、無言で茶を飲んでいる。

「でも、魔術なら限界はあるでしょ?」

「そうね、あるわ。でも、私に何度も運良く攻撃を当てられる奴がどれだけいるかしら」

 そういえば、殺意を持って近づくとあっさりテレポートしてしまうはずだった。彼女を倒すのは一般的な方法ではほぼ無理ではないだろうか。

 食事を終え、茶を飲もうとしたところで。

「王子。ダナがここにいると聞きましたぞ」「ダナに会わせろ」

 天幕の外から声が聞こえる。

 求婚ハイエルフ男子軍団だ。

「うわ、来たよ、ダナさん求婚者の皆さんです」

 ダナに話しかけようと思い振り向いたが、彼女はうつむいて無言だった。

「ダナ、さん?」

「王子、ダナは寝てる」

 モフオの声。

「よくこんな状況で寝られるね。呆れた」

 俺はため息をつく。

「フフ。これほど肝の据わった御婦人はそうそういない。本当に女にしておくのはもったいない。

 アモンの評価。

 これは褒めちぎっている。しかも、珍しく笑う。

「でも、さすがに起こすべきかな。求婚軍団も無碍にはできない」

「王子、彼女は疲れているのですよ。寝かせてあげましょう」

 ミレーヌが小声で述べる。

「そうだね、そうしよう。ハイエルフの殿たちは僕が説明しておくよ、彼女を綺麗な寝所に誰か」

 そういうと、控えていたオークたちが恭しくダナを持ち上げ、奥の寝所に連れて行く。

 オークたちをよく見ると、ぶるぶる震え、汗をかきながらダナを運んでいる。

 あのオークの凶暴な戦士が恐怖で震えているのだ。

 寝台に恭しくのせられるハイエルフ。

 ダナはいびきまでかいてぐうぐう寝ている。

 ちなみに、猪の皮が彼女を優しく包み込んで寝袋的な感じになっていた。

 やはり、単なる皮ではない。

 ダナの美しい寝顔だけ見てると凶悪な『滅殺魔女』には見えない。思わず見とれていると、猪の頭部の目がギロッと俺を睨む。

「うわ! この皮、怖い」

 俺は腰が引ける。

「おい、俺が拉致されるけどいいのか」

 モフオはダナにいつの間にかつかまっていた。生きた抱き枕という扱いか。

「お前に決定権はないのだ、モフオ君」

「はぁ、面倒臭いおねぇさんだよ、ダナさんは」

 モフオのため息が聞こえる。


 俺は天幕を出て、ハイエルフの男たちと話をする。

「申し訳ないのですが、ダナさんは会議が終わった時点で睡眠されています。戦争のために彼女も多忙なんですよ。皆さまの用件も、明日にされてはいかがでしょうか」

「寝ただと? 起こせないのか」

 マエグペンがイライラしながらいう。

「こんな物騒なところで平気で寝てしまうとは、聞きしに勝る無神経ぶりだな」

 フェルリン、嫌味な口をきく奴だ。

「彼女が明日起きたら、こんな臭いところは離れて首都で話し合いしましょう、皆さん」

 ハルダンの発言。美人の侍女を連れて言葉の軽薄さがさらに増す。しかし、ハルダンの発言のおかげで彼らは渋々去ったようだ。

 彼らが大人しく去ったので、俺はため息をつく。

「明日はたぶん決戦になるよ。みんなしっかり休息して、英気を養うんだ。でも、警戒は怠ってはいけない」

「ええ、その辺りはしっかり手配してあります」

 ケヴィン。最近、情けない面が目立っているが、実務家としては有能なのだ。

「ケヴィン、明日は後方に居て絶対前に出てはいけないよ」

「はい、しかし……」

 俺にも出るなというのだろう。

「ああ、わかっているよ」

 俺たちは天幕に戻って休息を取る。俺はすぐに泥のように眠った。

 どこかで獣のいびきのようなものが聞こえる。

 まさかダナ? 

 ハイエルフがそんな音出すわけないわなと、薄い意識の中で思った。


 朝。

「そういえば、エルフって睡眠時間が短くて済むんだよね」

 俺は簡単な朝食をとりながら、挨拶に来た白エルフ領の将軍『白肌』フローラに声をかける。

「ええ、瞑想をすれば睡眠に代えることができます。普通に寝る必要はありません」

 フローラは年老いた女エルフ。

 非常に美しいが冷酷な感じと、老いた雰囲気がある。

 見た目の衰えはないが。

「ハイエルフのダナさんはいまだにぐうぐう寝てるんだよね」

 思わず吹き出す。

「……あの方は特別ですから……」

 いいよどむ雰囲気。

「何かあるんだね、いつか教えてくれないか」

「ええ、いつか」

「それより、よく参戦してくれた。領土を立てたばかりで余裕もないのに。王子として感謝しますよ」

「滅相もございません、わずかな兵力でお恥ずかしい限りです」

 彼女が率いてきたのは半エルフ主体の兵で、射手と魔法使いが百人ほど。普通の百人の兵よりはるかに強力だが、少ないのは事実だ。

「到着早々申し訳ありませんが、たぶん、今日が決戦になります。兵は乱戦に参加せずに距離を保ってください。白エルフ領の方々に被害にあってほしくない」

「それでは王国に貢献したといえませんわ、わが軍の奮戦をご期待ください」

「それは頼もしい限り、ですが、正面は避けてください、罠があるようです」

「はい、ご忠告感謝申し上げます」

 そういうと、フローラは退席してしまった。


 天幕を出ると、兵は既に準備を開始している。敵に動きはないようだ。

「わざわざ遠くから私に会いに来たのね。ありがとう。でも、今は忙しいの」

 ダナの声が聞こえる。

 見ると、ダナと求婚軍団が話し合っているようだ。

 エルフの貴人が四人もいるのは珍しいことなので、人々はこっそり遠巻きに眺めている。

「ハイエルフ評議会は貴女の婚姻を条件に今までの罪を免除すると申し出ている。我らと話し合うのは貴女にとって損ではない」

 マエグペンの厳しい語感。

 あまり女性を誘惑するような声ではない。

「我々はハイエルフの中でも勝ち組。貴女にとって相応しいと思いますよ」

 もみ手でもしかねないフェルリン。

「そうですよ、こんな臭くて汚い危険な場所は離れて僕たちと楽しくデートしましょうよ」

 ハルダン。微妙にアホっぽい。

 というか、女性を誘うのに、美人の侍女連れてくるなよ。

「評議会に何ができるの、この私に。……そんなことより、目の前の戦いに集中したいの。あなたちが武勲でもあげたらデートしてあげますわ」

 ぐっと詰まるマエグペン。

「……わ、私は指導者であり戦士ではない。将軍に前線に立てというのか、兵なら金でいくらでも集められるが」

「私は戦ったことなんてありませんよ。傭兵でも連れてくればよかったです」

 フェルリン、明らかに冷や汗が出ている。

「こんな戦い、ハイエルフの僕たちには関係ないですよ。ダナさん貴女にもいえることです」

 ハルダン、あくまで軽薄。

「もういいわ! 戦えないような人は終わるまでまっていて!」

 ダナ、珍しく怒っている。

 そういえば怒る彼女を見たことはほとんどない。

 誇り高いハイエルフの貴人たちは誇りを傷つけられてむっとしている。

 しかし、怒って帰るようなことはなかった。

「人間の戦いには関わらないのが我らの流儀。見分だけはさせていただく」

 マエグペンは腕を組んでそう宣う。

「敵は魔物よ。人間対人間の話ではないわ。魔物討伐すら他人事なら、あなたたちの存在には何の価値があるの?」

 そういい捨てて、ダナはその場を去ってしまった。

 あからさまに誇りを傷つけられて、絶句するハイエルフたち。


「あれでは脈ないな」

 モフオが体をペロペロしながらつぶやく。

「ダナさんは筋金入りの冒険者なのだ。一般人感覚の人では振り向きもされない」

 俺はそう答えた。

「指導者や投資家というのだから、もっと肝が据わっているのかと思いましたが……」

 いつの間にかミレーヌもいたようだった。

「あの人たちは親や祖父が凄い事業を立ち上げただけみたいですよ」

 ケヴィンは釣書以上の情報も集めたのだろう。

「それでも、現在成功しているのだから、普通の人よりは上だと思うけどね」

 俺は一応彼らを擁護しておく。

 あまり好きではないが、敵に回したくない。

 とにかく、戦が始まる。

 彼らのことは一旦忘れることとなった。




2021/9/18 文章リニューアルしました。読みやすくなったでしょうか。

2023/4/29 微修正

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。