33 偽物と偽物
島を出てから数カ月経った。
首都に戻り、雑務をこなす毎日。
俺は首都と北平原城を定期的に行き来する。
首都に帰ると、見たことのない人々を目にすることが多くなった。
ガルディアは日々拡大し続けている。
女王陛下の肝いりで、宮殿の増築がなされるという。
単純に政府機能のために手狭になったのだ。
古い上古人の城の横に、瀟洒な館を作る案が出ている。
俺は華美になって予算が増大することを懸念して、極力装飾をしないことを進言したが、女王はやや不満げだった。
「各国の外交官を招くのに、あまり見すぼらしいと格下に思われますわ」
「高価な彫像より、一般兵の装備を強化することの方が重要ですよ女王。戦争に負けたら奴隷になるかもしれません。庶民が反乱しても同じです。外国には侮らせておけばいいのですよ。我が国が脅威ではないと思うなら、軍事的圧迫も受けません」
「王子さすがです。女王陛下、王子のお考えは聖王に通じるもの。華美を避け、なるべくシンプルに美しいという方向性で行けばよろしいかと」
ジョラーの進言。
「ブーブー」
女王、子供のようなブーイング。
「ハイエルフのハルダン卿が来訪されてますから、設計を依頼してはいかがでしょう。ハイエルフのハイセンスなら女子も納得ですぞ」
ジョラーはやはり、年の功だ。
「はぁ。まあいいわ、じゃあその、ハルダン卿とやらに依頼してください。それにしても、何でそのような人物がこの田舎にきているのかしら。ハイエルフといえば先進国の宮廷で見かける程度よね?」
「なんでも、あの『白銀の乙女』ダナ様を探して、ハイエルフの貴人たちがきているということです」
ジョラーの説明、初耳だった。
「宮廷には挨拶にこないのね」
「あの者たちは種族としては極小ですが、政治力経済力は先進国でも一目置きます。特にマジックアイテムは独占しておりますから。我が国を無視してもこちらから何か要求するのはリスクがあります。しかし、歓迎の意向は伝えるべきでしょう」
ジョラーは当然のように博識である。
「では、そうしてくださいな。使者を立ててご機嫌うかがいして損はありませんわ、仕事の依頼もするのでしょう?」
「は、では私にお任せください」
彼は先進国の知識人なのだ。
このような話にはとても頼もしい。
俺は宮廷から退くと、自室に戻って執務を行う。
概ねは小さな決済だ。
建設許可、討伐依頼の許可、人員増加許可、……等々。
小一時間執務を行ってため息をついたとき、一人の男が現れる。
「王子、いいか入って」
野太い声、トーラスだった。
「どうぞ、衛兵隊長。何の用です?」
「二つある。一つは人員募集のことだ」
「あれは女王陛下も許可済みですよ。僕がどうこういうことでは……」
「これを見てくれ」
トーラスが一枚の羊皮紙を見せる。そこには……
『衛兵募集。士族以上の身分のみ。二十六歳以下の男子。容姿端麗、筋肉質で細身。腹筋が割れていること』
「なにこれ。これじゃあ、あまり人が集まらないんじゃないかな」
俺はけげんな顔。
「ああもちろんそうだ。固太り、ヒョロガリ、出っ歯……容姿に問題あるのは全部弾かれる」
「顔に拘ってる場合じゃないだろ、女王陛下にも困ったものだ。女王にはいったのかい?」
「ああ、でも渋い顔して、『イケメンにあらずば人にあらずよ、あなたはドワーフだらか除くけど。私の傍に侍るのにイケメンじゃないなんて……ありえないわ』何ておっしゃられる」
尚、『』の部分はトーラスなりに努力して物まねでしゃべっている。
「困ったものだな……そうだ、ブサ面でも二軍にして女王の目に入らなかったらいいだろ、じゃあ、僕が募集要項書いてあげるよ」
『衛兵隊二軍募集。ガルディア国民で三十歳以下。人外顔、デブ、チビ、ヒョロガリでも可。尚、二軍は外勤専門。給与は同等を保証』
「ほうこれなら人が集まるだろう。身分に拘らないのもいい」
トーラスが髭をなでる。
「ハゲは含むのか」
モフオが聞く
「さて、これで衛兵の人員問題も解決だ」
俺は納得の笑顔。
「だから、ハゲはどうなんだ!」
モフオ食い下がる。
「トーラス、これを持って女王陛下に決済頼んでくれ。ブサが目に入らなければいいんだよ」
「ハゲは?」
「さあ、次の案件だ!」
「お前、故意に無視してるだろ」
モフオ面倒になってベットで横になる。
「じゃあ、もう一つのことだが、王子、あんたを偽物だと叫ぶ浮浪者の件だ」
トーラスの言葉に俺はドキリとする。
まさかとは思うが……。
「偽物って、彼のいい分は聞いたのかい?」
「ああ、捕らえて尋問した。年齢は不詳だがまだ少年だ。自分こそがクリサレス王子だといい張るのだが、民族はどう見ても東方種族だ。それを指摘したら、妖術で精神交換したと……全くお笑い草だが、あまり変な噂を流されても困りますからな」
「根も葉もないことをいう狂人なら、釈放するしかないのかも」
俺は慎重にいう。
「一応、有力者の身分を騙るのは詐欺になる、釈放しなくても違法ではない。不思議と宮廷の内部のことに詳しいのだが……どこで知ったのか。とにかく、実害はないから拘留しているだけだが、どうするかは王子に尋ねようと思ってな」
「わかった、また連絡するよ、しばらく預かっていてくれないか……虐待はしないでくれ」
「御意だ」
そういうと、トーラスは退席した。
俺はちょっとおろおろする。
「どうしよう、絶対、本物の王子だよ。確か異世界に行ってしまって戻る方法はないってヴァリーがいってたよね」
「元のボンクラ王子は、ボンクラでも怪しげな術を使ったわけだから、完全な無能ではないぞ」
モフオが答える。
「じゃあ、彼は魔術で戻ってきたというのか。『恋するおまじない大全』なんてのもあったから、前の世界も魔術はあるよね……どうしたらいいんだ」
「どうしようもくそもない、殺るんだよ」
モフオが悪そうな顔で喉を掻っ切る仕草をする。
「さ、さすがに、それは、女王陛下の実の息子だよ、僕には殺せないよ」
「そういう中途半端な優しさが命取りになるんだよ。覚悟決めろよ、王子」
「とにかく、今は軟禁するだけにするよ」
「つまらん奴だ」
モフオは再びふて寝する。
俺は彼の処遇を手配することにした。
どこかで安穏として暮らせば大人しくなるし、俺も安泰だ。
「……ロムかな、やっぱり、信用できるのは」
俺はぶつぶついいながら手紙を書く。
彼を動かすのはエリンに頼むとしよう。
エリンとは直接会えなかったが、手紙は連絡員に託す。
多忙に過ごしていると、すぐに昼食の時間になった。
昼食は久しぶりにアデラ姫との会食だった。
もちろん、女王陛下と重臣もいる。
以前と比べるとかなりまともな食事だが、それでも、切った肉のぶつ切りにパン、ワイン、そういった感じの食事ではある。
食事を終え、少し談笑する。
アデラ姫はまるで咲き誇る花のような美貌だった。
どこか影を含むのは仕方がないが。
見つめられると、動揺してしまう俺。
「淑女たちの世論は概ね反レイド王国で染め上げましたわ。一部、ゲーマン公関係の方々とは話せませんでしたが」
神秘的な笑み。思わずボケっとしてしまう。
「鼻の下伸びてるぞ、王子」
モフオの爪がちくっと尻に刺さる。
「おっと、失礼、南方の方々はどうです?」
「リディア様含め、南方の方々も賛同いただいております」
「リディアもか。凄いね、彼女を同意させるなんて」
あの女戦士がいつの間にか篭絡されているとは。
「南方の反乱勢力は女王陛下の勧告により矛を収めたのです」
ジョラーが畏まっていう。
「南方の方々をお招きして、何度も話し合いを行いましたわ。王子がいらっしゃらない間に」
「それはありがとうございます。ジャングル海岸域の混沌は凄まじい状況でしたから、すぐに帰れず申し訳ありません」
貴族的に頭を下げる俺。
この手のしぐさはもう慣れた。
「そういえば、王子、リザードマンたちをお見掛けしましたけど、どのような状況だったのです」
アデラ姫が興味深そうに聞く。
同盟が成ったので外交官のリザードマンが数人滞在しているのだ。
俺はざっとかいつまんで話をする。
ビビアンとヴァリーのことは言及を避けた。
「我々とリザードマンたちは激戦の末海賊を撃退し、巫女のアリア殿と魔術師のコレットが大天使を召喚してゴードルフ島から混沌を浄化したのです」
瞳の破壊光線のことも省く。
あのような火力を個人が持っているとなると、政治的にややこしいことになるだろう。
幸い、あの戦の概要をわかっている人間はイッチさんだけだが、彼は行方不明である。ケヴィンは……多分、何もわかってないと思う。
「凄いですわ、そんな神の奇跡のようなことが……大天使とはどのような存在でしたの?」
「光の塊のような存在で、僕は途中で気絶したので……」
嘘だが、あまり突っ込まれたくない。
ヴァリーとか普通の人は知らなくていい。
「人蛆食った話はしてないけどいいのか」
モフオ、全く余計なことをいう奴だ。
「ハハ、そんなことはどうでもいいんだよ。そんなことより、リザードマンとの同盟が締結されて海賊勢力が後退したこと……」
「人蛆って何ですの?」
アデラ姫。目をキラキラさせないでほしい。
「おぞましい名前ですわね、食べたのですか王子」
女王まで聞きにくる。
「ぐ、偶然口に入れてしまっただけです。確かに、コリコリとして、ジューシーな味わいで病みつきになる旨さ……」
あわわ、俺は何をいってるんだ。
「モフちゃんは人蛆のこと知ってるの?」
アデラ姫が興味津々に聞く。
「人間の頭を持った魔物の大蛆で、人体に入り込んで心を支配する」
モフオ。手加減なく説明しすぎ。
「きゃあ、こわい。じゃあ、そんなものを食べたら……」
「もうこいつは終わりだ」
何いってんのこの駄猫!
「大丈夫ですよ! 僕を見てください。完璧なイケメン男子ですよ! それに天使に浄化されました」
慌てる俺。
「うぉっほん、確かに、あの島には今、同盟勢力だけがいるのですよね、王子」
ジョラーの助け舟。
「そうです、リザードマンは我々の同盟になっています。軍船も一隻手に入れましたから、海への睨みも効きます。海賊で浄化された奴らは、新しい入植地を作ってロティを総督として我々の属領となってくれています。連絡役に信用できる人物を派遣した方がいいですよ」
ロティは族長の息子だったこともあり、やはり、人を率いるのが上手い。
苦労も重ね人徳もある。
彼こそ信用できる人物だが、いかんせんガルディアとは接触がなかった人物でもある。それをつなぐ人が必要だろう。いずれ首都にもきてもらおうと思っている。
ちなみに奴隷少女のラナはロティと同じ部族だったと後で判明したため、ロティが養子にした。
「それはそうと、イッチ殿はどうされました」
ジョラーが珍しく心配そうな顔をした。
「彼は残念ながら行方不明です。戦いの中で……」
本当のことはいえない。残念だが。
「そうですか……優秀な人物だったので惜しいことをしました」
ジョラーは本当に残念そうだった。
彼はあのような在野の人物が大好きなのだ。
自分の若い時のことを思い出すからかもしれない。
「リザードマンは思った以上に追い詰められた勢力でした。リディア殿だけじゃなくて、海賊とも戦い続けて勢力は以前とは比べ物にならないほど弱体しています。しかし、偶然とはいえ、海賊から浄化されて我々に加わった人間たちがガルディア支配を受けれてくれています。ゴードルフ島には今新しい港と植民都市を建設して海賊へのにらみを利かせられるようになりました。今後もこの状況を続ける必要があります。ロティ総督もガルディア軍の派遣を望んでます。この冒険的な任務に赴きたいという方がいらっしゃったら、大歓迎ですよ。お集りの諸侯の皆さん」
俺は立ち上がって、会食に参加している人たちを見渡す。
それほど多くもないメンツだが、目を背ける連中。
冒険嫌いの役立たずばかりなのだ。
貴族の実態なんてのは。
「あら、面白そうですわ。私に手勢をお貸しいただけるなら、海賊たちを撃滅してやります」
アデラ姫。それ無理。
「さすがに、それは……」
俺は口を濁す。
「王子、そのようなことを申されても、すぐに決断できるようなことではありませんわ。少し、時間をかけて選抜いたしましょう。それならば、指名された方も納得されるでしょう」
女王のフォロー。
尚、女王のこの言葉で、ようやく南方の島しょ部にも兵が派遣されることになった。
ガルディアの海洋進出にはどうしても必要な措置なのだ。
たわいもない雑談のような昼食会だったが、政治的に意外と大きな話だったようだ。
『黄金の獅子』マエグペン
『銀纏う』フェルリン
『明星』ハルダン
今、俺はこの三人のハイエルフの大物たちと対峙していた。
場所は首都の小会議場。
彼らは女王陛下に面談し、挨拶してから俺のところに詰めかけたのだ。
彼らの身分は、男爵から伯爵ぐらいの扱いである。ハイエルフは貴族制のようなものは取らないので曖昧だが、ハイエルフの中でこの三人の男性が相当な身分なのは間違いない。
「あの、それで、ハイエルフの貴人である皆様が、このような辺境の小国にどのようなご用件で……」
俺は、顔をこわばらせて問う。
彼らは身なりも異常なくらい高価な衣装に身を包んでいるのはわかる。アクセサリー一つとっても金貨を背負って運ばないと買えない代物なのだ。
「率直に申しましょう。『白銀の乙女』ダナは今いずこにいらっしゃるのか」
一番若いハルダンが口を開く。
「我らも暇ではないのだ。多忙な中、このような辺地にきたことを考慮して頂きたい」
フェルリン。傲慢に見下ろす目線。
もちろん、彼らは俺より頭二つぐらい高い。そういう気分も含めて。
「だ、ダナさんは最近は見かけてません。ガルディアの北部平原から主だった魔物は退治されましたから……これもダナさんのおかげです。彼女は最高の女神のような偉大な方です、美貌も凄いですし、性格も……」
もみ手で彼女を褒めまくる俺。
性格だけは具体的に褒められなかったが。
「女だてらに暴れ回るとは……我が種族の面汚しではないか」
苦虫を噛み潰したような顔をするマエグペン。
わかり難いがこいつが一番年齢が高いようだ。
「と、ところで、皆さまはどのようなご用件でここに……」
「人間の地方領主風情が我らに問うのか」
冷酷な目線のフェルリン。
「ひ、滅相もございませんですよ」
もみ手の俺。
ここはこびへつらい土下座一択だろう。
「怯えさせておるではないかフェルリン。所詮は下等種族。あまり厳しくするな」
マエグペンのお言葉。
もう俺なんか下等種族でいいので、早く帰ってほしい。
「このガルディア王子はダナ様と連絡が取れるという噂なのですよ。お二方も彼に優しくすべきですよ」
ハルダンが爽やかイケメン顔でにこやかにいう。
うーん、マジでイケメンすぎる。
正直掘られそうになっても抵抗できないかもしれない。
「我らはダナに求婚にきたのだ。ハイエルフ評議会はダナが婚姻するなら今までの暴挙を帳消しにしてもいいと。理由が分かったのなら、さっさと連絡を取るのだ」
マエグペンの上から目線要求。
「し、しかしですね。我々も彼女と連絡とるのではなくて、彼女の方からふらりとやってくるというパターンでして……多少の心当たりならありますが」
冷や汗を拭きながら説明する俺。
「その多少でいいから彼女を連れてきてくれないか、ガルディア王子」
ハルダン、名前は憶えてくれないらしい。
「そ、そうだ、ハイエルフの方々なら魔法で彼女と連絡が取れるのではないですか」
俺は思いつく。
「……」
無言になる三人。
凄く嫌な雰囲気。
「出来ていたら、貴様のような下等種族と話をするわけがないだろう!」
かなり青筋立ててフェルリンが怒鳴る。
「それはそうですね、申し訳ありませんでした。すぐに心当たりを探しますので、この城でごゆるりとしてください」
俺はそういうと急いで会議室を退席する。
はらわたは煮えくり返っていたが、イライラしている貴人たちと無駄な喧嘩をして、国益でも損ねたら悔やんでも悔やみきれない。
公然と屈辱にきたレイド王国の大使とは違うのだ。
あくまで彼らは私人。
どれだけの政治力があるのかわからないし、危険は犯せない。
部屋を出ると、エリンが待っていた。
「やあ、エリン、久しぶり。前よりさらに美人になったね」
「王子、よく我慢されました」
軽く膝まづくエリン。
前と変わりないように見えるが、急速に大人びている。
「あの人たちもこんな田舎まできてイライラしてるんだよ。話を聞いていたなら、ダナさんの居場所わかるかい、冒険者ギルドとか」
「国内にはいないように思われます。テレポートを自由に使える方ですから次の瞬間にはいるかもしれませんが……」
「あとは個人的に接触のあった人に聞くしかないか……ハイエルフのリーンさん、コレットさん、オーベ、一応ドゥリンも含めるかな」
「リーンとドワーフは知らないようです。コレットとオーベは……」
「どうしたの?」
「王子が聞くしかないと思いますよ。私は不審がられてますから」
何となく心当たりがあった。
今やオーベとエリンは諜報組織を統括している。
オーベはレイド王国と北部地域一帯の諜報。エリンは国内全般の防諜。コレットは国内魔術師集団の統括。
情報を扱う組織として、彼らには微妙な軋轢が出始めているのかもしれない。
「わかった、僕から聞くよ。あと、あの三人のプロフィールとかわかる? 突然きて偉そうにしてるけど、ダナさんにどういう人か伝えないと、彼女の方が会うのを嫌がるだろう」
「わかりました。少し待ってください。それと、女王陛下が彼らから釣書を渡されていましたわ。侍従が持っていると思います」
奴らはマジでお見合いにきたんだ。
女王に見せて貰おう。
各所に連絡を手配し、三人には王国にはひとまずいないと告げる。
彼らはそう聞くと「しばらく滞在する」と宣言して、城で最もいい部屋を占拠してしまった。
俺は執務室で釣書を拝見する。
「『明星』ハルダン、身長体重年齢……職業は魔術建築家。なるほどね。年収金貨五万枚! すっごい! イケメンの上大金持ちなのかよ」
俺は思わず大声が出てしまう。
「つまらん奴だよどうみても」
モフオ、腹を見せてごろ寝。
「ポケットマネーで五万枚だゾ! 大貴族でもそこまで行くのかって感じじゃないか、先進国なら知らないけど」
「他の二人は?」
「『銀纏う』フェルリン……職業、アーティファクトアーティスト。年収二十万……マジか。すっごい嫌な奴だけど、金だけはあるな」
「こいつもつまらん」
「お前の感想は一緒だな。最後、『黄金の獅子』マエグペン……職業、投資家。年収ろ、ろ、六十万枚! 国家予算、軽く超えてるだろ!」
俺は悶絶する。
「ふん、つまらん」
ごろ寝のモフオ。
「僕が女装して嫁になりたいレベルだよ。六十万ももらえるならさすがに掘られても文句いえないだろ」
「王子の尻なんて銅貨六十枚の価値もないだろ。そんなことより、そんな奴らにダナを取られてもいいのか」
「そ、それは、僕はまだ……」
「あんたと初めて会った時から比べて、もう桁違いにあんたの責任は重くなってる。あんたが好きとか嫌いとかに関わらず、結婚もしないといけないし、子供も要る。その辺りちゃんと考えているのかよ!」
モフオ、こんな説教臭い奴だったのか。
「まあ、そうだよな。おまえのいうとおりだ。ダナさんに求婚するとかは別としても、もうぼやぼやしてられないよね。国のことを思えば」
「で、あんたの意中の人は誰だ? ダナ、リーン、ケイ、アデラ姫……ミレーヌは元男だけど、肉体はれっきとした女だ」
「き、決められないよ。みんなすごくきれいな人だし、僕にはもったいないレベルだよ」
「なーにいってんの。ズバっと求婚して、さっさと子供作ればいいだけだろ」
「いや、まあ、そんな簡単には……」
「そうだ、あのインチキ本で女をメロメロにしたらいいんだよ。変な魔術で」
「愛を魔術でどうにかとか……邪道だろ。でも、一応チェックするか……」
というわけで、その日はモフオと似弥瑠羅都帆手夫著『恋するおまじない大全』をじっくり検証することになった。
「なんだか、触手生えてないか、この本」
モフオの指摘を待つまでもなく、本のカバーから細い繊毛のような触手が生えている。
「『恋するおまじない大全』という文字が消えかかって、下から変な字が浮かんできてるな」
「ネクロノミコンと読めるようだが……」
怪訝な顔のモフオ。
「ネクラロリコン? 気のせいだよ。そんなことより、魔術だ」
パラパラとページをめくる。
「邪神の召喚、世界に疫病をはやらせる、異世界の門を開く、他人の体を乗っ取って永久に生きる……超極悪魔術ばかりじゃないか!」
「お、これはどうだ、『淫紋』女子の体に刻印したらメロメロの淫乱女に早変わり。しかも、術者に忠誠を誓う」
「うーん、却下」
俺は思わずページを閉じる。
「おい、今の術最高じゃないか。中庭のミケコにこれ掛けて俺の性奴隷に……」
モフオよだれ出てる。
「お前なモフオ。男なら、自分の中身で勝負しろよ!」
「じっくり魔術書見てたくせに何いってんの!」
「魔術はもういい。僕は僕の人間的魅力で女性を愛する事にする。こんな本は要らない」
俺はカバンに突っ込む。
「ふーん、王子、お前ちょっと見直したぞ」
モフオはそういうと、ごろッと横になって寝てしまう。
俺もあくびが出た。
2021/8/7 文章リニューアルしました。読みやすくなったでしょうか。
2023/4/29 微修正




