25 魔物と人類
三時間ほど疾駆して、休憩を取る。
さすがに疲労が濃い。
まだ完全に朝にはなっていない。
午前四時くらいか。
アモンの弟子三人とドゥリンは平気そうだった。
俺とケヴィンがヘロヘロだった。
「王子、情けなさすぎるな。これぐらいの強行軍で泣き言か、ヘタレめ!」
モフオの無駄な叱責。
「お前は鞍の上でゴロゴロするだけだろ。そんな奴にいわれたくない」
モフオのために鞍には専用の鎮座スペースがある。
「王子、あと一つ領土を抜けたらアーマーラ大神殿跡に着きます。でも、先ほどみたいな強行突破はやらない方が……」
ケヴィンの献言。彼はこの地に土地勘がある。
「明るくなったら、騒ぎになって……バルギットのおっさんの即応力で考えたら……だいたい三時間後にここに兵がやってくると思われますな」
ローセンの推測。まあ普通そんな感じか。
「森エルフは先行具合からすると、目の前の領土に滞在している可能性あるね」
俺も推測しよう
「ならば開門と同時に街に入り、奴らを捕らえてはいかがでござろう」
「騒ぎを起こすのはまずいわよ」
エルネッド、意外と常識あるじゃない。
「分けるのはまずいけど、子供たちのことを思うとそんなこともいってられないわ。王子とケヴィンさんは残って休息して、私たちだけで森エルフをどうにかしませんか」
ミレーヌが珍しく発言した。俺に負担を掛けたくないということか。
「実をいうと、俺も休息したい」
ローセンの弱音。
「あんたは駄目」
エルネッドの冷たい言葉。この二人は腐れ縁という感じだ。
ミレーヌがエルネッドに耳打ちする。
「王子とケヴィンさん、たぶん居眠りしてしまうわ。見張ってる人が必要よ」
と小声でつぶやく。
実際、俺とケヴィンはうつらうつらしていた。
「仕方ないわ、ローセン頼んだわ」
「任せておけ」
疲れ切っていた男三人組は、女二人とドワーフのおっさんを見送って休息をとる。
ここからは聞いた話だ。
女二人とドワーフは街門に入る。三人とも身分証はあるし、地位も高い。あっさり入ることができる。
三人は適当に調べただけで朝食を取っている四人の森エルフたちを発見した。
すると、ドワーフは突然激怒して、
「このゴキブリ野郎共! 拙者は許さんでござる!」
と叫ぶや否や、二人の頭をつかんで握りつぶした。
握力だけで二人の森エルフの頭蓋を破裂させたのだ。
もちろん、その宿屋は阿鼻叫喚の坩堝になる。
更に、逃げようとしたもう一人をぶん殴ると、そいつの首は折れてしまった。
ミレーヌが最後の森エルフを何とか確保して気絶させて連れて帰る。
エルネッドも慌ててドゥリンを気絶させたが、重すぎて回収できなかった。
結果、ドゥリンは捕まり、女二人は森エルフを回収して俺たちのところにいる。
「何とも不味いことをやってくれたなぁ」
思わず苦笑する俺。
しかし、気持ちはわからんでもない。子供攫うような奴らに手加減なんてする気も起きない。
今は街道から外れた森の中で潜んでいる。
「グオー! ゲハ!」
ローセンが例の某人気海外ドラマの無敵捜査官的行為をやっている。
すぐに森エルフは白状した。
「頼む、何でも喋るからやめてくれ」
「子供たちは今どこにいる」
「あの方のところだ」
「あの方はどこにいる」
「う、うは、それは、いえない」
「ち、子供たちがいると思う場所をいえ、地名でいえ」
「アーマーラ大神殿跡の大聖堂地下だ。そこに地下広間があって、たぶん、そこだ」
「サレドーは子供の死骸の山といってた。他にも攫われた子供がいるんだな?」
「ああ、そうだ、俺たちが攫って回っていた」
「なんて野郎だ、一寸刻みで処刑したいぜ!」
ローセンが激怒する。
俺も同じ思いだ。
「お前の仲間は他に居るのか、人攫いの」
「ああ、あの方の手下になった人間の集団がいる。そこのアルギン子爵もその仲間だ」
アルギン子爵というは、今目の前にある町の領主のことだ。
「ドゥリンが騒ぎ起こしたことはすぐにばれるだろう。そして、こいつが攫われたこともあの方とやらはすぐに知る。敵はすぐに何らかの対応を取るだろうね。……おっと、殺さないでくれよ、ローセン。そいつは証人になる」
俺はローセンを制する。
「それは残念だ、スペシャルコースで処刑してやったのに……昏倒させてどこかに隠しておきますよ」
そういうと、ローセンは強い念を送って森エルフを気絶させる。
「でも、とにかく子供たちとドゥリン、どちらも救出しないと」
エルネッドが腕を組んで心配している。
「ドゥリンは一応国の大臣だから、すぐに処刑はないと思う。普通なら騒乱起こしたから罰金かな。殺した相手は人さらいの犯罪者だから……そう考えると、多少後回しでも大丈夫だよ」
ドゥリンは大臣という身分を得た貴族階級である。庶民を殺しても処刑ということはない。
もちろん、罰はあるが。
「そうなると大神殿ですが、アルギンの領土は通れなくなりましたな。突破するという考えもありますが」
ローセンは腕を組んでアルギン領を見渡す。
今いる位置はアルギン領を大方俯瞰できる場所だ。
「ピーピー、王子、バルギットの軍勢到着した」
偵察のピースケが警告をくれる。
どうやら、アルギンの領土までバルギットが探索に来たらしい、街道から外れているからすぐには見つからないが、動かなければ時間の問題だろう。
「西に山を迂回したら、神殿に出られますが……登山になりますね」
ケヴィンが指を指しながら述べる。
ふと、『山を舐めると死ぬことになる』という言葉を思い出す。舐めた装備で山に挑み、登山マニアのおっさんが激怒するとかそういう話だ。
「登山はちょっと無理かな、装備もないし……」
どうしようかと悩んでいると、突然、爆音が響く。
音の方向を見ると、アルギンの街門、北門が煙を上げている。
人々の悲鳴、武器の音、魔法の破裂音。
「アルギンの北門が破られたみたいですね。どうやったのか魔物の軍勢が乱入したようです。アルギン軍が慌てて集結してますが……」
ローセンが望遠鏡で見ている。
「ちょうどよかった、バルギット軍がいるじゃない。助けに……」
「なんだかすごい勢いで撤退してますね」
「何というヘタレ。あのデブにつける薬はないな」
「まずい、このままでは虐殺が始まります。魔物は……たぶん、オーガとホブゴブリンです」
オーガは牙のあるかなり大柄な人間。ホブゴブリンはいつものゴブリンを人間サイズまで大型化させたような魔物。オークと似たようなものだ。
「魔法使いがいるのか」
「ええ、ダークエルフですねたぶん。かなり高度な使い手ですよ。ファイアーボール使ってます。ダナ以来だ、あれを見るのは」
いきなりの襲撃すぎる。たぶん、そいつが何らかの魔法で接近を気付かせずにいたのか。
「アルギンがろくでもない奴なのは事実かもしれないが、街の人間には罪はない。助けに行こう」
「わかりました。でも、王子、王子も武器を持った方が……」
「大丈夫、心配ない」
俺はカッコよく錆まみれのあれを抜く。
ぼき。
あれれ?
「なんか途中で折れましたね」
モフオがへそ天で指摘する
「ローセン殿、剣一本貸してください。どうせいっぱいあるんでしょ」
「これは私専用に調整してますから。浮遊剣の弱点は敵に奪われること。他人が手に取ると痛い目を見るようになってます」
「武器はどうにかしますから、弟子三人組は突撃してください」
俺は彼らを促す。
「王子、大丈夫ですか」
ミレーヌが心配そうに見る。
「ケヴィンもいるし、すぐに追いつくよ」
俺がうなずくと、三人は稲妻のように馬を駆る。
「王子、僕の剣を貸しましょうか」
「心配するな、馬にメイスが積んである。それに」
「吹き矢ですね。吹き矢王子キター」
ケヴィン、何か調子のいいやつになった。
というわけで、俺は左手に吹き矢、右手にメイスを持つ。
祝福された両武器はいつもより輝きが大きい。光の魔力を得た結果だろうか。試しに一発吹き矢を使うが、前とは全く違い、疲労が残らない。
これなら何発も撃てる。
俺たちは南門に向かう、南門は既にバルギットが開けたままにして放置してあり、簡単に通れる。
すぐにホブゴブリンがやってくる。俺は吹き矢を連発するが、何発撃っても疲れなかった。
しかし、この攻撃は普通の相手にはあまり効かない。
投石程度か。
急所に何発か当たると殺せるが、鎧にあたるとほとんど効かない。
牽制にはなるので、二人で何とかしのぎ、アルギンの守備兵がこもる領主館にたどり着く。
「おい、クリス王子だ、入れてくれ!」
領主の兵は俺を人間だと確認すると裏口から入れてくれた。
一息つく。
館の中は民間人と兵が大慌てで入り乱れており、大混乱だった。
兵の一人を捕まえ、
「おい、牢屋はどこだ。戦える奴が一人入っているはずだ。ドワーフのおっさんだよ」
「あ、ああ、あいつですか。でも領主さまが……」
「僕はクリス王子だ。何かあったら僕が責任取るから案内してくれ」
牢には確かにドワーフがいた。
暇そうにしている。
「ドゥリン、戦の時が来たぞ。ホブゴブリンにオーガだ。早く出してくれ!」
牢番は慌てて鍵を開ける。
「おお、心友よ。王子、助けにくれると信じていたでござる」
「それより、鉄砲を持ってきたから。すぐに奴らを」
「任せるでござるよ」
重い鉄砲を渡す俺。ドゥリンは軽々と担ぐ。
ドワーフはすぐに館の櫓に上ると、散弾を撃ちはじめる。オーガには一粒の大玉を。
爆音と破壊力に敵はうろたえる。
城壁に上り、戦況を確認する。
外ではミレーヌとエルネッドが大暴れしている。
エルネッドは本当に飛んでいるように、跳ね回り、ホブゴブリンはバラバラに殺害されていく。
「血の旋風だな、まるで」
ミレーヌはもっとすごく、オーガを次々と屠り続ける。こちらも飛ぶように駆けて、巨大な化け物を血の海に沈めていく。
「ローセンは何をしてるんだ」
ふと見ると、ダークエルフの戦士と一騎打ちをしている。敵も魔術と武術を使うらしく、こちらは一進一退である。
三人の弟子の超人的な戦いぶりは想像以上だったが、敵は数も多く、じわじわと領主の館=城は押され始めていた。
「まずいなこのままでは……数が違い過ぎる」
人々の顔に絶望がある。
もう落ちるかもしれない。
魔物軍は強いのを三人にあてがい、雑兵の大群を城の圧迫に使っている。
ドゥリンの鉄砲も何匹始末したかわからないレベルだが、敵は死骸の山を越えて黙々と迫ってくる。
「王子、なぜこのようなところに……」
後ろから声をかけられたので振り向くと、中年のおっさん。
アルギン子爵だろう、たぶん。
「アルギン子爵ですか、クリスです」
「王子、お顔は拝見しておりますのでご本人だと思いますが、なぜこのような場所に……」
「子供を攫って、魔物に献上している輩がいると聞きましてね」
「ひぃ。そ、それは」
「素直に白状すれば、誅殺はしません」
「わ、私は、板挟みだったのです。魔物には脅迫され、バルギットや宣教師たちも魔物のいうことを聞いておけというのです。私一人では、私の領土では弱すぎて、抵抗できなかったのです」
「それで、魔物に手を貸し、子供を攫って渡したのか……恥知らずめ!」
「ひぃ、お許しを。お願いします、家族だけは」
「今この場で全権を僕に譲るんだ。君の処分はすぐには出ないが、今必死に一戦士として戦うなら温情を与えるだろう」
「わかりました。これをお持ちください」
権威の象徴たる錫杖である。
アルギンの名が記されている。
ヘタレかつ主体性のない奴で良かった。「これは上様の偽物だ、であえ~」なんてこともあり得るわけで、アルギンを責めたのはかなり綱渡りだった。
俺は兵士たちの前に出ると、
「アルギン殿は全権をこのクリサレス王子に譲られた。お前たちはこの城を死守するのだ。僕も一緒に戦うだろう」
「王子が来られた、何とかなるぞ!」
最初兵士たちの顔に戸惑いが浮かぶが、士気は高まったようだ、すぐに戦いに戻る。
目の前に敵がいるのだ、兵に考えている暇なんてない。
「なんか勢いで乗っ取ったけど、勝算あるのかよ、王子」
モフオの突っ込み。
「アモンの弟子三人がどうにかしてくれると思う」
「ああ、何か絶望的だな」
俺は吹き矢を出すと、吹きまくる。
光の珠と連動したおかげで、連射が凄い。
「(喰らえ、十六連射だ!)」
敵がどんどん死ぬので魔力が尽きない。この吹き矢は結果的に凄い兵器になった。
「かっこ悪いけど強いな」
モフオが珍しく褒めてくれる。
敵にひるみが出た辺りで、
「援軍だ! 援軍が来たぞ!」
見ると、バルギット伯の旗印。
太っちょが颯爽と現れ……なかった。先頭を駆け抜けるのは半裸の女戦士。そして、引きずりまわされるバルギット。
「あれはケイだ。何でバルギット引きずってるんだ。まあ、軍勢も連れてきたけど」
「見た感じ、ケイがバルギットを無理やり戦場に引きずり出したみたいですね」
モフオの感想が正しいのだろう。
南門からアルギンの居城付近にかけて、人類対魔物の激戦が始まる。
「これは好機だ、城門開け! 動ける兵は突撃しろ!」
城門が開き、アルギン子爵が咆哮して突撃をしている。
「あのヘタレ、本気出したな」
モフオが前足をなめながらしゃべる。
敵は完全に浮足立っている。こちらの損害も大きいが、もう一押しだろう。
俺も突撃する。
「アモンかロムがいたら駄目押しなのに」
あの二人は大英雄だ。あの二人がいたら、兵士の目の色が変わる。男心をくすぐる存在なのだ。
「いないものは仕方がないぞ」
モフオは俺の背中にへばりついている。
ケイは以前とは比べ物にならないほど強くなっていた。
両手剣を稲妻のように振るい、バサバサとなぎ倒していく。小アモンといっていいかもしれないが、アモンより移動が速い。
敵陣に深く深く、一人で斬りこんでいく。
「討ち取ったぞ! お前らの大将は死んだ!」
ローセンの声が響く。
ローセンの手には邪悪なダークエルフの首があった。
ボロボロになっていた敵の戦線はそこで総崩れになる。
主だったものは全員で追撃をする。ここで手を緩めてはいけない。敵に大損害を与えるチャンスなのだ。
アルギンを出て、大神殿跡に向かう。
吹き矢を撃ちすぎて、唇と肺が痛い。それでも、敵の背中に撃つ。魔物を一人生かせば、その分人類が苦しむことになる。
大神殿跡は巨石がゴロゴロするだだっ広い場所だった。中央に巨大な建物の廃墟。これもほぼ倒壊している。
岩は焼けた跡、地面には灰。
大規模な火災があったのは間違いないようだ。
中央の建物をぐるりと囲むようにがらくたのバリケードがあり、敵の残党はそこに立て籠もってしまった。
人類軍はばらけすぎて、要害を落とす状態ではなかったので一旦追撃は取りやめになる。
俺は元アルギン子爵に城の物資をすべて提供させる。どうせ魔軍を滅さないとあの領土は放棄するしかないのだ。
主だったものが集まる。俺、ケヴィン、ドゥリン、ミレーヌ、エルネッド、ローセン、ケイ。元アルギン子爵、バルギッット伯。
「アルギン殿、一日以内で集まれる距離の諸侯の声をかけてください。クリス王子の名で」
アルギンはうなずく。
「あなたはここでは人気ないですぞ。私も戦には反対です」
バルギットが不貞腐れたようにいう。
「魔物と共謀した証拠は挙がってますよ。あなたの名前が出たら、領土は没収になります。ここで協力すれば、温情が与えられるでしょう」
「……な、何をいうか、王子。私は……」
「庶民に落とされたうえで処刑されたいですか。ここで勇猛果敢に戦えば不問にします」
たぶん、バルギットはそういわれたら謀反を起こすことを考えただろう。
しかし、
「……わかった。魔物と戦うのは騎士の本分だ。ここは協力する。罪は不問でお願いする」
「では、あなたと連名で兵を募りましょう。それなら問題ないでしょう」
バルギットは抵抗をあきらめたらしく、その内容で伝令が飛ばされた。
ピースケの偵察などを纏め、現状を確認する。
「敵はオーガとホブゴブリンで概ね千、我々は現在八百です。援軍は推測ですが五百から千といったところ」
「敵が拠点にいることを考えたら、犠牲が大きすぎるぞ」
バルギットの意見、一応正論ではある。
「敵の拠点は廃材のバリケードと木柵でござる。作戦次第ではござるな」
ドゥリンが太い指で地図を指す。
「すぐに決したいですね。僕が隠密部隊を率いて、敵を内部かく乱、火を放って合図を出して一斉攻撃というところでどうだ」
「まあ、悪くない作戦だが、隠密できるのかという大問題があるぞ」
ローセンの指摘。
「弟子の皆さんと、僕とドゥリン、これだけいたら大丈夫でしょう。隠密アイテムを渡します」
「ほう、そんなものがあるのか」
ローセンが無精髭をひねる
「明日まで待ってください」
敵の防御が整う前に一斉攻撃で倒そうというのが基本なのだ。あまり緻密な攻撃プランも出ず、それでお開きになった。
俺はテントに入ると、早速人数分の『闇のマント』を作る。
魔力はたっぷりあったので特に問題もなかった。
「王子、少しいいでござるか」
テントの外に、ドゥリンとミレーヌ、ケダモノと美女というか。
「いいよ、寝れなかったし」
「実はこれを見てほしいでござる」
ドゥリンは一振りの剣を出す。ミレーヌの片手半剣だ。
「うわ、なんというか、ぼろぼろだね」
あまりに酷使され過ぎて、フランベルジュのように剣が波打っている。
「ミレーヌ殿の剣でござるよ。もう寿命でござる、いくさ場で剣が折れたら命取りになるでござる」
「新しい剣をどこかで調達……」
「拙者もそういったのに、ミレーヌ殿はこの剣を使うと言い張るでござるよ」
「王子、今は誰もが武器がなくて困っているのです。私だけ良いものはもらえません」
いつもながら、変なところで頑固なミレーヌ。
「君が最高の武器を使えば、皆が武器をふるわなくて済むよ。君は強い」
「……」
要は変なところで遠慮深いのだ。
「とにかく、剣を探すから待っていてくれ」
「王子」
突然背後から女の声が。
「うわっ」
振り向くと預言者ディアがテントの後ろにいる。
ドゥリンとミレーヌが身構えるが、
「心配しないでこの人は無害だから。『見る者』ディアさんだね。本当に唐突だな」
「王子、いつまで聖剣の主を剣にまみえさせないのです。運命が変わりますわ」
「聖剣の主って、『エルヴァルド』を抜く人のこと? 日々挑戦者が来てるでしょ。僕にもどうしようもないよ」
「主は目の前にいますわ」
「?! ミレーヌのことか」
「とにかくついてきてください。剣を手にするのです」
そういうとディアはすたすたと闇に向かって歩いていく。
俺たちは顔を見合わせたが、何かあるかもしれないのでついていくことにする。
「あ!」
ミレーヌが声を上げる。
「どうした!」
「空気が変わった……」
夜空に月。月光の下に、大きな塚があり、そこに剣が突き刺さっている。
ディアは消えてしまった。
「ディア殿はどこに」
ドゥリンがきょろきょろする。
「あの剣『エルヴァルド』だよね。でも景色が違う。あれは河岸の岩に。というか、ここはどこなんだ」
「とにかく、このシチュエーションは剣を抜くしかないでござるな。拙者は剣を使ったことはほとんどないでござるから王子かミレーヌ殿になるでござる」
「僕はこの剣に道化をやらされたんだ、ミレーヌ、遠慮しないで試してくれ」
思わず思い出して苦笑する。
戸惑い、遠慮していた彼女だが、決意を固めて剣の柄を取る。
スッと、抜ける。
彼女が剣を掲げ、月に照らすと、優しい光が降り注ぐ。
「おお、聖剣でござるなぁ。拙者も死ぬ前にあれほどの剣を作ってみたいでござるよ」
「その剣で魔物討つんだ。誰にでもできることじゃないし、誰もが助かることだよ。ミレーヌ、辛いと思うけどその力を背負ってくれないか。人々のために」
「……ええ」
嬉しそうではない、当たり前だ。苦しみを背負うことなのだ。
はっと気が付くと、テントの後ろにいた。
「今のは一体、拙者幻を見たでござるか」
「幻かもしれないけど、聖剣は真実みたいだ」
ミレーヌの手には聖剣があった。
「無理やり男から女に改造された僕みたいな穢れた人間が……僕はあいつらに何度も繰り返し……僕に資格があるんでしょうか」
ミレーヌは時々捕まった時のことを思い出して苦しんでいるのだ。
「逆に考えるんだ。君を穢した腐った奴らに剣を持つ資格があるか? もし資格があるなら正反対の人間だろう。まさしく君だ」
「あのゲーマン公だけは許せんでござるな。もし機会があるなら叩きのめしてやりたいでござる」
調子はずれだが、ドゥリンもミレーヌを慰めているのだろう。
「ありがとうございます」
辛うじて、ミレーヌは答える。
「お、鞘が落ちてます。その剣のだと思うでござるよ」
確かに鞘があった、アーロンの職人に作らせた奴だが、宝石が付いていない。剣をしまうとぴったりだった。
「宝石はディアにとられたかな。報酬か……二人とも、もう寝よう、明日の戦いに……」
俺はテントに倒れ込むように入る。
一気に眠気が訪れる。
俺はこれ以上考えることもできず、ぐうぐう寝てしまった。
2021/4/12 文章リニューアルしました。読みやすくなったでしょうか。
2023/4/26 微修正




