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転生王子  作者: 弓師啓史


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22 老人と若者

 聖剣が岩に突き立ったことは、国中で話題になった。

 そして『剣を抜いたものは剣の主として、神々に認められし者。女王は騎士に取り立てる』というお触れを出す。

 エクスカリバー伝説みたいなのが出回るのを予防するために、ちょっと言葉は工夫した。剣を抜くだけで剣を貰えて騎士になれる、と。要は王様になれるとか思われたら内乱のネタになる。そうならないように誘導したのだ。

 当然のように、誰もがつめかけるような勢いになる。

「ここでせこい王子登場『抜剣挑戦者は管理費として銅貨十枚を支払うこと』」

 俺は早速羊皮紙に触れを書き込む。

「うわ、マジセコ!」

 モフオが寝ころびながら突っ込み。

「十枚くらい、余裕だろ。それに警備兵と管理の役人にも人件費払わないといけない。何でもタダなんてのはないんだ」

 銅貨十枚は庶民の日給くらいか。

「伝説とか、神威とかで金儲けしようという魂胆がセコ認定なんだよ、王子」

「いいんだよ、儲かれば、もし抜く奴が出たら、そいつも大いに儲かってウハウハだろ、ウィンウィンだよ」

「こいつにつける薬はないな」

 ゴロっとモフオは寝返りを打つ。

 俺はケヴィンを呼んでこの触れを渡した。

「は、了解しました。ところで、女王がお呼びですよ」

「うむ、では頼んだぞ」


 というわけで俺は駄猫モフオを部屋に置いて宮廷に向かった。

 まだ宮廷は始まっていないが、既に女王とジョラー、ローランドがいる。

 ジョラーは、結局、見識の高さを女王に認められて女王のアドバイザーのような立場になっていた。

 正式ではないが、ほぼ宰相のような存在だ。七十代で仕官して平民から宰相になる。年を取ったから人生終わりなんてことはない。彼を見るとそう思う。

 ローランドも同じく軍事面の顧問として採用。彼は長い戦歴を持っており、現実的な感覚が強い。比較的下層な騎士の家系であり、政治的に色が強くないのも好まれた。

「王子、ゲーマンに関する新しい情報が入りました。ゲーマンはオークと決別したそうです」

 女王の言葉。

「それは……微妙な話ですね」

 現在、王宮とゲーマン公は冷戦状態にある。

「新しく立った大オーク王の話はご存知ですか」

 ジョラーの情報。大オーク王は俺も多少は聞いた名前だった。

「……名前だけは、正体不明でオークではないのにオークの頂点に立ったとか」

「そのものの正体は不明ですが、少なくともゲーマンとの中立は撤回したようです」

 ローランドの補足。

「なぜ、今になって……」

「単純に、ゲーマンはオークの要求額を支払えなかったようですな」

 髭をひねるローランド。

「王子の書かれた借用書をすぐに無効化して正解でしたな」

 ジョラーは紹鴎にうなずく。

 あの後、俺は素直に女王にすべてを話した。

 イーサンの裏切り、ミリアの女性化、ゲーマン長男の妖術、そして、ゲーマンが俺にした仕打ちのことも。

 たぶん、借用書の件がなければいわなかっただろう。

 俺にもプライドはある。

 しかし、借用書は国家予算規模の話であり、俺の借金は国家の借金になる。女王に喋らないでいるのは裏切りになる。

 女王はしばらく激怒していたようだが、少なくとも借用書に関しては脅迫で書かされたものであり無効だというお触れを出して、各交易商に通達した。

 借用書がそれで完全に無効化できたわけではないが、味噌をつけることで劣化させたのだ。

 これで、とりあえずは財政的危険は減少したが、俺の名誉は落ちた。

 そして、同時にジョラーの策略で「王子は一人で乗り込み命がけで小作農から成り上がった士族身分の男を救った」といううわさ話を流布する。

 別に嘘でもないが、生産者である最下層の者たちに忠誠心を持ってもらうのは重要だという。

 これは俺も賛成だ。貴族なんてのは最終的に国にそれほど役に立たない。

 必要なのは生産者なのだ。

 貴族はそれに寄生するだけの存在。

 この国は元々、貴族が他の国に比べて少なく、王族と生産者の間の距離は短い。このうわさ作戦は農民と士族の人気をタダで取れる上に、ゲーマンを高慢で嫌な圧制者としてネガティブキャンペーンで追い詰めることができる。

 元の世界の日本とは違ってマスコミもない、ネットもない、全ては口コミで元ネタを探ることもない。これはかなり簡単に上手くいった。ゲーマンが以前から嫌われていて、燃えやすい草に火が付いたともいえる。元ネット情報強者としては納得の策である。

「ゲーマンは農民反乱が全く治まらないので、相当手を焼いています」

 ローランド、地図を指し示す。

「農民反乱軍はゲーマンの領土東側三割を切り取って今は領主のようになっています。彼らと手を結ぶことが肝要かと」

 ジョラーの献策。

「一応、ゲーマンの主である私が、あからさまに彼らと交渉などはできませんわ」

 女王は扇子を弄ぶ。否定的な言葉だが、まんざらではない様子。

「僕が行くのが最善でしょう」

 彼らが何をいいたいかなどはすぐにわかる。

「しかし、やはり、リスクはありますぞ。彼らは貴族そのものを憎んでいます」

「彼らの自治認めつつ、王権を認めさせれば、円満解決になるでしょう」

 ローランドとジョラーは逆の立場をとるが、別に憎み合っているわけでもなく、問題点を浮かび上がらせて、その解決策を提示しているのだ。

 老人二人はいいコンビだった。

「ゲーマンが頭を沸騰させて激怒する以外は円満ですよね」

「アーロンとの交易路が危ういことになりますから、早急な解決が必要です。マルセロ殿もそのように申してますわ」

 女王の言及したマルセロ・アルメディックはアーロンの大使だ。

「それにしても、単なる農民にしては……あのゲーマンとよくもここまで戦い抜きましたね」

 俺は不思議に思う。

「あれが全部『農民』なら王子の仰る通りですが……彼らの主力はアーロン出身の冒険者と傭兵部隊ですぞ」

 ローランドの指摘に、思わず口に含んだ紅茶を噴き出す。

「じゃあ、農民反乱はアーロンの侵略なのですか」

「それは違いますぞ、王子」

 後ろから声がするので、振り向くと、アーロン大使のマルセロが立っていた。

「これは、マルセロ殿、大丈夫なのですかお呼びしても」

 俺の指摘。しかし、どうやら、女王が呼んだらしく咎める者もいない。

「さすが王子、危険を察知される能力が高い。しかし、それは杞憂でございます。我が国は王子が受けた屈辱に対して、同じくらいの憤り感じているのです。しかし、表立ってゲーマン殿を討つわけにはまいりません。そこで、このガルディアの首都で志が同じ者を募ったのです。王子は非常に人気で、冒険者たちは勢いよく立ち上がりました。そして、彼らは意を同じくする農民指導者と合流したのです。それは自然の流れであり、アーロンの陰謀では決してありません」

 ……何というか、非常に陰謀臭い……が、しかし、ここは善意に取っておくか。

 役に立っているのは間違いない。

「マルセロ殿が善意の方なのは疑うこともできませんが、今日はどのようなご用件で? 疑いを晴らすためだけに来られたわけではなですよね」

 あまり思ってもいないことを混ぜつつ問う。

「ええ、もちろんです。私の用件はその農民指導者と会っていただきたいということです」

「彼らは貴族制度と王権を憎んでいるのではないのですか」

 ここは重要だ。俺の世界の十八世紀みたいな話だと、彼らが勝てば俺の首はギロチンに乗せることになる。

「彼らは所詮、無学な農民。政治向きのことはわかりませんよ。ただ、より良い君主に導いてほしいのです。誰かのような圧制ではなく」

 マルセロの農民蔑視はある意味正しい、農民と話をすると、自分の狭い世界以外のことは全く知らない。しかし、知ってしまえばその認識は間違っていることになる。マルセロのような人はいつか躓くことになる。

「彼らも戦って今の勢力を作ったのだから、一定の権利を認めないとまとまらないでしょうね。例えば、自治とか、議会設置とか」

 俺はちらっと女王を見る。

「私は、彼らが内部でどのような統治体制をとっても介入するつもりはありません。ガルディア王権の承認と納税、軍役。この三つを守るなら、彼らの権威を認めます」

 生臭いことをいえば、大貴族が分裂して親王派が増えるのなら王権側に断る理由もなかった。

「しかし、当然ですが、これはゲーマンの勢力が確実に弱まるまで内密です。公表するような話でないことを皆ご理解いただきたい」

 ジョラーが釘をさす。

「それは当然でございますな。ここにいらっしゃる方で口の軽い方はいないと存じますが……」

 マルセロがガルディア重臣たちを見る。

「あのモフ公が居たら口封じしておく必要があるでしょうが、今はいないですな」

 ジョラーは肩をすくめる。

「ホホホ、あの猫がしゃべるようでしたら、私がしっかり監禁しますわ」

 猫の話題に女王が笑顔。

「では、王子、準備が整いましたらご連絡申し上げます」

 そういってマルセロは退席する。

 マルセロは胡散臭い男だが、大使として有能なのは認めざるを得ない。ガルディアは確実にアーロン寄りになってきている。


 マルセロを見送ってから、会議再開。

「ゲーマンもしぶといわね。さっさと血祭りにあげたいわ」

 女王、戦争に参加するようになってから性格悪くなったかも。

「あからさまに内戦など始めたら、レイド王国がやってきますからね。アーロンすらわかりませんぞ」

 ジョラーの指摘。

 彼の意見はもっともである。

 今は友好国でも、弱みを見せたらどうなるかということだろう。政治の世界なんてそんなものなのだ。

「そうだ、王子、『港』攻略の件はどうなったの」

「進んでおります。ロムの領土は着実に発展を遂げ、海運、漁業、農産の中心地になりつつあります」

「海運?」

 ローランドは初耳なのだろう。

「河口付近の砦はそのまま桟橋をつけて、港になっています。大きな船は入れませんが……小舟での交易は可能です。それと、漁港としてはかなり漁獲を上げておりますよ」

 尚、『廃城』は若干改修して灯台になっている。

「本格的な海運を実施するには『港』は必須ですがね」

 ジョラーは当然ながら経済にも詳しい。

「小舟では海軍と呼べないですな」

 髭をしごくローランド。

「とにかく、ロムの領土は動員兵力二千を達成しています。農産も拡大中です」

「ほほう」「うむ」

 老人二人は話に感心したようだ。

「『港』近隣の河岸直轄地は既に動員兵力四千。漁業は縮小中ですが、普通に農産が拡大しています。イーサンの努力はなかなかです」

「ドゥリン殿が灌漑で成果を上げたとか」

 女王、あまりイーサンのことは言及したくないのだろう。

「ええ、彼はオーベ殿の城も作り上げて、土木の恩人といっても過言ではないですね」

「オーベ……煉瓦野子爵の領土はいかがですか」

「こちらはあまり発展したとはいえませんね。動員兵は五百です。しかし、防衛拠点としては北平原城と互角の要害となっております」

「あの位置に城があれば、『港』だけではなく、吸血鬼勢力にもにらみを利かせられますな。レイド王も暗黒森林を抜けて奇襲することもできぬでしょう」

 ローランドの戦略分析。

「『港』の魔物の概要は?」

「海棲のゴブリンが千、半魚人が同数。半魚人の指導者が彼らを支配しています。魔法や神の奇跡を使うという話です」

「海ゴブリン? そんなものまでいるのですか」

 ローランドは内陸の人間なので知らない。

「ゴブリン種は簡単に土地の状況に合わせて自らを進化させるのです。たぶん、元はどこかから流れついた普通のゴブリンだったと思われます。漁労などして生きている間に、海棲に特化したのです」

 ジョラー、さすが博識だ。

「しかし、それだけの兵があれば、『港』はすぐに落とせそうですわね」

「そう行きたいのですが、どうやら、南方の海賊が『港』と同盟しているようなのです。ロムの話では、『港』を攻撃すると、必ず海賊が上陸して、村や砦を襲うそうです」

「『港』には住んでいないのでしょう?」

「多分、補給基地にしているのではないかと。そして、どこかすぐ近くに海賊の基地があると思われます」

「海軍の無い我が国では手も足も出ないですな」

 ジョラーが白髪を掻く。

「ガンド子爵ね……あいつをどうにかすれば……同盟するか、服従させるか、討伐……」

 女王は考え込む。

「ホーリー自治領が滅んで奴も慌てているのかもしれません。以前より活発ですな。何か対策を考えましょう」

 ジョラーも無精ひげを撫でた。

「普通にリディアが何か知っていそうですね、あと、海賊の宿敵、交易商人たちも」

「王子、海賊の件は私にお任せください」

 ジョラーには何か考えがあるようだった。

「何かあったら、僕とエリンに連絡してくれ」

 俺はうなずく。ジョラーが何かするのなら安心だからだ。

 ちなみに、エリンは今はCIAかFBIみたいなことをやっている。

 会議で言及されたホーリー自治領は、今はかなり面白いことになっている。

 驚いたことに、ダナがエルフの入植者を連れてきたのだ。

 エルフは人里離れた場所に小規模に散って住んでいる、あまり拡大する気のない滅び始めている種族であり、人間との圧倒的な人口差を埋めようとあがいたりもしない。彼らは魔物との戦いが起きると活発化し、人類に味方してくれる。そのため、嫌われることは少ない。そのためか、あの山間部がエルフの土地になることに反対する者はいなかった。ただし、『見る者』ディアの提言もあったので、封土とはせず、代官を置いて直轄地という体裁になる。身分にこだわりがないエルフたちは抵抗もなく受け入れた。

 実際は、ダナの『ハイエルフ』ではなくて、ノーマルなエルフである。それと、ハーフエルフ。森エルフとは違う意味で世俗化しているタイプのエルフ部族である。彼らは大概辺境に住むので、あのような山間部の開発はお手の物なのだ。

 彼らは自らを『白エルフ族』と称しているので、俺たちもそう呼ぶことになっている。

 あの悪夢の地が、エルフたちの穏やかな文化で浄化されるなら、それは感謝すべきことだ思う。


 あの死骸の山……また、それを見ることはあるだろう、それが王子の仕事なのだ。




今回も承前といったようなお話です。

2021/3/7 文章リニューアルしました。読みやすくなったでしょうか。

2023/4/26 微修正

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