15 下衆と孤高
リザードマンとの激戦から二週間が経った。
リザードマンは河口湿地帯の主に南側に勢力を持っていたが、勢力後退を知った投資家たちが、農村や漁港の建設の許可を求めに女王の元を大勢訪れているという。
河岸域はどう見てもガルディアの将来を担う肥沃な大地であり、既に土地争いのような事態まで発生している。
訴訟などを女王だけではさばききれないので、裁判所を作ろうという話なども出ているとか。
王子も女王の手伝いをせよという要請もあるのだが、今は現地の問題を差配する人間の方が必要なので、俺は城に居てのんびりするつもりはなかった。
リザードマンが残した戦利品、武器、食料、皮革、その他諸々を分配するだけでもひと悶着だった。
皮革はリザードマンの皮を剥がして鞣したものだが……あまり気持ちの良いものではないが、使えるものを使うなとはいえないのが弱小国家の悲劇だ。
褒賞を与えるべき最大のものは『陽光兄弟団』だが、彼らは非常に無欲な者ばかりで、わずかな褒賞さえ欲しがらない。無理に与えることもできないので武装強化の名目で高性能な武具を与えるという形になる。彼らの言い分を聞くと『王子に命を助けてもらったのにその恩を返さないで報酬を貰うの恥である』という事らしい。非常に、自分に厳しい考え方だが、吸血鬼の圧制の元生まれた人間の矜持のようなものなのか。とにかく、彼らは完璧な自分になることを教え込まれていたという。
そういったより良い人間を殺して食うのが吸血鬼の快楽だったのか。
理由はどうあれ、彼らには馬と武器が与えられ、兄弟団から騎士団に格上げになった。現在の正式名称は『陽光騎士団』。
女王のお気に入りぶりも半端なく、何度も訓練の様子を見学している。
あまりに可愛がり過ぎるのか、従来の衛兵隊が騎士団にライバル意識を燃やしているとか。より良い競争なら歓迎だが、醜い嫉妬にならないように注意しないと……。
入植地と新たな封土、特に、オーベの封土は開拓に手間取っている。やはり、河岸から遠いので水の供給に難があり、牧畜がメインとなっている。一朝一夕に強力な土地にはならない。
水の供給、灌漑に関してはドゥリンから面白い話を聞く。
「王子、このティラシス川流域、ほぼ全域だと思うでござるが、上古人が灌漑をした形跡があるでござる」
「どういうこと?」
「つまりですな、川から無数の水路が伸びているでござる。現在はほとんど土の中でござるが、ところどころ水路の遺跡が頭を出しているでござる」
彼の話では太古の水路を掘り返すだけで、灌漑水路が復活するという。
これはゼロから作るより、余程楽な話だった。
「掘り返すだけなら、大した技術も必要ござらん。入植待ちの難民を雇って掘り返してみてはいかがでござろう」
俺は早速、ミリアとイーサンにこの話をする。
彼らと話し合った結果、民間の土木業者に仕事をさせることになる。要は流行りの派遣業みたいなものだ。この小国家でもそのような人間が生まれてきているのだ。よく考えたら、冒険者ギルドに近いものがある。させる仕事が違うだけなのだ。
その手配が終わったころ、リディアが王宮にやってくる。
「クリス、あんたかなり大物になったね」
いつもながら、無駄に露出の多い鎧。
「僕なんて姉上に比べたらまだまだです」
ここは城の控室。
宮廷前後に有力者が歓談する(あるいは憎悪をぶつけ合う)場所である。
俺の後ろには常にアモン、足元にオマケ生物モフオがいる。
エリンは宮廷には居たがらない。
「その大男が噂のアモンだな」
無言で礼をするアモン。
あまり礼儀はない男だが、悪意はない。
「あんたのうわさは聞いているよ、正体不明の超戦士だとね。リザードマンどもを蹴散らしたとか。あの双頭悪魔グロフェンを倒したとは恐れ入る」
「……」
「ありがとう姉上」
俺が代わりに答える。
「あのグロフェンには長いこと悩まされていたからねぇ。あんたのおかげであのトカゲ共は本拠地以外を放棄して撤退したよ」
リディアの領土は南部の広大な土地だが、概ね山地だった。リザードマンは湿地に生息するので、彼らを追い出せば農地や漁場を確保できる。。
「私の土地も西に広がったよ。開発はこれからだけど」
肩をすくめるリディア。
「王子、あんたにライバル意識燃やして戦っていたら、あのホーリー自治領の奴らが今度は東でのさばってきたんだ。海賊も相変わらずだし。どうだアモン。私の部下にならないか。王子より厚遇するぞ、条件をいえ、私の体でもいいぞ」
本当に下品な女だが、魅力はある。
「……謹んでお断りする。王子は命の恩人。まだ恩返しもしていない」
大貴族、しかも美女の勧誘をきっぱり断るアモン。
うーんカッコいい。男はこうじゃないと。
「姉上、アモン殿を譲るわけにはいかないですよ。女王もお気に入りだし」
「ち、母上もか」
ちなみに、アモンは王宮の女性たちにモテモテだった。
顔もわからないのに。
やはり、すさまじいまでの筋肉や存在感みたいなものが女を呼ぶのだろう。
「ところで本題は何ですか、姉上」
「ホーリー自治領の奴らは思ったより手強くてな。援軍を頼みたい」
「ゲーマン殿は?」
「あのケチ男が兵を貸すわけないだろ」
ばっさり切り捨てるリディア。まあ、たぶん、真実だろう。
「レイド王国の農民反乱も終結しそうですし、奴らが南下する危険性は十分ありますから。強力な城塞を作ったとはいえ、安易に兵は貸せないですよ」
「レイド王の所業は聞いたよ。馬鹿丸出しだよな。あんまりにも残虐だから、今度は広沃野北部の諸侯が反乱開始したって話だぜ。だから、レイド王国は暫く放っておいても大丈夫なんだよ」」
それは初耳だった。一応、こちらも隠密は派遣しているが、その情報は無かった。
(初耳というのがばれるとまずいかな。それに、はったりかもしれない)
「そういう噂は僕も聞いていますが、北部をがら空きにはできませんよ」
「北平原城があれば大丈夫だろ。あの魔女ダナが作ったというじゃないか」
「直轄地の兵力は女王の許可がないと動かせません。僕の手持ちの兵は、衛兵の一部と北平原城の守備兵だけです。女王から許可を取って頂きたい」
厳密にいうと、北平原城域の屯田兵も動員する権利を持っているが、あえていわなかった。
彼らを動かすには国家の要請が要る。
「あんたが乗り気なら、女王も許可するだろ」
「それは何ともいえませんね」
あいまいな答えをする俺だった。
「あんたも食えない奴だねぇ。あたしを味方にした方がいいと思わないの?」
「姉上、僕の権限は見た目よりかなり小さいのです。爵位もありません。領土は開拓したばかりの北平原城だけ。現場指揮ばかりしてますから、大きな戦略などは女王が全て決めているのです」
嘘ではないが、『大きな戦略』を女王が言及したことはほとんどない。
「じゃあ、あんたの手駒だけでも来てくれないか」
「それならいいでしょう。でも、遠征に行く許可は必要ですよ」
「はあ、仕方がないねぇ」
というわけで宮廷に向かう。女王に公式に謁見するのだ。
宮廷に入ると、なんだか騒がしかった。
「レイド王国の外交使節ね」
リディアが教えてくれる。
女王の前にきらびやかな衣装をまとった髭の男。これが外交使節らしい。
彼の周りには最新式の甲冑を纏った騎士。
「女王、レイド王は貴国を思っての申し出です。素直になられた方がよろしいですよ。我が国は五万の動員兵力があります。そして、この重装騎兵。貴国の貧弱な騎兵とは比べ物にならないはず」
こちらの兵は……ざっと見て、大貴族が素直に兵を出せば三万くらいかな。たぶん。ゲーマンとリディアが来なかったら一万くらい。
野戦では勝ち目ないかなぁ。
「農民を奪ったことは咎めますまい。貴国が誘拐したアデラ姫の返還、賠償金十万。この二つをなされたうえで、ミランダ女王は我レイド王タルカンと婚姻されるのです」
「これが求婚の使者ですか。脅迫者ではないですか!」
激怒する女王。
当然だわな。
「戦に負ければ、あなたは妻ではなくて、奴隷女として王の足下にひれ伏すことになりますぞ、その時は私も、ウヒヒヒ」
いやらしい笑いをする使者。
女王は怒りのあまり絶句しているようだ。
ガルディア王国の貴族たちは平和主義というか事なかれ主義が多い。少し頑張れば魔物を追い払って領土を拡大できるのに、わずかなリスクも嫌ってやらないような連中だった。
しかし、さすがにこの使者の態度には皆怒りを感じ始めていた。
「このようなものは追いだしましょう」「ガルディアを舐めすぎだ!」
ふと、いつもの他人事のような気持が湧いてきた。
「アモン殿、頼みがあります」
「……」
「僕を守ってくれませんか、これからやることで死にそうなので」
思わず苦笑する。
「御意」
俺は人を掻き分けて、使者に近寄る。
剣も短剣も置いて彼らと話せる距離まで近づく。
「これはこれは、レイド王国の使者殿。確かジェレリー卿と仰られたか、私はクリサレス王子。今、聞き捨てならないような言葉が耳に入りましたが、まさか本気ではございますまい」
ニコニコしながら近寄る俺。
もちろん、敵の護衛が止めるが、俺は寸鉄帯びていないことをアピールする。
使者が兵を制する。
「ほほう、あなたがあの有名な……あなたのうわさは聞き及んでおりますよ、何ともおかしな趣味をお持ちだとか」
いやらしい笑いを浮かべる。こいつはガルディアをを挑発するように命令されているのかもしれない。
「フフフ、ご存知ならば話は早い、ジェレリー殿一度私と」
好色そうな顔で彼の手を取る。
一瞬戸惑うジェレリー。
張り付く笑顔。
こいつが同性愛かどうかはわからないが拒否する雰囲気はなかった、が。
もちろん、俺にそんな趣味はない。懐まで入れたら十分だった。
右手のこぶしを握り締め、小手を出現させると、渾身の力で彼の頬をぶん殴る。ちなみに、こいつは細身の長身で、俺より頭一つは背が高い。
力も俺よりあるだろう、しかし、こちらも最近かなり鍛えていたし、下手な金属より硬い小手なのだ。ただでは済まない。
ボコ!
「ゴ、ごぼぉお!」
たぶん、魔力も乗っている。
文字通り、ジェレリーは吹き飛ぶ、彼の左顔面はざっくりと切れた。
「な、なにをする!」
叫ぶジェレリー。
俺の両側にいた敵兵たちが一斉に剣を抜くが、稲妻のようなアモンの拳が敵兵をゴミ屑のように吹き飛ばす。
彼が三人を殴り倒したところで、
「おやめなさい! もうこれ以上の騒乱は許しません!」
女王の声。俺とアモンは止まる。
敵兵も々敵地なのだ、戦い過ぎたら命がないのはわかっている。
剣を収めて使者を助け上げた。
「お帰り下さい、ジェレリー卿。レイド王国と話すことは何もありません。そう、タルカン殿にお伝えするのです」
「こ、こ、このままで済むと思うなよ、小僧!」
口から血を吐き出しながら、ジェレリー卿は退席する。
それを見届けると、女王は退席してしまう。宮廷はお開きになった。
人々は興奮冷めやらぬといったとこで、
「王子よくやってくれた」「見たかあの巨人の手練、重装兵が子供みたいに吹き飛ばされていたぞ!」「なんてことをするんだ……」
様々な感想を述べる。
概ね俺やアモンを称賛する声だったが、批判めいたことをいう奴も一定数はいる。
「見ましたか、あの使者の傲慢な態度。レイドに屈すればあのような下卑た輩に奴隷のように扱われるのです。惨めな生存など死より劣るものです。僕と一緒に戦いましょう」
人々に声をかける。
「そうだ、王子のいうとおりだ!」
「ガルディア万歳。王子万歳。女王万歳!」
人々は熱に浮かされたように、俺や女王への忠誠を口にする。
俺は手を振ると、
「皆さんはこれから遠くない未来に敵と戦う可能性を人々に説いていただきたい。そして、不意を撃たれぬよう準備を!」
「そうだ! 俺たちが国を守る!」
人々はそういいながら、退席していく。
もちろん、苦虫を噛み潰したような顔の奴らもいた。
「やっぱり、ゲーマンの手下どもは喜ばないわね」
リディアが面白そうにいう。
「あ、姉上、なんだか、女王に話し難くなってしまいましたね」
「そこは身内だから、控室に行って話をしましょう」
ずかずかと女王の控室に行くリディア、俺も当然行くことになる。
王子と姫なので控室にはあっさり通される。
「何の用ですか、クリス、リディアまで」
珍しく、女王は迷惑そう。あまり感情を見せない人だが、今は機嫌が悪いのだ。
「先ほどは見苦しい真似をして申し訳ありません」
すぐに謝る俺。
「……ちょっと、すっきりしましたが、あからさまにレイド王国を敵に回してしまいましたわ」
女王は批判する。
「レイド王国寄りの貴族たちもこれで覚悟が決まるのではないでしょうか。希望的観測ですが」
「アデラ姫に感化された人も多いですから、レイド王国とはもう決裂するでしょうね」
あまりうれしくないというのが本音のなのだろう。
「お互いニコニコ仲良くやっても、次の日には襲い掛かってくるかもしれません。レイド王は信用できませんよ。あの残酷さは他人に全く同情しない性格だと存じます」
「……そうよね。どうせ敵になるわよね」
憂鬱な女王。
今日は珍しい反応だった。
「女王、レイド王国の北部諸侯が反乱を起こしたので、暫くは安泰です。それに、あの農民反乱の最後の拠点トーバック城もまだおちてません。今は北の敵が動く前に内部を固めるとき。そのために、南の敵ホーリー自治領を討つべきです」
リディアがこれも珍しく力説する。
「北部諸侯はイスカニアと非常に懇意にしているわ。それなら、イスカニアがそろそろレイド王国に見切りをつけたという事かしら」
「それで慌てて使者をよこしたのでしょうか。傲慢な態度で逆効果でしたが」
「今なら余裕がありますわ。首都近辺の兵を動員しても問題ないんじゃないの?」
リディアがにんまりしていう。
「民兵、屯田兵は開拓を始めたばかり。兵に使うには無理があるわ。陽光騎士団と衛兵の一部、あとは冒険者かしら。動ける人は」
「ダナはどうなの?」
リディアは俺をチラ見する。
「人間同士の政治的な問題にはタッチしないそうです。もし、参加をお願いしたら万単位の金貨を要求されますよ」
「万……これだから偉そうなハイエルフなんて嫌いなのよ」
「動ける人間は、ざっと、見て五百くらいでしょうか。後は民間から民兵を募集するか、我々の北部諸侯に援軍を募るかですね、首都近郊の旗本諸侯は難しいでしょうから」
この『我々の北部諸侯』というのは首都北東の山地帯に小さな封土を持つ騎士の領土群である。以前何の功もないのに河岸の土地を欲しがっていた奴らだが、今回の遠征に参加する度胸はあるのだろうか。
尚、首都近郊の小諸侯は衛兵に兵を出している場合が多いので、あまり動員対象にはならない。既に出しているという見方もできる。
「あの人たちはダメね。代々あの小さな土地にしがみつくだけの連中よ。募集をかけてもいいけど期待しない方がいいわ」
女王のお言葉。さすが現実をわかっている。
「あの人たちはなぜ、あんなに冒険心がないのです?」
「オークはゲーマンが対応してるからあまり騒乱がないし、魔物も少ないのよ。おかげで冒険しなくてもそこそこの生活ができるわ、少なくとも領主は。だから何もしない奴らになり果てたの」
リディアが説明してくれる。
「魔物が少ないのですか……それは不思議な話ですね」
「あの山間部の中心地に『アーマーラ大神殿跡』があるわ。上古人の大地母神の神殿跡よ。魔物はあの辺りを嫌ってるの」
「アーマーラ? 記憶がないのでわからないですねたぶん」
初期の設定を思い出す俺。
「アーマーラは上古人の大地母神よ。人間で信奉してるのはいないわ。オークに信仰が残っていると聞くけどね。でも、その聖なる力はまだ健在であの山間部は守られている。守る価値もない連中だけどね」
リディアは辛らつである。
「神の奇跡が健在なら、現地の人は信奉しないのですか」
「あの辺りはゴリゴリのローヴィエ信仰で、滅茶苦茶かたくなな連中なの。イスカニアを追い出された初期の移民は本当に愚民ばかりよね、ホーリー教団と同じよ」
リディアは『初期の移民』という言葉を吐き捨てるようにいう。
同じイスカニアの移民でも時期や地域で毛色が違うのだ。面白い話だった。
いずれ、一度その大神殿跡も調査したい。冒険者でも雇うか。
「では、あのあたりの騎士たちは魔物ともあまりやりあわないから、実戦経験に乏しいのでしょうか」
「彼らが何かと戦ったとは聞かないわね。農民反乱や流民を追い出したとか、そういう話が稀にあるくらいかしら」
女王が頭をひねる。
「ならば、彼らを動員して自治領の奴らと戦って能力を見極めてはいかがでしょう。仮に協力的でも足手まといな実力ならないのと同じです」
「それもいいわね。リディア、ホーリー軍の武装や規模はどのような感じなの」
「今、千五百の兵で南東のサマルを占拠しています。武器は鎗、小剣、弓。鎧は金属の胸当て兜と皮鎧。装備は古いですわ、青銅を多用しています」
「他には特質は」
「真天神信仰の神官が光の魔術を多用します。主に目くらましみたいな魔術です。それと、恐ろしく残虐だわ。捕虜にした民間人を柵の前に縛り付けて弾除けに使ったりするの」
「神を信じる奴らがそんな悪趣味なことをやるんだ」
「神を信じるから、異教徒は動物以下の扱いね」
「最悪だね」
「頭が犬のノールとかいう生き物を下級兵士として使っているわ。こいつらは怪力だけど、鎧無しよ。服もね」
毛深い人間の体に犬の頭が乗っているとでもいえばいいか。
「あら、じゃあ、あれもほり出してるの」
ミランダ女王の目が輝く
「腰布は付けてますわ」
「残念ね」
何がだ!
「と、とりあえず、我々の北部諸侯に募集をかけ、衛兵から騎兵百、陽光騎士団から二百、僕の領地から屯田兵三百出すという事でいかがですか」
「騎士団はあと百出しなさい」
女王はお気に入りの陽光騎士団の活躍が見たいらしい。
「七百と不確定要素がプラスね。ありがとう、それだけあれば、目先の賊は倒せるわ。欲をいえばもう少し欲しいけど」
「全土に兵を募集したらもっと集まるでしょう、時間はかかりますが」
「時間は惜しい。即、出せる兵だけでいいわ」
リディアが腕を組み、大きな胸をそれに乗せる。
「全土に布告するのはやめましょう。南に兵が集結すると宣伝するようなもの、レイド王やその配下が変な気を起こすかもしれませんわ」
女王の懸念は正しいだろう。
「では、私が出るわ。王子は留守番ね」
「女王が出るのはやめてください。戦争しなくても旅に安全なんてないですよ」
「私の陽光騎士団が活躍するところ見たいわ」
女王、頬を膨らませる。
「なんでそんなに血なまぐさい物を見たいのですか」
「だって、イケメンばっかりじゃない、あの子たち」
「え、そうなの?!」
リディアの目が輝く。
「ええ、まあ、確かにそうですけど、それはあの残酷な人間牧場で、選別された結果そうなったんです。悲劇が彼らをそうさせているんですよ」
「イケメンは、イケメンよねリディア。理由なんかないわ」
「女王と久しぶりに意見があったわ」
「女性兵士も多くて、彼女たちも美少女ばかりですよ」
「ごめんなさい、それはあまり興味ないわ」「私も」
女どもが口々にいう。
「わかりました、出るのは良いですけど、僕は留守番なんて御免ですよ」
「じゃあ、衛兵隊長のリンゼイ伯爵に任せましょう。彼は私の一族ですから忠誠心は大丈夫よ」
「母上、彼はどういった関係なんですか、記憶が……」
前の設定を思い出してもらおう。
「私の実家は中原のクローネ公国に……」
リンゼイはミランダ女王の甥になる。
兄の子だが、その兄は庶子で母が違うという。大貴族らしくややこしい関係なのだ。
ミランダはクローネ公国というイスカニアの属国の公女だった。イスカニアに若干距離感があるのはその所為なのだろう。属国だから、脅迫されて属国になったのだ。
「一族の方なら大丈夫ですね、前に出る人ではないみたいだし」
事実、リンゼイはかなり地味な男で、聞かないと発言しない人物である。
「私たちがいない間、問題起こさなければいいのよ」
女王、なんというか凄く人を見切った発言ではある。
「話は決まりね、早速兵を集めてくれるかしら、王子」
俺はうなずくと、退席する。
冒険者を連れて行こう。
俺の胸に様々な思いが湧きたった。
2020/10/28 文章リニューアルしました。
2023/4/26 微修正




