14 黒騎士と女王2
女王の命令で出発する部隊。
彼女の馬車を中心にぞろぞろと徒歩と馬で行くことになる。
尚、アモンは年代物の戦車を仕立てて乗ってもらうことになった。
御者と戦士二人乗りだ。彼が単独で馬に乗るのは余程の軍馬でないと無理であり、今王国にそのような馬は無かった。
女王とアデラ姫、その他女官が馬車に乗る。
メルとカリファは女物の鎧を着て、徒歩で随行している。
女王は農民たちに出会うと手を振り、何か不足しているものは無いかと聞く。
彼らは概ね足りていることに感謝し、女王に笑顔で手を振る。
俺はほっとした、農民たちは貧しいが、困窮している雰囲気はなかった。
作物も順調に実っている。
農民たちの当座の生活を支えているのが川での漁であり、食料確保に貢献している。今まで全く採ってこなかったので、手つかずの漁場から、食べきれないほどの魚が取れる。魚の余剰は交易に回され、とりあえずはガルディア国全域に流通し始めている。
「塩が足りないですね。魚の保存に必要なんです」
漁民からはそんな声。
「リザードマンがちらほら見かけられます」
そんなことをいう顔役の農民もいる。
正午ごろに、ローランドと甥のルキノ、ケイ、新人冒険者数人と出会う。
河岸でキャンプしていた。
「ローランド。奇遇だね。ここで何をしているんだ」
「王子。それと、女王陛下のご一行まで……女王陛下、ご機嫌麗しゅう。それがしキルボール出身の武辺ものローランドと申します。この若いのは甥のルキノ。この女性は蛮人戦士のケイ……」
女王は軽くうなづいて、礼を受ける。
「我々は、漁業組合の依頼でリザードマンの討伐任務を行っておりました」
「リザードマンは南東の片隅にしかいないのでは?」
女王が問う。
「どうやら、最近勢力を拡大しているようです。沼ゴブリンがいなくなって、ティラシス河口域に進出しているようです」
「討伐の成果はありましたの?」
「私は六匹倒したよ、女王」
ケイが答える。もちろん、敬語は使えない。
改めてみると、同じ女と思えない筋肉を持った人だ。
「ホホホ、それは勇ましいこと。これからもよろしくお願いしますわ」
ローランドが慌てて、交渉は俺に任せろという顔をする。
せっかくなので、彼らにクリス城までの案内を頼んだ。
「あの、漆黒の戦士は何という方ですかな」
ローランド程の騎士なら、興味深い戦士を無視することは無い。
「彼はアモン。一度レイド王につかまったが、死と生の境をさまよった後、アモンとして復活した」
「あの巨体に、あの鎧と剣。戦場でどのように活躍するか、楽しみですな」
髭をしごくローランドだった。
その日の夕方にはクリス城に到着する。
実はかなりの強行軍を行った。そうでもしないと、まともな宿泊施設が無かったのだ。
クリス城は本当に小さな城なので、泊まれるのは女性だけ。
男たちは周辺に天幕を張る。尚、城の周りには屯田兵が集結し始めていた。
ミリアがやってくる。
「王子、屯田兵たちを女王の護衛として集結させてます。ロム殿も明日の朝には到着されます」
屯田兵は自作農の民兵に近い存在だが、郷里単位で部隊として編成され、士族身分かつ専業戦士の部隊長が指揮し指導している。普段、武器を持ったこともない農奴の民兵よりははるかに動きがいい。自作農を徴兵した民兵より士気も高いようだ。
特に命令しなくても、女王が来ただけで防衛するために集結してくれている。腰の軽さも良い。
ロムの部下、ホルス人の伝令がやってくる。
「王子、『廃城』付近の湿地帯に、リザードマンが集結しています。沼ゴブリンの姿も確認できます。数はおおよそ二千」
「ミリア、集結した兵は何人だ」
「おおよそ、五百です」
「もっと招集をかけられないか」
「多分、明日の朝には更に、五百集められます」
「伝令、ロムに至急駆けつけてくるように連絡を」
「兎野卿は歩兵三百、弓二百、陽光兄弟団二百で明日の朝にはこの城に駆け付けます」
伝令は胸を張ってこたえる。兎野卿はロムのことである。
「七百もいるのか、すごいな、いつの間にそんな兵力を養成したんだ」
「兎野卿は親戚が凄い資産家らしいですよ。ひっきりなしに彼の親戚がやってきますし、アーロンから入植者が彼を頼ってやってきます」
ミリアの説明。彼はガルディア北東部に精通している。
「確かに、彼は無名の時からかなりいい装備だったね。親戚の援助があったのか」
ミリアは簡単な地図を広げる、『廃城』のある河口湿地帯の前に二つの砦が描かれている。
「『兎野南砦』は兎野卿の新設、『六番砦』は僕の配下が見張っています。砦はそれほど頑丈でもないので、持って、二三日でしょう」
「落ちる前にケリをつけるよ。モタモタしないですぐに進撃する」
「こちらは千七百、敵は二千。やや苦しいですね」
「ロムの部下、特に陽光兄弟団は本当に強い。彼らを主軸にして敵を斬り崩す。これしかない」
「ええ、本当に。しかし、リザードマンも強敵ですよ。彼らの皮膚は皮鎧並みに硬いのです」
「こちらの強みは冒険者とそこから成り上がった連中の底力だ」
「そういえば、ダナさんはいらっしゃるんですよね」
「雰囲気だけど、あまり乗り気ではないよ。彼女」
「魔物討伐だけ手伝ってくれるという噂ですが……」
「沼ゴブリンは魔物で、リザードマンは微妙らしいね。彼女からいわせると」
「違いは判りませんね、どちらも化け物ですよ。とりあえず、多少沼ゴブリンはいるみたいですよ」
「どうだろうね。彼女のことは度外視して、援助があればラッキーくらいに思うべきだよ」
ダナに頼りたい気持ちは誰にでもあるだろう。
しかし、彼女は常人とは違う規範で生きている。
「強いのに力を使わないというのは、批判を浴びるでしょうね。彼女もつらい立場ですよ。彼女ならレイド王国の虐殺を止められたんじゃないかという批判がこっそり出回ってますね」
ミリアは庶民のうわさ話に強い。
「彼女は神じゃないからな。世界の紛争を止めるために活動してるわけでもないし、責任も負ってないよ」
「私もそう思います。しかし、家族を亡くした人間からしたら、助けてくれたらいいのにという思いはあるでしょう」
「政治家が何をやっても責められるのに近い感覚だな。彼らも普通の人間でしかない」
ミリアと打ち合わせの後、主だったもので軍議を行う。
「リザードマンは共存できない敵。集結しているなら好機です、撃ち果たすのです」
女王が開口一番、そのように告げる。
俺、ミリア、イーサン、ローランド、ケイ、ルキノ、ロム、コレット、アモン。尚、ダナはいない。
「ダナさんは先ほどから姿が見えない。何らかの理由で立ち去ったのだろう」
俺はそういう、彼女に頼る考えを捨てさせないと。
「彼女がいれば楽に勝てると思いますが。何故いないのです。彼女は少々無責任では?」
イーサンが非難する。
「彼女は一介の冒険者に過ぎないし、雇うたびに一万以上の金を要求される。魔物退治に相当するときだけ彼女は無料で働いてくれるのだ。例えば、吸血鬼勢力との対決などだ。残念ながら現状の国力では雇う金が無い」
「一万ですか……さすがに、それは」
イーサンも驚いている。この国だと国家予算レベルの話なのだ。
「彼女は凄い存在ではありますが、国家は彼女を当てにしていてはいけないのです。自力の実力で問題を排除してこそ、勝利の意味があります」
俺はちょっと熱く語る。
金が浮くなら、どんな演技でもやってやるよ。
「よく仰いました、王子。この戦いは私が先頭に立ちます。皆の獅子奮迅の働きを期待しますわ」
女王、ちょっと無茶過ぎる。
「私が女王陛下のために、露払いをしよう」
アモンが重々しくいう。
「微力ですが、私も手伝います」「この私が女王陛下を守ります」
……人々はかなり高揚して、士気が増している。
女王はかなり無謀だが、いい雰囲気をつくった。
「では、作戦はこうです。敵は数は多いですが烏合の衆。陽光兄弟団を中心に、敵兵力の中央突破を狙います。腕の覚えのある方は兄弟団の前で道を開いてください。女王陛下は兄弟団の中でお願いします。屯田兵は広がって戦線維持。弓兵隊は北東から攻めてください。騎乗している衛兵隊は、予備兵力として待機です」
会議は終わり、兵が集結する。
屯田兵は難民や流れ者、様々な出自の者たちだったが、女王陛下と共に戦うと聞いて熱く士気が高まっているようだった。
ロムの兵は中心になるが、歩兵はアーロン出身の人間、弓兵はホルス人である。装備も訓練も、直轄地の屯田兵より勝る。陽光兄弟団は最も精悍で、無口で肝が据わっている。武器は各人が好きなものを使っていて、ロムの一般人の兵団のように装備の統一がない。
「兄弟団は……鎧こそ皆概ね重装だけど、手に持つ武器はバラバラだね。大丈夫なのか」
「心配いらない、誰よりも強い」
ロムの手短だけど、強いことば。
「君がいうなら心配ないね」
進撃を開始する。驚いたことに、クリス城を出てすぐのところで敵は集結していた。
敵は北と南に集団を形成し、北側の兵は大楯を持っている。北軍先頭には非常に巨大な双頭のリザードマンがいる。南側は槍を持っただけの軽装兵が多い。
「中央突破をすれば、挟み撃ちになって苦戦する恐れがありますな。北側の兵は弓対策までやっておる。まるでこちらの策が漏れているような」
ローランドが進言に来る。
「ローランド殿の仰る通りだと思います」
「敵は対魔法結界やってるよ。シャーマンが集団で何か唱えている。たぶんファイアーボールは効かないわ」
コレットのキャワイイ指摘。
敵の後方に指揮集団が固まっており、そこに王やシャーマンがいる。
「ラレンチがいる」
ロムが望遠鏡で確認している。
「かなり久しぶりの奴だ。まだ何か陰謀やってるんだな」
「南の兵はかなり弱い。数だけだ。騎兵を突撃させて、屯田兵でとどめを刺す。北の兵は兄弟団で持ちこたえて、南がつぶれるまで持久戦。弓兵は中央後方に移動して、両方に牽制射撃をする」
俺は矢継ぎ早に策を立てる。
戦いは始まる。
ゆっくり前進する全軍。
魔法が発射されるが、消えてしまう。
敵は攻めの魔法は撃ってこない、ファイアボールをかなり警戒しているのだ。
双頭のリザードマンが女王を指さし、何か叫んでいる。敵が大きな声で呼応する。
女王を打ち取れと気勢を上げているらしい。
アモンがのっしのっしと巨大リザードマンに向かっていく。矢や投げ槍が飛んでくるが、器用にはじき返している。
あの巨剣をふるう。剣捌きはまるで小枝を振り回すようだった。
「二首、俺が相手だ」
阿吽の呼吸で、一騎打ちが始まる。
全軍は一時、その様子を見守ることになった。
敵は片手に斧、片手に鞭を持っている。
鞭を振り回すが、ひょいと避けると、まるで細い剣のように素早く振るって鞭を半分のところで斬ってしまう。
双頭は鞭を捨てると、斧を振りかぶって重い一撃を落とす。
アモンはこれも軽くかわす。地面に電撃に走る。どうやら電撃の追加効果のある斧だと思われる。
敵は続けて斧をぶんぶん振り回す。アモンは避けきれず、二度三度と受けを行う、そのたびに電撃が体を痺れさせ、ついには膝をついてしまった。
リザードマンたちの歓声が上がる。
しかし、
双頭がとどめの一撃を入れる瞬間。
ダメージは演技だったのか。特に何らかの忌憚もなくさっと踏み込んだアモンは、右手の鉤爪を突出させると、左側の頭を串刺しにした。
左の頭は血を吐いて、動かなくなる。
「ギャー!!!」
不気味な叫び。
長年の兄弟を殺されたのだ、右側は怒り狂っている。
右手の斧を振り回すが、今度は正確性を欠いている。右手は左側頭の担当だったのか。
アモンは両手で大剣を振り回すと、敵の右腕を跳ね飛ばしてしまう。
しかし、双頭はあきらめない。
敵はアモンの右腕を左手でつかむ、が、抵抗はそれが最後だった、アモンは左手だけで剣を振り下ろし残りの頭も叩き潰す。。
ドウ、と倒れる双頭リザードマン。
今度は王国側から歓声が上がる。
「勇者アモンが魔物を倒しました! 今こそ敵の息の根を止めるのです! 全軍突撃!」
女王の高らかな叫び、気力の塊となったガルディア軍は一気に敵に乱戦を挑む。
敵は動きが鈍くなる大楯を慌てて捨てるが、そのような僅かな混乱でも、弱気として映る。
真っ先に陽光兄弟団が疾走して突撃し、次々と敵を打ち取っていく。
兄弟団は様々な武器を使う。槍、剣、メイス、フレイル、ハルバード……ナイフで二刀流のような異形な戦いを行うものもいる。最も自分に適した武器を自由に扱う。
一人一人が英雄のような部隊だった。
「殺せ! 一人残らず!」
女王の声が戦場にこだまする。この人、こんなイケイケ女将軍だったんだ……。
俺は女王が孤立したりしないように、兵士たちを細かく動かして、突破口をふさぐ。北側だけ開けるように指示。
完全な包囲殲滅は敵を死兵に変えてしまう。
南の方は、北の混乱が波及したのか、騎兵が縦横無尽に駆けて、敵が集結するのを防ぐ。
アモンの剣が一閃するたびに、敵の胴体や首が真っ二つになる。
リザードマンは凶暴な生き物らしいが、アモンの圧倒的な破壊力の前に、とまどい、恐怖に負けて逃亡するものが現れる。
冒険者たちも負けてはいない。
ローランドこそ作戦指揮のアドバイザーが欲しくて、俺の手元に待機してもらっているが、他の冒険者も縦横無尽に敵を切り倒しまわっている。ケイは愛用の両手剣で敵の首を器用に刎ねていく。ロムは敵を炎で焼き、ルキノも次々と敵を刺している、飛ぶように跳ね回る剣術だった。尚、彼の兄と友人たちはゲーマンに仕えている。ここにはいない。
ミリアとイーサンは騎兵隊を指揮して、軽装の敵兵を踏みつぶし、跳ね飛ばし、槍で刺して倒していく。
屯田兵たちは十人一組になって、隊長の指令で攻守ともに手堅く戦っている。盾兵五人が敵の攻撃を食い止め、後ろ五人が弓や大槍で敵を倒していく。以前使っていた民兵と違い、一人一人で戦わない。これだけで装備に大差はなくても、戦果には大いに違いがあった。
敵の劣勢は明らかだった。
戦場から逃げ出す敵が増えていく。逃げ出す敵はホルス人の弓兵隊の餌食になって、次々と倒されている。
敵の指導部は形勢不利と見て、北の故意に開けた場所に逃げ始める。
現状、敵の北側の部隊はほぼ全滅か逃亡という状態になっている。
ラレンチがいきなり姿を消す。どうやら、透明化の魔術らしい。前はテレポートだったが、あれは自力ではなくてスクロールだったのだろうか。非常に高価なマジックアイテムである。今回は用意できなかったのだろう。透明化して逃亡するつもりなのだ。
しかし、その思惑はすぐに潰える。
アモンは足元に落ちていた石槍を拾うと、何もない空間に槍を投げる。
ボスッ、という音がして、腹を串刺しにされたラレンチが姿を現し、海老反りになって倒れる。
「なぜ、俺を補足できた……」
そういったのだろうか、何か口を動かしながら、ラレンチは死亡する。
リザードマンの王やシャーマンたちも逃げ出す。さすがにそれは一般のリザードマン達が必死に守り、逃亡を助ける。
次々とリザードマンたちは殺されていくが、どうにか王だけは逃げ延びてしまう。俺も、追撃はさせなかった。
敵は湿地に飛び込んでしまったのだ。そうなると犠牲が多くなる可能性がある。湿地を抜けて川を渡り、根拠地の南に逃亡したようだ。
戦は勝利に終わった。
敵は概ね壊滅的な打撃を受け、半分も生きのびていない状況である。こちらの犠牲は百程度。歴然とした大勝利だった。
勝因としては、やはり、屯田兵と中核部隊の強さにあったと思う。基本的に強かったから順当に勝ったのだ。
この戦いは後に『兎野の合戦』として記録される。
戦利品を集め、リザードマンの死骸が山となった。
屯田兵たちは、リザードマンの死骸から、皮を剥ぎ始める。中には焼いて食べる者もいるようだった。
「リザードマンはいい皮鎧の材料になるんだよ。肉も臭みもないし、脂がのって旨い」
兵たちに聞くとそう答える。
知的生命をそのように扱うことに抵抗はあったが、貧乏な彼らへの報酬になるなら、止めることはできなかった。
負ければ、肉として焼かれるのは人類側だったのだ。これは純粋な弱肉強食だった。
俺はロムに会うと、
「勝ったのは良かったが、屯田兵はやや浮かれている。ロムの兵は警戒を怠らないでくれ」
無言でうなづくロム。
「それにしても、ロムの部下は七百もいるが、何か目的があったのか」
「『港』を落とすつもりだった」
聞くと、ロムの『兎野砦』の城下町は三千人もの人間がいる。
成人男子が非常に多く、彼らの大半は武器を持っており、すぐに兵になれる。陽光兄弟団は今回二百人参戦したが、訓練中の兵も加えるとその倍はいる。ロムの領土一つで最大千程度の動員力があるのだ。
「いつの間にそんなに人口を集めたんだ」
「アーロンから続々と移民が集まっている」
ホルス人の移民は彼の親類縁者だが、人間の移民はアーロンの特定の地域からやってきている。白鱗山脈を超えると、不毛の高原がひろがるが、不毛の地で生活し、貧困から抜け出せない経済難民的な連中が大勢きているという。
「あのあたりはアール人という人間が多い。彼らは白人種の移民に豊かな土地を取られて、僻地に追いやられている。今、彼らはガルディアに行くのが流行っている。俺は彼らの有力者と知り合いだ」
ロムがぽつぽつと語ってくれる。
人口の増大は、今のところよいことの方が多いので、何も文句をつけるつもりはない。
「敵に動きを読まれていたよな」
俺はロムに確認する。
「ああ、たぶん裏切り者がいる」
アモンが仕留めたラレンチの死骸を検分する。所持品は魔術に関係するものだが、出自を特定するものは無かった。
冒険者たちも集まってくる。
「この御仁は、半オークですな」
ローランドが見分して述べる。
「半オーク?」
「ほとんど人間と変わらないが、オークの血を入れて、悪魔信仰の下僕として作られた種族です。世界中で騒乱を起こしておる。確か、アーロン王国でも彼らと戦争になって、半オークは大虐殺されたと聞き及んでおりますぞ」
「嫌われていますからね。実際、悪事に加担している奴が多い。全員が悪人ではないですが」
ルキノが補足してくれる。
「アモン殿はこいつの透明魔術をどうやって見抜いたのですか」
ミリアは興味津々といった様子だ。
「私の兜がこいつの姿を捕らえていた。はっきり見えたわけではないが、魔力の塊を見つけたのだ」
「色々性能があるのだな」
これは役に立つ代物だ。俺は感心した。
「鑑定、魔力知覚、暗視、今のところこのような性能がある」
アモンは包み隠さず教えてくれる。
「その性能で、裏切り者は発見できないか」
「人間の気持ちや心まではわからない、が、そこの兵士が持っている魔力物品が通信に使うものだという事はわかる」
アモンがミリアの部下一人を指さす。
ミリアの腹心の一人が取り押さえられる。彼の所持品の中に、『通信クリスタル』という物品があった。
「まさか、アルディス……」
ミリアはその兵士を信じ切っていたのか、かなりショックを受けている。
大勢の冒険者相手に抵抗できないと考えたのか、彼は大人しく連行されていく。
「王子申し訳ございません、あのような裏切り者を近寄せていたとは……」
ミリアは土下座せんばかりに跪いていた。
「我が国は新参者が多い。スパイが紛れ込むのは致し方ない面もある。奴がどのような方法で入り込んだのかしっかり調べるんだ」
「はっ」
優しげな笑顔が似合うミリアがかなり厳しい顔をして立ち去る。
女王に結果を報告しないといけない。彼女は敵の王が逃亡した時点で、早々に引き上げている。
合戦の後半は一方的な虐殺だった。彼女が見たくない気持ちはわからなくもない。
俺は女王の天幕に行った。
「陛下、敵の王は取り逃しましたが、敵の損害は千を超えました。こちらは屯田兵が百の死傷。戦いは大勝利となりました」
「王を取り逃がしたのは残念ですが、南に逃げた残党はリディアが駆逐してくれますわ。伝令を送りました」
「皆よくやってくれました。一般兵たちにはリザードマンの残したものを分け与える予定ですが」
「それは王子に任せます。それにしても、アモンは本当に強い人ね。とても気に入りましたわ。それと、ロム殿の陽光兄弟団でしたか、彼らはどこからやってきた兵士なの?」
「彼らは吸血鬼の人間牧場で飼われていた人間です。代々非常に優秀になるように改良されたというか……高い能力と死の恐怖を生れた時から背負っている者どもなのです」
「生まれた時から苦難を背負っているような人たちなのね。とにかく、アモンと彼らには特別な報酬を与えたいわ」
「国家予算は苦しいですね……」
「ふぅ。やはりそれよね。アモンには名誉騎士の称号を、兄弟団には、今回の働きを賞して王家直属にしたいわ」
「アモンは問題ありませんが、兄弟団を直属にすると、ロムから兵を奪う形になります」
「……そうね、だったら、兎野卿を子爵に叙階して、兄弟団の団長になってもらいましょう。領主とは兼任で」
「素晴らしい御判断だと存じます」
「親子なのに堅苦しすぎるわよ、クリス」
にっこり微笑む女王。
あの陽光兄弟団の戦闘力はずば抜けているので、王国中央や北平原城の守備に回ってもらいたいということだろう。
女王はぼんやりしている様で、核心は突いてくる人だった。
アモンとロムが呼ばれ、叙階の話になる。
二人はしばらく戸惑っていたが、女王の提案を素直に受け入れる。
口数の少ない、鎧の大男と小人は揃って名誉を受け取った。
女王の天幕を退席後、彼らと少し話す。
「領土の戦力で『港』を攻略する予定だったのだが」
ロムがぼそっとつぶやく。
「ロムそれは待ってくれ。『港』ならダナさんも協力してくれるし、僕も冒険者を率いて参戦するつもりだよ」
「……」
無言でうなづくロム。了解という事だろう。
「ところで、『港』に巣くっている敵の正体はつかめたのか?」
「半魚人のような連中だ」
「半魚人?」
「魚類のような顔、ヒレのついた手足、体は鱗で覆われて金属鎧に匹敵するほど硬い」
「強そうだな。しかし、愚かな魔物ではあるんだろう」
「ああ、雑魚はそうだ。しかし、敵の首領グループは頭もいい、魔術も使う」
「それは厄介だな」
「半魚人の体に普通の人間の頭が付いている。気が狂っているらしいが、知能は普通だ」
「何とも気持ち悪い生き物だな。ダナさんがいたら即隕石の刑に処せられるだろう」
ロムはうなずくと退席した。
アモンは黙って聞いている、この場に来て殆ど声を出していない。
「アモン殿はしばらく同行してくれませんか。あなたの状態には僕に責任がある。体が完全になるまでは一緒に居ていただきたい」
やはり、なぜ顔だけが再生しなかったのか、意味が分からず不安だったのだ。
「承った」
「ところで、食事とかは問題ないのですか」
「顔は安定しないが、口を意識すると食事をとれる。会話も同じだ。しかし、王子、どうやって俺の体を治したのだ」
「それは……あなたに嘘を付くのは良くないと思うから本当のことをいいますよ。この小手を見てください」
俺は例の右手の小手の偽装を解除する。
心で命じるだけでそれはできた。
瞳のような球がアモンに目を向ける。
「フム、それは……」
「上古人の遺跡で手に入れたもの。ルナー男爵から奪った闇の魔力の珠『パリュサーの瞳』というものも取り込んでいるように感じます。この小手の魔力はあまり便利には使えないですが、治療には有効に使えるのです」
それを説明してから、ふと、『パリュサーの瞳』を宿して以来、赤い珠だけだった時の体に満ち溢れる強さは無くなり、重い石でも体に練り込まれたような感覚がある。道理で雑兵にも勝てない俺になっているわけだ。
「赤と黒、炎と闇、原初の生命力の色だ」
なるほど、それで人体の体を再生できたのか。
今、戦争で満ち足りた。相当エネルギーを蓄えている。
「もう一度顔の治療をしましょう。前よりかなり膨大なエネルギーを貯めましたよ」
「その小手、その珠は生の魔力の塊に過ぎない。たぶん、これ以上魔力を援助してもらっても、わが身が持たないだろう」
「そんなことが……」
「この兜には知性があって、魔力を持つものの性質を教えてくれる」
「この小手のことをもっと教えてください」
「そうだな……マナに近い力がある。闇と炎だ。ただ、力が蓄えられていてそれだけで決まった機能は何もない。……知性があるようだ」
「知性? 僕は何も感じないですが」
「はっきりした意思はないようだ。動物の本能のような意思だと思う」
「他にはありませんか」
「うむ……王子には申し訳ないが、それ以上はわからない。ただ、関係あるのかどうかわからないが、王子自身にも魔力がある。それも強力な魔力だ」
「魔力、僕自身に?」
「詳細はわからない。隠匿された魔力であるように思う。兜が魔力があるとしか教えてくれない」
俺はどう反応していいかわからず、少し無言になる。
「そうだ、アモン殿の剣『ナルドリス』に魔力を込めましょう」
俺は彼から剣を借りると、魔力を注入する。剣は黒い刀身になり、赤い光を帯びる。
「まさに魔剣だ……これに打たれたら、生命力が消え体は火傷を負います。普通の人間ではひとたまりもありません」
「これを抜く時は悪しき敵を殺す時。肝に銘じよう」
アモンは剣をしげしげと眺める。
「この力だけでは確かに魔剣だが、まだ、他にも入るようだ。王子の小手がまだ不完全であるのと同じように」
「小手はまだ不完全なんですね。ありがとう、いいことを聞きました」
そこで、その話は終わりになる。
戦争の後の大量の雑務が待っていたからだ。
2020/10/27 文章リニューアルしました。修正加えましたが、話の筋に変化はありません。
王子の口調を変えました。年上相手には敬語を使います。
と思いましたが、王子が家臣に敬語使うのもおかしいのか……。日本の偉い人はたぶん使わないですよね。
この問題はとりあえずは王子のフィーリングで適当に流すこととします。本人も適当な人なので。
2023/4/26 微修正




