13 黒騎士と女王1
翌朝。
城で朝食を済ませてふと中庭を見ると、アモンとアデル姫が静かに座って何か話をしている。
邪魔をする気も起きないので、俺はモフオを探した。
あのデブはどこにもいない。
暇なことをやっていると、女王が通りすがる。
「母上、おはようございます。モフオ見ませんでしたか」
「あなた、あの中庭の状態を見て何も感じないのですか」
「はぁ、アモンとアデル姫は仲がいいのですね」
「『仲がいいのですね』ではありません! なぜ、さっさとアデル姫と仲良くしないのです」
わざわざ物まねしなくても……。
「そういわれても」
「彼女なら、あなたの嫁にふさわしいわ。家格も人格も私は良いと思います」
「彼女の家は滅んでますよ」
「姫の本家はシンシアにあります。シンシアのエラリア家はまだ貴族として健在です」
それは初耳だった。
シンシアの貴族直系の王国を滅ぼすとか、レイド王はかなり乱暴なことをしたのだ。
「じゃあ、彼女はシンシアに帰国してもらえばいいのかな」
「彼女は帰らないわ。本心は語らないけれど、レイドへの憎しみは相当なものよ」
それなら、マルセロの考えはうまく機能する可能性が高い。
「母上、話は変わりますが、レイドはこのまま国がまとまれば、次に狙うのはキルボールか我が国という事になります。キルボールは先進国のすぐ近くです。武力も相当高い。それに対して、我が国の武装は百年遅れてます。血筋、友好度合い色々あったとしても、我が国を侵略するのは必定だと思います」
「わかっているわ」
「そうなると、手っ取り早い防御策は強国との同盟。イスカニアとキルボールはいつも腰が重い。アーロンは今、英雄王の出現で非常に動きのよい国になっています」
「……何がいいたいの」
「腹を決めてアーロンと同盟しましょう」
「国を思うなら、王子の判断は正しいのでしょうね。でも反対は多いわよ」
乗り気は薄いが、否定はしないらしい。
「要はこのガルディア内部にも親レイド派がいて、国がまとまるのを阻止しようとします。そして、彼らはアーロンとの同盟も反対するでしょう。彼女を彼らの切り崩しに使いたいのです」
「私自身、余りアーロンが好きではないわ。あの国は過去に攻めに来たことがあります」
「昔のことですから……もし、レイドに支配されたら、ガルディアの王家があったことなんて、すぐに忘れ去られます」
長い歴史の中、アーロン王国から侵略が来たことがある。近年でも蛮族がアーロン軍を名乗って襲ってきたことがあったようだ。
結果、特に王国の東部ではアーロンへの警戒感が強い。
「でも同盟としてみるなら、遠いことに変わりないわよ」
白鱗山脈の東は広大な高原になっていて、不毛である。
一応アーロン領という事になっているが、実際は交易ルートを確保しているだけだ。援軍が来るには時間とコストが膨大にかかる。
尚、そこに住んでいる蛮族は、一応、アーロン王の配下である。
「金と物資、技術援助だけでも違いますよ。どうせ、他の国も同じです」
「王子の好きにしなさい。私は、所詮、一時しのぎの権力者なの」
「ありがとうございます、アデラ姫に助力をお願いする件に関して……」
「どうぞ王子の思い通りに……南の二国が素直に同盟してくれたら多少はマシなんだけど。わかったわ、説得が上手く行くなら考えてもいいわ」
微妙な表現だが、言質は貰ったようだ。
南の二国、ホーリー自治領とガンド子爵。
ホーリー自治領は真天神教団という天空の神々を崇める異端宗教の国で、昔にイスカニアから逃亡した者たちである。山の中に神殿を作って神権政治を行っている。閉鎖的なので正体はわからないが、食料が無くなると、リディアの領土に略奪に来る。話の通じないゴブリンと大差ない連中だという。
ガンド子爵は、爵位を名乗っているが、何処にも認められていない。領土から宝石が出るので交易商がこぞって来る土地ではある。黒人の海賊集団を配下に抱え、領土も大半は黒人の文化圏だったりする。好戦的で、こいつらも食料欲しさにリディアの領土にやってくる。南は彼女がいないとどうしようもない状況なのだ。
そこより南も大陸はあるが、あまり情報は伝わってこない。
コレットの話によると、小エルフの部族がゴブリンの巨大集団に滅ぼされたという。
しかし、彼女の部族は世間から隔絶されていたらしく、南方の状況を詳しく知らないようだった。
交易商人たちなら何か知っている可能性はある。
いずれ、彼らから話を聞こう。
母と別れ、中庭に降りる。
アモンとアデル姫の話は今終わったようだ。
「ごきげんよう、アモン殿、アデル姫」
アモンは無言で会釈する。
「おはようございます、王子様」
「アデル姫。折り入って話が」
「ええ、うかがいますわ」
「私は退席しよう」
アモン。静かな動きで立ち去る。
「単刀直入に申しますね。我が国の親レイド派連中を説得していただきたい。具体的にはアーロン同盟に賛同させるか中立にしたいのです」
「私にできるかしら、レイドによしみを持っている方は要はイスカニア派。アーロンとは……」
「レイド王国の危険を説くことだけに絞ればよいと存じます。軍事的に脅威なのは間違いないですから」
「つまり、目先の火の粉を払うだけの関係であり、イスカニアをないがしろにするわけではないと」
「まさしくその通りです。さすが姫様」
「お世辞はやめてくださいな。この国の状況に詳しい者が必要になりますわ。リストを作って話しやすい相手から説得しないと」
「それは……僕はあまり役に立ちませんね。記憶がないんです。僕の人生はこの数カ月から始まっているのです。そういう意味ではアモン殿に近いかもしれにない……やはり、女王が一番そういう事に詳しいかと、それと、侍従かな」
「女王はこれに賛成なのですか」
「今話してきましたが、女王も概ね僕と同じ考えです、後、マルセロ殿も協力してくれるそうです」
「資金とリストさえあれば、毎日でもサロンを開いて、貴族の奥様方を説得して回りますわ」
アデル姫の笑顔。
初めて見たが花が咲くようだった。しかし、彼女の美貌には影がある。
男なら誰でも虜になるだろう。
俺は……不思議とあまり何も感じなかった。
そうだな、仮に俺が思う人は……。
ダナ。
まさか、正気を失ったのか俺。
それだけは絶対あかん!
自殺願望か?
俺の正気を支える何かが大きく削られる。
「王子。大丈夫ですか? 突然汗をかかれて、ぶるぶる震えていましたよ」
「た、たぶん、レイド王国のあの光景の所為ですよ」
「王子の話お聞きしました。私は……」
「レイド王国でのことはあまり話さないでおきましょう。思い出したいようなことではありませんから」
「そうね……」
彼女とは不思議な連帯感があった。
たぶん、アモンとも。
地獄を抜けて生きのびた連帯とでもいえばいいか。
「では、無理をいって申し訳ありませんが、お願いします。いつか、何かの形でお返ししますよ」
「いいえ、報酬は要らないわ。これは私の復讐です。お礼をいわないといけないのは私なのです。命を助けてもらった上に復讐の機会まで……そうだわ、これ、お返しします」
彼女が差し出したのは、吹き矢だった。
「ああ、これですか……」
「これが無かったら『吹き矢王子』の異名が無くなってしまいますわ」
くすっと笑って、優しい顔になるアデル姫。
「変な異名が出回りすぎですよ。全く。しかし、これは役に立つ武器なので」
俺は受け取る、彼女に武器はもう必要ないだろう。
「……」
物憂げな無言。
「アモンとは何を話していたのです?」
「あのようになる前のことを覚えているか聞いてみたのですが……」
「彼のことをどう思います」
「抑えた力のようなものを感じます。解き放たれたときどうなるのか怖い程です」
「彼は戦場に立つのが最も似合うでしょうね。僕はそうして貰うつもりです。あの力を閉じ込めたら爆発しそうですから。そして、あなたは政治に関わってしまう。正直申しまして、かなり危険なことではありますよ」
「わかっております」
「メルとカリファをあなたの侍女として付けます」
「あの娘たちね」
一緒に逃げた仲なので、馴染みはあるだろう。
俺は二人を呼ぶ、そのつもりで呼んでいたのだ。
無言で頭を下げる二人。
「今後は、このアデル姫を命がけで守るのだ。侍女としてお仕えしろ。彼女の命を狙うものが必ずいる。気を抜いてはいけない」
「はい」
二人は迷いなく返事する。
まるで古武士のような鋭い視線。若い少女とは思えない。
「お二人のことを教えてくださいな。戦士としての腕前しか知らないのよ」
「『人間牧場』を憶えておいででしょうか」
森エルフに襲撃された場所だ。
「はい」
まあ、忘れようもないわな。
「この二人は代々吸血鬼のために飼育されてきた人間の子孫です。死の恐怖を生れた時から感じながら生き、そして、解放されたのです。あなたと同じですよ。死の抑圧から解放されて、生還した人間なのです」
「……」
「メル、カリファ。姫を頼む。彼女の命令は僕の命令だと思ってくれ」
うなずく二人。
俺はそれから一か月ほど、首都に滞在して、様々な雑事をこなす。
その間に、ようやくエリンが帰ってきた。
彼女は宮殿に入りたがらないので、外の喫茶店で面会する。
「エリン、南と東の様子はどうだった」
「……王子、なぜ、私をレイド王国探索に連れて行かなかったの?」
彼女は勝気な女性だが、根は繊細だと思う。
貴族との交わりを嫌い宮殿に入ろうとしない辺りはその表れだ。
彼女の心があのおぞましい光景に耐えられるか……疑問だった。感情を露呈する弱さから見れば俺の判断は正しい。
俺はいつもこの世界のことにどこか他人事のような感覚があり、それが感情の暴走を歯止めしている。
オーベは年の功、『陽光兄弟団』の二人は生まれた時から死の恐怖と共存している、心の鍛錬は俺たちより上かもしれない。
彼らを連れて行けたのには理由があった。
「一緒に行けば、僕を怨むと思うよ。あまりに酷すぎる光景だったから、こんなものを見せる僕にね……」
「……」
エリンもうわさは聞いていたのだろう、思わず無言になる。
「それに、国内の二大勢力の調査の方が重要だよ、実際。よければ、君が得た情報を教えてくれないか」
「……ふぅ。まあいいわ。リディア女伯爵は、一言でいえば頑張ってるわ。南にガンド子爵の海賊、南東にホーリー自治領の奴ら、西はリザードマンよ」
「リザードマンは初耳だね」
「海岸から河口の湿地帯に生息してたけど、リディアが奴らの領域に侵入したから密かに戦争になっているの」
「女王に報告してないよね、それ」
「ええ、そうね。リディアは独立国みたいなものだから。トカゲ共は沼ゴブリンと勢力を争っていた。それを、王子が駆逐してバランスが崩れて、リディアが好機と見て襲ったという感じね。でも、上手く行っていないわ。リザードマンは水域を上手に利用してリディアと決戦避けているわ」
「面倒な敵だね」
「その間に、いつもの二勢力がリディアの国境を侵し始めたという感じかしら。南東のサマルという小都市がホーリー自治領の奴らに包囲されている。たぶん、落ちるわ。リディアも援軍に行きたいけど、リザードマンをこの機に倒したいというジレンマに陥っているの」
「そういえばリディアは入植受け入れはしてないよね、聞いたことがないから」
「それはゲーマンと同じよ。二人はよそ者を信じないの。監視付きで素通りさせるか、追い払っている。西と北の国王直轄地に難民と入植者が集結しているともいえるわね」
「魚肉の行商は上手く行っているんだろう?」
「ええ、ティラシス川の北岸が漁労開始したから、食料事情が潤うことにリディアも気をよくしているみたい。彼女も南岸に漁村を作りたいけど、リザードマンが邪魔なの。戦っている理由はそれもあるわ」
川といっても非常に広い川で、日本の川を連想しない方がいい。
流れのある湖とでもいえばいいか。
「うーん、だいたい分かった、リディアはどうにか自勢力と自国民だけで勢力拡大狙っているんだね。リディアの民はどう考えているんだ」
「概ね忠誠心は高いわ。山地が多いから農園がなくて自作農だから、戦争で頑張ってるリディアは人気あるわよ」
「じゃあ、次にゲーマンとのことを聞きたい」
「ゲーマン公は外交が大好きよ。ガルディアが接している国には全てに何らかの接触を持っているわ。基本的にはイスカニア系ね。でも唯一毛嫌いしているのが、ガルディア王家。そして、最も嫌いなのがあなたよ、クリス王子」
「なんだか、凄くげんなりするような話だね。ゲーマンはガルディア王家の包囲網でも作っているのか」
「まあ、簡単にいえばそうなるわ」
「それじゃあ、まるで、ガルディア国の内部に敵国があるみたいじゃない」
「いってしまえばそうね」
「ゲーマンはオーク部族と戦っているんじゃないのか」
「戦ってないわ。毎年、貢物やら奴隷やら送って戦を回避しているの」
「ゲーマンの領土はガルディアでも最も発展してるという話だけど、オークに貢物を渡して成り立つほど豊かなんだね」
「ううん。違うわ。農民を徹底的に収奪してるのが現実よ。少しでも逆らえば、拷問処刑。レイド王よりやってることは陰湿かもしれないわ」
「そんなに富を蓄積して何を目指しているの、やっぱり反乱かな」
「そうね、たぶん。北部の小さな騎士たちを盛んに篭絡してるわ。王家への忠誠が下がっているのもゲーマンの工作が大きいと思うの」
「もし、レイド王国が宣戦布告して攻めてきたら、ゲーマンは……」
「普通に考えたら、後ろから襲い掛かってくるわね」
「……と、とりあえず、リディアとゲーマンの関係はどうなんだろう」
「うーん、これは微妙ね。勢力的には互角。リディアも王家には距離を置いているから、その点では話が合うみたい。でも、仲がよいということは無いみたいよ。お互い、無視し合っているという感じかしら。川が領土を隔てているから、不可侵的な関係という感じ」
「ゲーマンが謀反するなら、リディアを誘うよね。普通に考えて」
「それは、結局、これはリディアの心の問題よ。リディアが王家に憎悪をもつなら裏切るし、中立なら傍観。仲良くできたら味方になる」
「ゲーマンは領民を搾取しているなら庶民人気はないと思うけど、……士族や貴族はどうなんだ」
「これは意外と人気あるわ。自分が目にかけた奴は偏愛するの。特に溺愛してるのが、三人の自分の息子」
「息子? 宮廷に来たことないよね」
「それは知らないわ。王子があったことないならそうでしょうね。長兄のドナルス、次男のギュー、三男のオーガス。三人とも凄く太っていて凶悪よ。農民たちを虐待するのが趣味なの。本当に嫌な奴ら」
「……でも、そんな状況で、よく街道が維持されてるね」
「あいつらは悪知恵だけはあるのよ。アーロンから来る移民団とか冒険者には手を出さないわ。領内で行われる悪事が露見することを凄く恐れている。だから、農民たちが少しでも喋ったら、適当な理由で虐待するの」
「エリンは、どうやってそんなことを調べたの?」
「フフ。次男のギューは凄くおしゃべりよ。眠ってる間にちょっと出向いてもらって、色々楽しくおしゃべりしたわ」
「な、何をやったんだ」
拉致監禁暴行やったとしか思えないが。
「企業秘密よ、王子」
にんまり笑うエリン。
「あと、そうね、面白い話を聞いたのだけど」
「ぜひ、教えてくれ」
「長兄のドナルスは妖術に凝ってるみたいね。『ネクロノミコン』という本を手に入れて、色々と実践してるわ。犠牲者を性転換させたり、発狂させたり、悪魔を呼んだり、アンデッドを作ったりという感じかしら」
「極悪魔術士じゃないか。その男」
「魔術師気取りで、ダナを目の仇にしているみたい。格が違い過ぎるからダナに対して何ができるわけでもないと思うけど」
ダナの怒りを買えば隕石が落ちてくる。
普通に考えて、凡百の術者では嫉妬の炎を燃やすだけで終わるだろう。
「ついでだけど、王子、あなたの評判も集めたわ」
「ほう、それは聞きたいね。イケメン王子様だから世間に嫉妬されてるのはわかるけど」
「一番古い評判は、女装に凝ってる変態王子、次に、王位につけたら国を亡ぼすドアホ王子、最近はコレットさんにメロメロの様子を見て、ロリコン王子の称号を得たわ。あと、おまけで吹き矢王子。それと、キモオタのドゥリンの心の友だから、単にキモイ」
「な、なんだか、最後のが一番破壊力あるね……」
「心配しないで、魔物退治を頑張ってるから、人気あるわよ。特に下層の人間にはね」
このような感じでエリンの報告は終わった。
「いろいろと情報網も作れたわ、あなたについて回るより、こちらの方が役に立てるかもね」
「そうだね、国内にも情報網があるべきだ。僕の護衛より重要だよ。資金を提供するから、これからも頼むよ」
そういいながらも、暫くは俺についてくれるようだった。
俺は首都に滞在し、雑務をこなす。
首都を離れ、冒険をしている間に国には多様なことが起きていた。
商業工業が発展し、徐々に新しい開拓地から余剰食糧が商品として送られてくるようになる。
レイドとアーロンからの人口が流入し、首都の機能は能力不足が目立つようになっている。
レイドからの農民の流入は減り、知識人などが入り込んできている。アーロンは相変わらず、冒険者と商人が主体だが、移民も増えてきている。
結果的に、首都の警察的な役割を果たす衛兵隊はかなり重責を担うようになっていた。
直接の部下はイーサンなので報告を聴く。
「人口の増大に衛兵隊では機能不全になっています。具体的には、人員の不足と、装備不足です」
「人員は募集をかけるしかないが、直属の士族身分の次男以下をとにかく集めるんだ」
「現状、既に集めきっております。これ以上は……」
「民兵や冒険者で実力のある人間をヘッドハンティングしたらどうだ」
「王子が許可されるなら、そういたします」
「冒険者はなるべく、ガルディア出身に絞ってほしい」
「御意」
「装備不足とは?」
「単純に、治安を乱す外国人は強い装備を持っている者も多く、衛兵の武装では圧倒される事例が報告されています」
「最新の鎧を買えば何とかなるか?」
「はい」
「国全体も装備の強化は必須、まずは衛兵隊からだな。金貨を一万出すから、それで交易商から装備を調達してくれ」
珍しく、うれしそうな顔になるイーサン。
普段は無表情としかいいようがない。その態度が彼に話しかけ難い理由だったりする。
「この資金は……?」
「今までの冒険で手に入れたマジックアイテムを売却した金だ」
もちろん、それも入っているが、大半は自分で作った『炎の~』や『闇の~』というマジックアイテムである。
それを売り払った金なのだ。
おかげで、小手の魔力は常に枯渇気味だった。
「それだけあれば、小隊長クラスまでそれなりの武装にできます。ありがとうございます」
全員の武装となると、やはり、相当な金がかかる。
頭の痛い話だ。
「ミリアとその部下にも残しておいてくれ」
「……はい」
少し顔が曇る。
あまり仲が良くないのは薄々感じていた。
「そうだ、城の武器庫の武器はどうなっている」
「特に手は付けておりません」
「宝の持ち腐れをするだけ無駄だから、必要なものがあるなら使えばいい」
「それは……衛兵側の判断で、王族の財産を勝手にはできません」
「僕が一緒に行って、渡すなら問題ないだろう。そうだ、ついでにアモンも呼んでくれ」
アモンは城に滞在している。
彼の体はあまりに負傷が深い。
俺が治したとはいえ不都合も多かったのか、最初一週間はアモンは歩く以上のことはできなかったのだ。
そして、現在、ようやく動けるようになったが、今度は、彼の鎧がない。既存のものではサイズが違い過ぎる。鎧もなく出歩ける国ではないのだ。
もうじき完成するとドワーフから連絡はあったのが救いだったが。
「やれやれ、じゃあ、武器庫を見てみるか」
俺は面倒くさそうにしながらも、内心ちょっとした宝探しに足取り軽かった。
武器庫の前に来ると、呼ばれもしないのにダナまで来ていた。
「宝探ししていると聞いたから来てあげたわ」
「それはありがとうございます」
(呼んでねー、しかも、呼んでないのに上から目線)
と、内心思ったが、もちろん、口にはしない。
「……」
アモンは無言。
「イーサン開けてくれ」
イーサンが扉を開けると、ムッと埃のにおいがする。
中はかなり広いようだが、所狭しと様々な武器が並んでいる。
「魔力検知!」
空気を読まない女性がいきなり魔法をかける。
「……」
何かいうべきかと思ったが、いうだけ無駄だと気が付く。
「この棚は全部魔法無しね。この棚も。この箱に何か入っているわ。この剣とこの斧と……」
ダナが指すものを俺は必死に一か所に固める。
短時間の作業だったが、重い物ばかりで汗だくになった。
「呪いの物は……ないわね。マジックアイテムは上古人の物ばかりだわ。この城をガルディア王家が改装した時に見つけた物じゃないの?」
中庭にマジックアイムを並べる。
「よく見ると、鑑定結果を書いたメモが全部に付けてあるな」
概ねは単純な強化効果だった。
よく切れて、頑丈、使いやすい。そんな感じである。
「マジックアイテムはあるのかしら」
宮廷を終えた女王が通りかかる。
「多少はありますが……母上。要らないものは売ってしまおうと思うのですが」
「好きにしなさい。武器庫の物は長年誰も使わないで埃をかぶってるものばかりですから」
そういうと、さっさと通り過ぎる。
女性はこういった武骨なものに興味がないのが現実なのだ。
ざっと見たところ、そこそこの値段で売れるだろう。
衛兵隊の装備はかなり近代化できる。
「イーサン、この一山は全部売って、衛兵隊の装備に変えてくれ。商工会の人間に見せたらいいだろう」
「はっ」
すぐに伝令が出る。
「非魔法物品はくず鉄になるようなものもある……お、これは」
棚の後ろに落ちていたのか、非常に大ぶりな両手剣があった。
つくりは確かだが、魔法ではない。
「それは私が貰ってもいいか、王子」
アモンが珍しく積極的になる。
「かまわないが、でかすぎるだろう」
「そうでもないようだ」
アモンは巨大な剣を軽々と手に取ると、少し振りかぶる。
「上古人の作だ」
彼は一人つぶやく。
「魔法といって差し支えないほどの出来栄えだ」
アモンは繁々と剣を眺めている。
これは彼しか使えないから気に入ったのならよいことだ。
「この剣は『ナルドリス』というらしい、闇と炎の魔力を込めることで、破壊力が飛躍的に増す。今は抜け殻になっている」
なんとも、俺が魔力を与えるために待ち構えているような剣だった。
これを偶然と呼ぶにはできすぎている。
「アモン殿は鑑定もできるのか」
「もちろん、できないが、この兜が教えてくれた」
今はあまり魔力がない。剣に力を込めるのは後日にしよう。
「魔力を込めるあてはある。しかし、暫く待ってくれ」
俺がそういうと、皆不思議そうな顔をする。普通、そんなあてはないからだ。
それ以外の物は整理され、魔力の無い武器で使いようない物は売却される。使えそうなものは衛兵の詰め所に置かれることになった。
翌日、アモン専用の鎧が城に届く。
ドワーフたちが、鎧櫃に入れて丁寧に運んでくる。
アモンが着用して現れると、城にいる人間たちが集まってきた。
鎧は黒色のプレートメイル。
兜とも調和し、黒騎士アモンの出来上がりである。
「我々の自信作でござるよ。小手には必殺の内臓鉤爪がセットされている。肉薄する奴はそれで倒せるでござる」
「ありがとう、ドゥリン殿」
アモンは寡黙だが素直な男だった。
「ええっと、これ結構なお値段するよな……」
小声でつぶやく。小物王子としてはそれが一番気になった。
「金貨二万枚でござるよ」
ドゥリンが耳ざとく俺のつぶやきを聞き取る。
俺は慌てて、ドゥリンを物陰に引っ張る。
「に、二万枚でござるか……首都にドワーフ工房用地の贈与、ドゥリンを土木建設大臣に任命……この条件で代金の代わりとかどうだ」
「いいでござるよ」
「え、いいの?」
「但し、材料と従者への支払い分だけは払ってもらうでござる。五千枚」
「よし、買った」
物陰から出て姿を現すと
「王子、この鎧の代金はいずれ返す」
アモン、余計な心配をさせてしまった。
「アモン殿、気兼ねなくお願いしますよ。立派な騎士に鎧を進呈するのは王家の名誉だと思います」
「王子、あんた、意外とカッコいい性格ね」
ダナ様直々におほめ頂けるとは恐縮至極に存じますですよ。
「フッ、俺の本質はイケメン」
「自分で口にした時からイケメンじゃないだろ」
モフオがやってきて突込みだけ入れて去る。
「凄い戦士ね」
城の奥から、女王が侍女を連れて登場する。
全員が女王に会釈する。
膝をつくような礼はしないのがしきたりらしい。
「そうだわ、前からやりたかったのだけど、河岸の開拓地を皆で視察してはどうかしら。あのあたりの住民はごく最近入植したばかりで、我が国の国民という意識がまだ低いと思います。王族と語らって、意識を高めてほしいのです。それと、入植の苦労をねぎらいたいわ」
「女王陛下、さすがにそれは、現地は準備もしておりませんから……それに治安も悪いですぞ」
年配の侍従が諫める。
「入植地の現実を知らないで、政治はできませんのよ。すぐ、鎧を準備しなさい。半刻以内に出発します」
「しかし……」
「ボーソン、年を取るとくどくなるのかしら。もう決定しました。従いなさい」
侍従のボーソンは小声でぶつぶついっていたが、すぐに出発の手配がされる。
「母上……女王陛下。私もついていきますよ。アモンもドゥリン達も。すぐに現地の指導者や騎士たちに連絡を入れます」
「いいわ。王子も付いてきなさい」
「イーサン、すぐに衛兵隊で動けるものは鎧を着て、馬に乗るように。先遣隊を二小隊出せ」
「はっ」
城の主だった者で、武装して随行できるものは、皆付いていくことになる。
結局、城から出る者は百人程度にはなった。
俺は冒険者ギルドにも応援を頼み、可能な人間は連れて行く事にする。名のある者はいなかったが、これで二十人は増えた。
結果的に国の臨戦態勢を試すような事態になったようだ。
2020/10/25 文章リニューアルしました。
評価ブックマーク等々ありがとうございます。いただけると励みになります。
次回作もじわじわと書いてますが、これはいつになるかはわかりません。しかし、乞うご期待。
クマさんの方もよかったらご一読いただけると幸いです。『転生王子』の人物も幾人かが出ています。続編ではありませんが、同じ世界の未来の話になります。思わぬ人物の将来が描かれていることに気が付かれるでしょう。
それではよろしくお願いいたします。
2023/4/26 微修正




