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転生王子  作者: 弓師啓史


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12/37

12 生まれた者と転生した者

 城には翌日に到着する。


 小さな宮廷があるので、そこで賞罰を行った。

「ドゥリン、親戚を犠牲にしてすまなかった」

「気にしないでほしいでござる。あのゲダンは自ら望んで戦場に赴き、そして、戦死したでござる。いくさ場で散って悔いが残るのなら、それはドワーフではござらん」

 悲しそうではあるが、泣いてもいない。

 ヲタクな風貌の割に意外と武士的な発想だった。

「家族がいるなら、お見舞いを出すよ」

「そういう気づかいは無用でお願いするでござる。そのようなものを受け取れば、それは恥になるでござる」

「そういうものなのか?」

「拙者が家族に手紙を書くでござる……」

 ドゥリンが珍しく気落ちしているようだ。

 書きたいような手紙ではないわな。当たり前だ。

 戦争犠牲者の名前は首都にある万神神殿に名を記して終わる。

 手厚く親族に報いたいが、国家は金が無い。残酷ではあるが、これが限度なのだ。

 リーンとオーベには現金による報酬。

「私、お金には困ってないですけど、ありがたくいただきますわ」

 リーンは素直に受け取る。

「まあ当然ですな」

 オーベは金にシビアなので当然のように報酬を手にした。

「オーベ、この任務が成功したら、頼もうと思っていたのだけど……この国で騎士にならないか。そして、女王に仕えてほしい」

「ふうむ。一介の盗賊が騎士卿になるのですか……フフフ。喜んでお受けいたしますよ、王子。私も『そろそろ身を固めろ』って故郷に帰ればさんざんいわれていたのです。でも、故郷に帰っても、土地も何もない男ですからね。ここで一旗揚げられるなら、願ってもないことです」

 優雅に頭を下げる男。

「よかった、ならば、すぐに女王にお願いして叙階してもらおう。首都に行くときついてきてくれ」

 にんまりと笑顔を見せながらうなずくオーベ。

「一族を呼んでも構わないですよね」

「ああ、好きにしてくれ、悪いが、『港』に近い位置に領土を持ってもらう。重要な場所だから信用できる人物以外任せられない土地なのだ」

 嫌な顔もしない。

 ここで不満をいわないのが年の功なのかもしれない。やはり、できる男は違う。

 メルとカリファは非常によく働いてくれた。

 二人を呼んで、まず金を渡す。

「褒賞と何か欲しいものはあるか」

 二人は顔を見合わせていたが、

「ありません。王子様に仕えられたらそれでいいです」

 ちょっと嬉しくなるようなことをいってくれる。

「じゃあ、ここの始末が付いたら首都に戻るから、その時綺麗な服とか買ってやるよ。好きなのいいなさい」

 女子といえばお洒落とスイーツだが、二人にはあまりピンとこない話だったようだ。

 オマケの民兵二人。

「仲間が死んで残念だったが、お前たちはよく頑張ったよ。褒美だ」

 多少の金を渡す。

「あ、ありがとうございます。これからも必死に働きますので、あの不思議な力だけは勘弁してください」

「お願いします!」

 土下座する二人。

 ちなみに生き残ったのは、森エルフのゲヒンと人間ならず者のドカー。

「そういえば王子、こいつらに何か術を掛けたの? 魔力で何らかの関連を持ってるわ」

 リーンが何となく指摘してくれる。

「関連?」

「そうね、いうなれば呪詛みたいな感じ」

 一応、腐りきったゴミではあるが、森エルフのゲヒンは何かわかっているのかもしれない。まあいい、呪詛でも何でもこいつらがまじめに働くなら、それでいいと思う。

「これからもしっかり働くように。不思議な力はお前たちをいつも見ているからな」

「はい!」

 気持ち悪くなるくらい、神妙だった。


 事後処理として、やはり、例の彼のことは最重要だった。

 さすがに、色々な人の前で披露するには問題のある人物だったので、別室にオーベとリーン、ドゥリン、衛兵数人で彼と面談する。

 蘇生された男がやってくる。

 頭は布袋だが、体は裸というわけにもいかないので、ローブ的なものを着せている。彼の体に合うサイズの服はないのだ、体が大きすぎる

「僕はガルディアのクリサレス王子。よろしくな。君は自分のことを思い出せるか、名前はどうだ」

 布袋なので、表情はわからない、目の隙間からは赤い炎と闇が見える。人間の顔にはならないらしい。

「わから、ない」

 微かに返事する。

「体の具合はどうだ、何か問題はあるか」

「……」

「腹は減るか、酒や水は飲みたいか?」

「水をくれ」

 召使に水を持ってこさせる。

「遠慮せずのみたまえ」

 彼はカップを受け取ると、袋を少し上げると水を飲み始める。飲むというより、闇の中に消えるように見える。

「何かしたいことはないか」

 暫く考える風だったが、

「何かと戦わねばならない気がする」

「後出しをすると不愉快だと思うので僕が知っている限りのことは教えよう。君は『聖闘士』ガラスという人間だった。彼は戦いの末レイド王国につかまり、拷問されて殺され、街の広場でさらし者になっていた。僕は以前、メフメトという太古の霊と出会ったことがある。夢の中でその霊は君にとり憑いて、君を復活させろという。だから、レイド王国から君を持って帰ったのだ。体は僕が知っている魔術で治した」

 ギャラリーたちはピンとこない話なので顔を見合わせている。

「……ガラス?」

「わからない、君の意識はメフメトかもしれない」

「……どちらも他人のようだ」

「そうだな、だったら、新しく生まれた人間として、新しい名を名乗ればどうだ」

「名をくれないか」

 飢渇するようなしぐさをする。

「アモンとかどうです、嵐の男。俺たちの古い言葉です」

 オーベが提案してくれる。

「なるほど、彼ほどの強さなら、それもありだな。ではどうだ、アモン。名付けてくれたこのオーベは、僕と一緒に命懸けで君を連れてきた男だよ」

「アモン……」

「暫くでも、いつまででもいいが、君は正直いって姿は怖い存在だ。君のための服や鎧を作るから暫くはここで滞在してくれ」

「王子、なぜおれの顔をこのような状態にしたのだ」

「すまない。ハンサムな顔にしようとしたのだけど、何かが魔力を阻害してそうさせなかった。故意にやったのではない。勝手になったのだ」

「……わかった」

「アモン殿、おぬしの鎧は我々ドワーフがあつらえるでござるよ。その鎧を着て、王子のために働いてほしいでござる」

 ドゥリンが声をかける。あまり空気とかは読まないタイプなのだ。

「話を聞けば俺は王子に恩がある。異存はない」

 徐々に言葉に力がみなぎっている。これは頼もしい雰囲気だ。

「拙者たちがカッコいい鎧にするでござるよ。楽しみに待つでござる」

「アモン殿と一緒に助けたアデル姫に会いたくないか」

「わからないが、会うと何かが起きるかもしれない。逃げるよりは会おう」

 アモンは剛毅でもあるようだ。

「とにかく、鎧はいいとしても、服は首都で仕立てないとだめだな。ここは立ったばかりの城で何もないから」




 翌日。

 首都に向かう。

 メンバーは俺、オーベ、リーン、アモン。

 皆馬に乗る。

 アモンの乗る馬は一番大きな荷馬だったが、それでも息が荒くて、首を振ってる。

 当然俺の馬は例のあれ。

 というか、もっといい馬があるだろ! 

 ぶつくさいいながら、馬を駆っていると、美しい朝日の平原の中に、似つかわしくない異形の巨体が待っていた。焦げ茶色のローブ、顔は濃い影。

「あ、あんたはヴァリー」

 顔は見えないが、他にこんなでかい奴はいない。

「王子よ、そして、アモンよ。よくぞここまで来た」

「貴様は何者だ。顔を見せろ」

 アモンの重々しい声。

 フードを降ろすと、象だった。

 ヴァリーは直立象人間なのだ。道理でデカすぎる。

 巨体のアモンより頭二つくらい背が高い。

「私はヴァリー。アモンよそなたは心が安らぐ日が来るまで剣をふるう宿命なのだ。その剣をどう使うかは自由。しかし、その身にはすさまじいまでの怒りを閉じ込めてある。お前一人の怒りではないぞ。お前が生み出された背景には無数の悲劇と怒りが満ちている。それがそのままお前の魂になっているのだ」

「……」

「大勢の魂がお前に宿っている。その剣はその思いが宿ることになるだろう」

「……俺には何のことやら、さっぱりわからない」

「これを贈ろう。この世界の守護者を任じられた私からの贈り物だ」

 ヴァリーの手には金属製の兜がある。いたってシンプルなフルフェイスの兜だった。漆黒だが、ところどころが赤く輝く。

「これは?」

「『闇と炎の兜』だ。心を誰にも支配されなくなる。後はこまごまとした性能があるが、被ればわかるだろう」

 アモン袋を捨て、兜を被る。

 袋の下は、顔面部分が闇の雲のようなものに覆われている。髪は黒く長い。

「……」

「どうだ、被った気分は」

「あたりがよく見える。少し気分が落ち着くようだ」

 若干、先ほどより、穏やかな声になった。

「マニュアルとかないのかヴァリー」

 質問しようと振り向いたときには、すでに彼はいなかった。

「うわ、消えた」

「あら、いつの間に」

 リーンですら気が付かない。

「白昼夢みたいな奴だ。アモン殿、問題はありませんか」

「大丈夫だ、気にしないでくれ」

 アモンの言葉に俺はうなずく。

 考えても仕方がない。すぐに出発した。


 そして、首都は目の前である

 街門を抜けたところで一人の人物が待っている。

 ダナだ。

「あ、ダナさん。どこに行ってたんですか」

「ダナさん、ご機嫌宜しう」

 オーベがポニー身軽に降りて、挨拶する。

「ダナさん! 初めましてリーンです。『白銀の乙女』様にお会いできて光栄です」

 リーンも馬から降りる。

「……」

 兜をかぶったアモンは無言。

「皆さんごきげんよう、それと、あなた」

 ダナはアモンを指さす。

「……」

「何者なの。人間じゃないわね。魔力が強すぎるわ」

 ダナの視線が怖い。

「い、隕石とかはやめてくださいね。せっかくの超美貌なんですから。ハイエルフは偉大です」

 俺はビビりながらダナをなだめる。

 睨みあう二人、というか、アモンはよくわからないが。

「と、とにかく、こんなところで話し合いもなんですから、そこの喫茶店でお茶でもしながらですね。積もる話をして、お互い仲よく、人生、人の和を大事にしてですね……」

 ダナを引っ張るように店まで案内し、紅茶を出させる。お菓子も。

「この店、最近できたんですよ。おいしいし、オシャレな女子に人気なんです」

「そんなことより、この男は何者なの。というか、王子は今までどこに行ってたの」

 お前がいうなという言葉が喉元まで沸き上がったが、もちろん、口に出さないし顔にも出さない。

「レイド王国です。悲惨な状況を観察してきたのです。本当に悲惨でした……」

 あの光景を思い出すだけで感情が消えそうになる。

「……私も気にはしていたのよ。誰かの依頼か、魔王関連の仕事じゃないと私は動けないの」

「あの虐殺はレイド王の政策みたいなものですから。あれで全国民を脅迫したと思っているのです」

「本当に愚かな下等種族だわ、特にレイド王」

「そういわれても、何もいい返せませんね。本当に人間は愚かです。その悲劇の中あのアモンは死の中から再生しあのような人物になったのです。あの兜は先ほどヴァリーという人物がやってきて、彼に与えたのです」

「ヴァリー……あいつね、聞いたことだけはあるわ。あの兜はかなり強力な物品だわ。レリック、アーティファクトといっていいわね」

 ダナはヴァリーに出会ったことがないという、意外だった。

「ダナさんはアモンをどう見ます」

「地獄に行ったときに様々な悪魔を見たけど、それに近いわ。でも、見方を変えたら普通の人間でもあるわ」

「地獄? とにかく、ヴァリーの話を総合すると、彼の存在は悲劇や怒りを体現している、そんなようなことをいってました」

「悲劇や怒り……そのような感情が最後に求めるものは何かしら……」

 ダナは何か考え始めた様だ。

 紅茶を飲み、お菓子をむさぼり始める。この女はリーンさんの上品で清楚なたたずまいを見習ってほしい。

 顔や姿は本当に女神のようなのに、一つ一つがガサツなのだ。

「アモン」

「……」

 呼ばれて、アモンはダナを見る。

「あなたは正義を行いなさい」

「……それは義務なのか」

「正義を行わないなら、あなたは魔王になるしかない。でも、それは、レイド王の拡大版よ。本質は惨めな負け犬。いくら強くても」

「……」

「私がいいたいことはそれだけ。でも、あなたが魔王候補になった時点で隕石をお見舞いするわ。私は魔王の敵なの。それでもいいなら、好きにしなさい」

「……」

「私の話はこれだけ。じゃあ、さようなら」

 というと、ダナはどこかに消えてしまう。

 用件が済んだらいきなり消える。ヴァリーもダナも似たところがる。

「……魔王になれば隕石か、フフフ」

 アモンが初めて笑った。

「アモン殿でも笑うのか」

「私は自分が何者かは知らない。しかし、隕石を喰らいたいとは思わない」

「君が当面やりたいことがないのなら、僕の手伝いをしてくれよ。この国には山ほど魔物や賊が住んでいる。そして、その内、レイド王国が攻めてくるだろう。その時、幾らでも優秀なつわものは必要となる。ガルディアに居たら振いたくなくなるくらい剣が振るえる」

「わかった」

「では、とりあえず、仕立て屋だ。君にまともな服も着せてないと僕の名誉が落ちるよ」

 仕立て屋に行くと、大至急で服を作らせる。やはり、すぐにできるのはローブのような服だったが、アモンは特に注文も不満もいわない。

「とりあえず、普段着と礼服を作ってくれ。着替えたら王宮に行こう」

 アモンを着替えさせると、王宮に帰る。

 尚、メルとカリファは呉服屋に行かせておいた。




 王宮に帰ると、宮廷は既に終わる時間だったが、俺を待っていたようで大勢の人がまだいた。

「王子! さすがに今回は認められませんよ! 危険な土地に自分でのりこむなんて」

 女王は怒り心頭である。

 なんだかばれてるし。

「申し訳ありません、しかし、僕はこの目でレイド王の所業を確認してまいりました」

 ここはごまかさないで開き直る作戦に出る。

 女王の傍らにはアデラ姫がいる。

 仲がよさそうで何よりだ。

「……とにかく、報告しなさい」

 俺は一礼してから、

「レイド王は東部ゲイル地方を本当に皆殺しにしてしまいました。この目で、沿道に死骸が杭打ちされ、女子供までも木々につるされていたのです……」

 俺は詳細を語った。

 あまりに酷い話だが、語らざるを得なかったのだ。

 女性の貴人たちの中には酷い話過ぎて失神するものも出た。

「まあ、なんという……」

 ミランダ女王は正直いえば、普通の女性でしかない。

 普段は気を張っているが、今は涙を流している。

「その悲劇の中で、レイド王に虐待されていた二人、アデラ姫とこのアモン殿をお助けできたのは本当の幸いです」

「アモン殿はお顔を見せてはくれないのですか」

「申し訳ありませんが、彼は酷い拷問を受けて……」

 ちらっとアモンを見るが、微動だにしない。

「そうですか、それは失礼したわ。お二人はこの宮殿で滞在して、心身の疲れを癒してくださいな」

「女王。今回の探索行でも大活躍した冒険者オーベ殿に特別な褒賞を与えたいのですが」

「いいわ、具体的に何をするつもりなの」

「オーベ殿を騎士として迎え、旧『煉瓦砦』付近に封土を持っていただこうかと」

 女王は快く了承する。

 以前からオーベは騎士候補として女王とも話していたのでスムーズだった。


 そこで宮廷はお開きになるが、人々は非常に憤慨していた。

 俺の話は反レイド王国機運を高めるのに非常に有効だったようだ。

 事実を語っただけだが。

 もちろん、この国にも親レイド派はいる。

 レイド派の連中もこの話を聞いて表立ってレイドとの友好を促進できなくなっただろう。レイド派の筆頭はゲーマンだが今はいなかった。この機運に奴がどう動くかはまだわからない。

「王子、お初にお目にかかります」

 初老の紳士に声をかけられる。見た感じは金持ち商人といえばいいか。

「初めまして、クリサレスです」

「私はアーロン王国の特使、マルセロ・アメディックです。お見知りおきを」

「大使館の件ですか、確か、女王陛下は許可なされたと」

「いいえその件ではなくて、今の話です。レイド王国でのことは本当なのですか」

「ええ、この目で確かに。宮廷では女性も多いのでかなりマイルドな表現に直していいました」

「ご自分で乗り込まれるとは……豪胆ですな。我が国の王とも気が合うかもしれませんぞ」

「どちらかというと、臆病なんですが。僕は。でも、レイド王国のことは自分目でどうしても確かめたかったのです」

「レイド王のなさり用だと、孤立は必至。イスカニアですら見捨てる可能性がありますな。しかし、ここはガルディアとアーロンで共同声明を出しては如何でしょう。レイド王の所業を批判する」

「うーん、レイド王は好きになれませんが、明確に批判するとなると、今度はこちらに侵攻してくる可能性がありますから。こちらは武器も財力も劣っています。アーロン国ほど強力ではないのですよ」

「ピット王は王子の動きを知って、かなり好感を持っておられます。今回の話を聴けば更に好印象でしょう。軍事同盟を視野に入れてもよいころだと存じます」

「そうしたいのは山々ですが」

 俺の歯切れが悪いのは、この国がもともとイスカニアの移民からできていることにある。

 この大陸は二つの大勢力があり、シンシアとイスカニアという二つに分かれているのだ。親イスカニアはキルボール、レイド、ガルディア。親シンシアはアーロン。基本的にガルディアはアーロンに親しみを持っていない貴族が多い。

 ちなみに、女王はイスカニア系の貴族から嫁いできた、が、言動を聴くと中立っぽい。先王つまり俺の肉体の親爺はイスカニアと不仲になっていたという。

 暗殺のうわさもあった。

 女王はイスカニアを疑っている。先王がイスカニアと不和になったのは、レイドとのいざこざをレイド寄りに判定されたからだ。レイドとは何度か戦争をしていたと聞く。

 そして、俺は、実はアーロン派だ。冒険者仲間は大半がアーロン出身かアーロンで名を上げた連中。命がけの関係なので、やはり、どちらを好きになるかといわれたら、アーロンとしかいいようがない。

 ゲーマンはレイド派。リディアは中立。リディアは庶子なので家系に思い入れがない。

「我が国から見たら、宗主国のイスカニアがレイドを抑えられないのが最も許せないことになります。アーロンとイスカニアが共同声明を出すなら、我が国も迷わず参加するでしょう」

 歯切れの悪い返事をする俺。

「イスカニアとは……キルボールなら可能性があります」

「キルボールとレイドは農民を挟撃したのでしょう。同盟しているのでは?」

「キルボールは農奴の反乱が伝播するのが怖くなったのですよ。裏切った理由はそれだけです。仲が良くなった雰囲気ではないですな。国境では小競り合いをやっているという話もあります」

「キルボールでも構いませんが、とりあえず、二ヵ国だけというのは少し厳しいと思います。それと、親レイド派=親イスカニアですが、彼らを説得して切り崩さないと、親アーロンに傾くには無理がありますね」

「説得に必要な資金なら……出せると思いますよ」

「あとは人材かなぁ。実は僕はあまり快く思われていないんです。昔の悪評も根強く残ってますし、領土を子飼いに与えているという不満もあります。僕の手元には交渉向けの人材がいないんです、武人ばかりで」

「ふむ、あのアデラ姫ならどうですかな。彼女の話なら誰もが聞きます。身分も高いし、しかも美しい。誰もが同情するでしょう」

「……あまり、生臭いことに彼女を巻き込みたくないのですが……彼女は本当に苦しい状況を生きのびたのです」

「というと」

「おっと、これはいえませんね。申し訳ない。彼女は女性として許し難い目にあっていたとだけいいましょう。彼女には癒しを得てほしいのです。この国で」

「王子からいい難いのであれば、私が話をしてもいいでしょうか? 彼女がどうなさりたいかは彼女の心の問題です。例えば、反レイド工作に奔走する方が彼女の心を癒す可能性もあります。間接的復讐にはなりますから」

「……それは、マルセロ殿にお任せします。彼女がそれを望むなら、僕は止めません」

 マルセロは深々と頭を下げると退席する。


 政治向きの話は体は使わないが、本当に気疲れする。

 それに、今までの冒険だ。

 眠くて今にも倒れそうだった。

 俺は大あくびをすると、部屋に帰って寝てしまう。

 いつの間にかモフオがやってきて、俺の横でのびのびと寝っ転がる。


 この危険なガルディアで最も油断した生き物はこいつだろう。




2020/10/24 文章リニューアルしました。

2023/4/26 微修正

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