第137話 わからず屋は自分だった
女同士のキャットファイトじゃないバトル
評価、ブックマークありがとうございます。励みになります(≧▽≦)
「ここで決着をつけるの~?」
「ええ、そうよ。私のプライドを土足で踏んづけてくれた地味女の死体をここで作るのよ」
茉莉と女がやって来た場所は大輝と俊哉がいた所から一つ上がった場所。その空間はかなり広々としていて、障害物など一つもない。そして、そんな空間の中に茉莉とレオ(大)、そして女が向かい合う形で立っていた。
「そういえば、覚える気はないけど一応名前は聞いておくよ~。アバズレは何者なの?」
「またアバズレと言いやがって......まあ、いいわ。冥途の土産に教えてあげる。私の名前はルドレというのよ。この腐った世界を一度壊して、作り直すために我らが主を呼び出す者と言えばわかるかしら」
「我らが主......聞きたいことはいろいろとありそうだね~。でも、そんなことは後で聞き出せばいい。それよりも、今は俊哉君を苦しめた所業を償ってもらわないと私の気が済まないんだ~」
「あら、奇遇ね。私も地味女を潰したくて仕方がないのよ。だから、さっさと潰れてくれる?地味女とこうしている時間も惜しいの。私は早く俊哉君に会いたいのよ。邪魔しないでくれる?」
「嫌だね~。全力で邪魔させてもらうよ~。私は基本的に誰がどうなろうとあまり関係なかったんだ~。むか新だったとも言えるね~。でも、俊哉君については違う~。アバズレなんかに渡すわけにはいかないんだ~......絶対に~!」
すると、茉莉とルドレは笑い始めた。だがそれは、乾いた笑いであり、目は微塵も笑っていない。その事がこの場を寒々しく凍えさせていくようであった。そして、茉莉は矢をつがえると大きく弦を引いて、狙いを定めた。
「消えて~」
「死ね」
茉莉が矢を放った時間とルドレが自身からセレネの魔法のようないくつもの黒い手を出現させるのは同時であった。そして、茉莉の放った矢は途中まで進んでいくと突然一気に弾け飛び、ルドレを襲った。だが、ルドレは自身の魔力で作った黒い手で弾いていく。
「行くよ~、レオ~」
「ウォン」
茉莉はレオ(大)の背に乗るとルドレから一定の距離を保ちながら走り始めた。大体、ルドレを中心として回っていくような感じだ。そこから、茉莉は流鏑馬の如く矢を放ち始めた。だが、ルドレも負けじと黒い手を茉莉の方へと伸ばして、襲いかかってくる。
しかし、その攻撃はレオ(大)が華麗に避けて、茉莉が撃ちやすいようにできるだけ上下振動がないように走る。そして時折、爪を振るって斬撃を飛ばしていく。
「ええい!ちょこまかとウザいわね!」
「そうしないと当たるんだから仕方ないよ~。それに、これも立派な戦い。イチャモンなんてつける余地もないよね~」
「いちいち挑発するような言い方しやがって!俊哉君とは大違いだわ!」
茉莉はその言葉を聞いた瞬間、「私でもわかりきっていないのに、お前なんかになにがわかる」とばかりに矢を連続射出させ始めた。だがそれを、ルドレは黒い手の数を増やして対抗していく。その攻防はしばらく続いたが、その間どちらともダメージを負わせることが出来なかった。
「俊哉君をわかったような気をしないでよ~。ウザいから~」
「わかってるから、言って何が悪いのかしら?彼はとっても我慢強くて、優しい子よ。多少の汚れなんて些細なこと。総じてみれば、彼の心は実に白い。それはもう惚れ惚れするぐらいにね。だからこそ、思うことがあるのよ」
「何を思ったの~?」
「汚したいって」
「!」
その時の茉莉とルドレの表情は対照的であった。ルドレはその言葉を言った瞬間、その思いをはせるように、恍惚とした笑みを浮かべている。だが、茉莉はさらに瞳の温度が下がった。そして、その顔は無表情であったが、静かでされど激しい怒りが伝わってくるような黒さを感じた。言うなれば、冷酷な殺人者の目とでも言おうか。
すると、ルドレの言葉は続いていく。
「ねえ、知ってるかしら?俊哉君がどうして私のとことに来たのか?私はね、信じていたのよ。俊哉君が持つ可能性をね。そして、彼はも見事その可能性を掴んでくれた。これほど嬉しいことはなかったわ」
「可能性~?」
茉莉はルドレの言葉に思わず反応した。俊哉がルドレのところにやって来たのは、自分達が認知していないところで、ルドレの罠に嵌ったかルドレ本人に呪いをかけられたからだと思っている。そして、その考えはルドレの発言か考えれば、そうであると言っているようなものだ。
だからこそ、「可能性」という言葉がとても気になった。その言葉から考えていくならば、ルドレは俊哉が本来持っている何かを使って呪いを発動させたとも考えることが出来る。それがどういうのかは、もちろんわからないが、何か嫌な予感がするのは変わりない。
すると、ルドレは依然として恍惚な笑みを浮かべたまま答えた。もう意識はこちらではなく、脳内に蘇っているビジョンを見ているように。
「それはね、『罪悪感』よ」
「!」
「俊哉君は基本的に人に迷惑をかけないようにと良く周りを見ながら動いているタイプだと思ったわ。だからこそ、私はその直感に賭けた。そして、結果はごらんの通り大勝利というわけ。わかったかしら?地味女と私の力の差を。人の性格というのは、ちゃんと見ていないとわからないようだしね」
「......さい~」
「ん?なにかしら?」
「うるさいって言ってるのよ~!」
茉莉は太い大きな一本矢を激情のままにルドレへと放った。だが、それはルドレの黒い手によって阻まれ、逆に黒い手の指先を針のように突き刺してきた。また、その攻撃は茉莉達の動きを読んだかのように広範囲でばら撒かれ、茉莉は肩や横っ腹を貫通し、腕や脚にも切り傷を負い、レオ(大)も脚や胴体にダメージを受けて思わず転んだ。その影響で茉莉も地面へと転がっていく。
「惨めね」
ルドレはそんな茉莉の様子を見て嘲笑った。だが、不思議と今の茉莉にはその言葉が届かず、ルドレの表情が視界に入っていなかった。それよりも今思っていることは、自分の言動に対しての驚きだった。
茉莉は人の心がわからない。それは、茉莉自身でも理解していることだった。だからこそ、俊哉に手伝ってもらって、どうしてそのような感情を抱くのかを知りたかった。俊哉と「付き合おう」と言ったのも、全ては知的好奇心のために利用したに過ぎなかった......はずなのに。
今の言動。そして、思い返せば、俊哉がいなくなった時に沸いた感情、大輝が言った俊哉の伝言を聞いた時の自分の言葉、助けに来て最初にルドレに言ったケンカ腰の口調。それら全てが茉莉自身にはあまりに予想外の行動だった。
また、それらは全て俊哉に対して怒りであった。俊哉に呪いをかけた怒り、俊哉を使って大輝を殺そうとした怒り、俊哉を自分のものだと主張するルドレへの怒り、そして俊哉を苦しませた怒り。ああ、なんだそういうことか。そういうことだったのか。
茉莉は痛みを堪えながら、手をついて立ち上がる。だが、その行動をさせまいとルドレの黒い手が上から押さえつける。
「抵抗の意志がなくなるまで、私のものだと認めるまで。そこで這いつくばってなさい」
「ぐぐぐっ!」
茉莉はそれでも歯を食いしばりながら立ち上がろうとする。もう自身の痛みなんて関係ない。それよりも痛いのは俊哉なのだから。
茉莉はこの時、ハッキリと自分の心がわかった。自分はずっと人の心がわからずにいた。だから、わかろうと努力をした。それでも、ほとんどが空回り。だから、もとの世界では空気を読んで演じることを選んだ。
だが、この世界では違った。気兼ねない仲間しかいないこの世界では演じる必要がなくなった。だから、ここで人の心がわかると思ってた。そして、分かった気になっていた。しかし、全然わかっていなかった......今を除けば。
茉莉は理解した。自分がわからなかったのは周りの人の心じゃない。自分の心なのだと。そして、皮肉にも今この状態が俊哉に対する自分の純粋な気持ちを教えてくれた。
好きなんだと。好きだから、あんなにも怒れるんだと。
「天は恵みの光で大地を照らし、月は豊かな光で人々の心を照らしていく.....」
茉莉は呟きながらなんとか立ち上がろうと腕を立てる。だが、ルドレの黒い手の方が強く、全然上がらない。
「大地は自然をもたらし、心は幸せをもたらす......」
「しぶといわね」
茉莉はなんとか四つん這いになることに成功した。だが同時に、黒い手の圧も強くなる。
「それらは再び天体へと誘われ、天体はまた施しを与える......」
「ウザいわ。いい加減にして」
「ウォン」
ルドレがもやは叩き潰そうと茉莉の上から黒い拳を振り下ろすとそれをレオ(大)が弾いた。そして、茉莉を押さえつけていた黒い手も払っていく。そのおかげで、茉莉は立ち上がることが出来、弓をゆっくりと構え始めた。
「この世界は慈悲によってもたらされ、慈愛によって循環する――――――――」
「詠唱?させないわ!」
「―――――――もう遅いよ。届け、幸罰一閃の矢」
その矢はルドレに向かって真っ直ぐ飛んでいった。その矢に対し、ルドレは払い落とそうと黒い手を向けるがその悉くが貫通していく。つまりは止めることが出来ない。
「あ"あ"あ"あ"あ"!」
「それは俊哉君に与えた苦しみだよ~。よく味わってね~」
その矢がルドレを襲った瞬間、その矢はルドレに染み込むように消えていった。するとその時、全身から地獄の業火に焼かれるような激しい痛みが全身を駆け巡る。そして、そのまま倒れ込んでも断末魔の叫びはこの空間に響き渡った。
良かったら作品の評価、ブックマークお願いします(≧▽≦)




