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第134話 キレる茉莉

普段穏やかな人ほどキレると怖い


評価、ブックマークありがとうございます。励みになります(*^-^*)

 大輝達は森を突っ切って中央へと向かって行くと遠くの方にとにかく巨大な木が見えてきた。そして、隠そうともせず、その幹にジャック・オー・ランタンさながらの顔が現れていた。もう少し表情が丸ければ、カー〇ーに出てくるボスキャラにいそうである感じだ。


 そして、俺達は遂にその巨大なトレントの前にやって来た。すると、大輝達の存在に気付いたトレントは突如しゃべりだした。


「お主達は何者だ。まさかお主達が勇者達であるのか?」


「そうだ。そして、俊哉を取り返しに来た。早く俊哉を返せ!俺は今とてつもなく怒っている!それこそ、俺が勇者であろうとも手段を問わず、俊哉を取り返すつもりでな!」


「ふふふっ、生きているとは......さすが勇者というべきかしら。全くつくづく厄介な存在ね」


「「「「「!!!」」」」」


 大輝がトレントに向けて啖呵を切っていると突然大輝達の目の前に一人の女性が現れた。そして、その女性は妖艶な雰囲気を醸し出しながらも、大輝に対して愚痴を吐いた。本来なら、美しい女性に目がない大輝であるが、この時ばかりはそういう感情は出てこなかった。むしろ、怒りが増してきたぐらいに。


「俊哉に何をした?あんなに苦しんでいた友の顔は一度だって見たことはなかった。あいつの泣き顔すらだ!......なのに、あいつは俺を刺した。それはお前がそうさせたんだろ!」


「単純に勇者が嫌いだったからじゃない?『いつもいつも頑張ってきたのに、評価されるのはいつも勇者。自分はあくまで勇者の付属品のようなものでしかない。自分の頑張りは、勇者の頑張り。他人の力で評価されただけの勇者が憎い、憎い憎い憎い』ってね」


「あいつは人一番の友達思いだ!確かに、あいつは勝手にしょい込む癖があるがな、それは全て友のためだ。頑張り損だろと思う時もあるが、あいつはそれで友達が喜んでくれることを本当に嬉しがっていた!それは友達である俺だからこそ知っていることだ!お前が何かを言えることじゃねぇ!」


「はあ.......嫌だわ。暑苦しいことこの上ないわね。だから、勇者は嫌いなのよ。殺したいほどにね。けど、勇者がどう思っていようと関係ないわ。彼、俊哉君と言うのね。俊哉君はもう私と共にあるから」


 その女がそう言うとすぐ近くから黒い小さな竜巻が現れた。そして、それは周囲に強い風をまき散らすと一気に消え去り、一人の男が現れた。その男を見た瞬間、全員が思わず目を見開き、大輝がその男に向かって叫んだ。


「俊哉!」


「俊哉君は勇者と違ってとっっっても素直なの。だから、この黒くて美しい模様が映えるのね。それに、このゴツゴツとしてるけどキレイな手、ほどよく筋肉質な腕、そして、見るものを心を掌握するような黄色い瞳。とっっっても素敵......!」


 俊哉は大輝の言葉に反応することもなく、ただ虚ろの瞳をしたままじっと突っ立っている。まるでマネキンのようだ。すると、その女は俊哉の体をまさぐるように手、腕、肩、首筋、顔と順に触れていく。そして、恋人に甘い言葉でも囁くように言葉を告げた瞬間、その女に向かって一つの矢が飛んでいった。だが、それは簡単に防がれる。


「何するのよ!?」


「ベタベタと触れないで~。気持ち悪いから~」


「この男は私のもの。この私がどうしようたって関係ないはずよ。それにこの男はもう一度勇者を殺しかけた男。いわば、大罪人。もうあなた達が住む世界には生きられないの。だからこそ、この私が俊哉君に生きる道しるべを教えてあげたのよ。そうなれば、もう従うしか......まだ話の途中でしょうが!」


 その女がしゃべっていると茉莉は二度目の射出。そのことに女は思わずイラ立った声を上げた。だが、茉莉はその声にひるむことなく、普段には見せたことのない氷のような瞳でその女を見る。そして、その瞳に合わせて凍えるような雰囲気が溢れ出していた。


 そのことに全員が思わず茉莉の方向を見て、大輝はそのあまりのギャップの茉莉に若干委縮していた。「ここは黙っておこう」と。


「もううんざりなんだ~。気持ち悪いんだ~。誰が『私のもの』だって~?俊哉君はもう既に私のものだよ~。それに、私は手にしたものを奪われるのが一番嫌いなんだ~。だから、誰が誰の物だって~?......気安く下の名前で呼ばないでくれる~?」


「あなたみたいな地味女が俊哉君の何だって?私は気に入ったから手に入れただけ。勇者を殺すこと自体はそのついででしかない。あなたがどれほど時間を積み重ねて、どれほど濃い思い出を過ごしたとしても、私の魔法で抗えない時点で地味女は負けてるのよ。その意味をおわかり?」


「バカだね~。今アバズレは魔法を使わなきゃ手に入れたいものすら手に入らないということを自白したんだよ~。そうまでして手に入れたいのに、そういうことをしなければ手に入ることが出来ない~。自分の惨めさがよっぽど見えていないようね~」


「誰がアバズレだって!」


「自分のことを客観視できないとは~。特別に教えてあげるよ~、今地味女の見据える先にいる人の男を勝手に手に入れた気になっている哀れな女のことだよ~」


「......殺す!けど、私は優しいから地味女の思い人で地味女を殺してあげる......行きなさい!」


 その瞬間、俊哉が腰から剣を引き抜き、思いっきり突貫してきた。その速さは通常の倍以上、おそらく呪いによって強化されたのだろう。そして、俊哉は無感情の表情で真っ直ぐ茉莉に向かって突撃して、剣を大きく振り上げた。だが、茉莉は臆することはない。なぜなら、自分よりも速く動く存在を知っているから。


「止まれ、俊哉」


 俊哉が向かう延長線上に大輝が剣を引き抜きながら割り込んできた。それによって、俊哉は茉莉に剣が届くことなく、大輝に止められる。すると、俊哉は大輝を排除しようと剣に圧をかけ、そのまま押し潰そうとした。


「あんまり親友をなめんなよ?」


 大輝はその力が加わった瞬間を逃さず、剣を横へと受け流した。そして、それによって体制が崩れた俊哉へと腹部を思いっきり蹴り飛ばす。さらに、追撃とばかりに近づくと剣の腹で腕を弾き、再び腹部へと頭突きした。だが、それは固い鎧によって阻まれ、むしろ大輝の方が額を切ってダメージを負った。だが、そんなことは全く気にする素振りを見せない。


「どうだ、俊哉。俺はお前を救うためにこんな民族が施すような化粧をしちまったぜ。そして、その化粧は酷く痛くてよ、どうにかなりそうだった。だがな、お前が助けを求めに来ていることを知ってるから、我慢できたんだ。こればっかりは笑うとぶん殴るぞ」


「......」


 大輝の言葉に俊哉は何も答えることはしない。ただ剣を支えにして立ち上がると大輝に向かって真っ直ぐ剣を構えた。そして、大輝はそれに応えるように剣を構える。するとその時、女が割って入った。


「俊哉君、そこまでよ。引いて」


「なんのまねだ?」


「何、結局戦うにしても舞台というものを用意してあげなくちゃね。だから、私達は今からその場所に向かうだけよ。ついて来れるものなら、ついてくることね」


「おい待て!」


 女が大輝達に向かってそう告げると俊哉を黒い風で自身と共に包み込み、まさに風のような速さで巨大なトレントの根元へと向かって行った。それに対し、大輝達が咄嗟に追いかけようとすると突然周囲一帯に強い地震が起こった。


 大輝達は各々で地面と自身を固定していき、その激しい縦揺れに耐える。すると、大輝達の目の前で異変が起こっていた。それは、巨大なトレントが地面から根っこを引き抜き始めたのだ。それによって、地震だけではなく、地割れも怒り始め、地面が大きく隆起していく。


 巨大なトレントの根っこという名の足が一本また一本と地面から勢いよく出てくる。その度に震度7は軽く超えるような揺れが大輝達を襲い続ける。それによって、大輝を含めた数人が激しい酔いに体調を崩し始めた。


 そして、揺れが収まって数分。トレントの足はまるでタコのようにうねらせていて、大きい根っこは大木を数十本と合わせたような太さであり、一番細いものでも通常の木のサイズほどの太さがあった。また、トレントの顔のすぐ下の根っこの部分には内部に続くであろう入り口があった。


「はあはあはあ......まさか、俊哉はあの中にいるのか?」


「おそらくそうね。そうとしか考えられないもの。だから、トレントがまだ完全に動けてない今が突入チャンスよ。大輝と茉莉は行きなさい」


「待て、お前たちはどうするんだ?」


「私達はトレントの相手をするよ。大ちゃん、心配しなくても大丈夫だから」


「それに災悪なら周囲に被害が出ないように必ず誰かが相手しなきゃいけない。その相手を私達が勝手出ただけの話よ。あんた達二人にはこんな相手より相手しなきゃいけない人がいるんだから」


「.....わかった。恩に着る」


「ありがと~。行って来るよ~」


「ウォン!」


 そして、大輝はレオ(大)に乗って茉莉とともにトレントへと向かって行くだが、トレントはそうはさせないと大きな根っこを大輝達に向かって振るった。


「「「させない!」」」


 その時、エミュ、香蓮、セレネの同時攻撃によって、大きな根っこは切り落とされ、その間に大輝達は駆け抜けていき、トレントの内部へと侵入した。

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