第129話 無謀
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大輝は香蓮達が部屋から出ていった後も、ただぼんやりと床を見つめながら固まっていた。考えることは自己嫌悪ばかり。もう大輝に精神はボロボロであった。そして、そんな大輝の様子を知っていながらも、フランとドリィは未だかける言葉が見つからずに、こちらはこちらで苦しんでいた。
すると、大輝がぼんやりとしたまま二人に聞いた。
「なあ、誰が俺を見つけたんだ?」
「わらわ達じゃ。突然魔力が切れて、何かあったと思って主様のところに行ってみれば、主様が木に寄り掛かりながら血を流して倒れておったのじゃ」
「あの時は本当に焦ったの。刺さっている短剣からは嫌な邪気が籠っていたし、マスターを攻撃できるのはあの場では俊哉さんしかいなかったから、自分を疑ったの」
「まあ、疑うよな......俺が一番疑ってんだ。信じたくない」
大輝の言葉には重みがあった。説得力があった。まるで大輝になったかのように心にその言葉の重みがズシリとのしかかってくる。それがたまらなく苦しい。しかし、自分達の主はそれ以上の苦しみを感じているのだ。こんなことで折れたら、それこそ剣が廃るというもの。
その時、大輝の質問によってこの事態はさらに悪化した。
「なあ、今は俺が寝てから何日経過したんだ?」
「「......!」」
フランとドリィは思わず驚きながら、暗い顔を浮かべた。それは香蓮達から口止めされていていることだからだ。今は大輝が目覚めてから三日が経過している。それだけ、大輝の傷は深く。三日前のこの家の空気は閑古鳥が鳴くかのように静かで、暗かった。
そして、大輝が目覚めて空気的には回復したが、それは大輝の行動次第でいくらでも変わる可能性を残していた。それが日数だ。大輝は俊哉を助けに行くことは、香蓮達全員が予想していた。しかし、大輝には魔力がない。なら、どうするか。大輝ならば、無茶してでも俊哉に助けに行くだろう。
助けに行くならば、出来るだけ日数がかからない方がいい。その方が、たとえ俊哉の状態異常が呪いだったとしても、対処するのがはやければ無事に戻ってくる可能性が高いからだ。だからこそ、もうすでに三日が経過していることを大輝に伝えることは出来ない。絶対的なタブーとなっているのだ。
故に、答えるわけにはいかない。無茶をするのがわかっていて、魔力も無しにどうやって助けに行こうと言うのか。助けに行く道中で死ぬ可能性もあるというのに。むしろ、その可能性が高いというのが現状なのに。
すると、大輝はベットから立ち上がるとベットに座っているフランとドリィの方へと体を向けた。
「フラン、ドリィ。命令する。俺は刺されてから何日経った?」
「「......」」
大輝は二人に伸ばした手の平を向けるとフランとドリィに命令した。それは主従関係で結ばれている大輝が使える唯一の権利。普段は任意でしか頼まない大輝が、二人に対して命令してまで言わせるということは、もうそれだけ大輝に余裕は残っていないということ。
しかし、二人は香蓮が言われた通りに黙っていた。言ってしまえば、大輝がどのような行動に出るかわかっていたから。だがこの時、二人は気づいていなかった。答えようが、答えなかろうが結果は変わらなかったことに。
大輝は、「予想はついていた」という気持ちが籠ったため息を吐くとゆっくりと伸ばした手を降ろした。そして、部屋に飾ってあった村で使っていた頃の剣を手に持つとその剣の腹を指でなぞっていく。その行動に二人は不可解さが隠せなかった。
「よし、ちゃんと使えるみたいだな」
「主様、何をしてるのじゃ?」
「剣なんか急に持ち出して変なのなの」
「変じゃないさ。さっきからわかっていたことを確かなものに変えただけさ」
大輝はその場で剣を軽く振るう。遅い。圧倒的に動作のスピードが遅い。幸いなのは動きだけは体が覚えているということぐらいか。こんなのでどうやって戦えばいいのか。そんなのわからない。だが、そこでうずくまるのはもうやめた。自分は自分の思い通りに行動する。
大輝は剣を音を鞘にしまうとフランとドリィに優しい目を向けた。その目は酷く二人を恐怖に近い感情で震えさせた。まるで、これから死ぬ人が死ぬ前に見せる優しい笑みのようで......
「俺は魔力がないんだろ?それで一つだけ疑問に思っていたことがあったんだ。それはお前らとの契約のことだ。それは確か魔力のパスで繋がっているはずだ。そうじゃなかったなら、もう少し気が楽だったんだがな」
「「......」」
「フラン、お前は正直者だ。さすが聖剣ってところだな。気づいてないようだから言ってやるが、お前はさっき俺とお前らに契約が解除されていることを明確に言った。思い出せるか?」
「わらわは何も......!」
フランはその時思わず口を手で覆った。その行動は大輝からしてみれば、さらに確信度を上げる行為でしかなかい。フランは確かに言った「魔力が切れて」と。口を滑らしてしまったというよりも、嘘をつきたくなかったという気持ちが勝っての発言だ。だから、フランは段々と表情を暗くする。
「フラン......」
「ドリィ、何も言うでないのじゃ。自己嫌悪だけで許してくれ」
「別にそんな悪く考えることはないぞ。お前らが言おうが結果は変わらなかったと思うし。だから、二人とも少しの間の辛抱だ。戻ってくるのを信じてくれ」
「嫌じゃ......嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃ!信じれるわけないじゃろ!主様が一番死ぬかもしれないということを覚悟してどう信じればいいというのじゃ!」
「そうなの!もうマスターが戦いで消えてしまうのは嫌なの!マスターとはもっともっと苦楽を経験したいの!マスターはそう約束してくれたの!」
フランとドリィは泣き出した。子供のように泣きじゃくった。そんな二人に対し、大輝はすぐに声はかけない。そして、大輝は服を着て、靴を履き、剣を装備すると二人のもとに近づいた。それから、そっと二人の頭を撫でる。
「......ごめんな」
大輝は窓から飛び降りた。そんな大輝を追うことも出来ず、フランとドリィはその場で泣きじゃくった。
大輝は庭に着地すると香蓮達にバレる前にすぐさま走り出した。魔力がない今は気配を隠すことはできない。故に、周りの人達からもバレるのは必然。ならば、追い付かれる前にこの場を駆け抜けていくのみ。魔力で強化した体でないため、随分と遅く感じる。大輝はそのことに舌打ちした。
仕方ない。そんなことはわかっている。だが、改めて動くとより助け出せる成功率が低くなった。これはネガティブなことばではなく、現実的な意味合いで。基礎体力では問題ない。それは日々の鍛錬があったからこそ。そのことだけは、自分を褒めたいところだ。
大輝は全力疾走で門を駆け抜けていく。向かう場所はまず俊哉と会話した場所だ。それからしばらく走っていたその時、オオカミの魔物が現れた。数は三体。問題なく対処できるレベルだ。大輝は剣を引き抜くとその剣を両手で握った。
その瞬間、思わず村にいた頃を思い出した。その時は、二刀流などせずにずっと一つの剣を振り回していた。その時の感覚を思い出すために、悪いがオオカミ達には犠牲になってもらおう。そもそもあっちは狙ってきているわけだし。
「おらあああ!」
大輝は一匹のオオカミに向かって走っていく。そして、大降りに振った。しかし、それは簡単に避けられ、別の一匹が横から襲いかかってきた。それに対し、半身でオオカミを避けるとそのオオカミを思いっきり蹴り飛ばした。
「チッ!」
もともとのステータス値に差があるおかげで、まだ無難に戦える。しかし、自分が想定した以上に攻撃力が悪くなっていた。本来なら蹴り一発で終わったオオカミも、まだ動けるぐらいに立ち上がる。この場所は強い魔物が出るわけじゃないが、弱いとも限らない。
そして、このオオカミはあまり強くはない方。ただ他の魔物よりも耐久値が大きいぐらい。それでも、勇者である大輝の蹴りが耐えられたのだ。そのことに大輝が舌打ちをするのは当然の半のかもしれない。
すると、二体の魔物が挟み撃ちするように飛び掛かってきた。その二匹の動きを確認すると大輝は一匹に咄嗟に手を向けた。だが、何も起こらない。大輝はそのことに気付くと咄嗟に距離を取った。苦虫をかみ潰したような顔をして。
大輝がしようとしたことは、一匹に蜘蛛糸を飛ばすこと。そして、それを遠心力を活かしてもう一匹にぶつけるというものだった。だが、今は魔力がないため使うことは出来ない。これまでの戦い方を体が覚えていた故の行動。これは厄介そうだと思わざるを得ない。
「おらあああああ!」
大輝は追撃せんと向かって来る二匹に注視していると後ろから強烈に近づいて来る気配を感じた。大輝は咄嗟に後ろを振り向くと4匹のオオカミが一斉に飛び掛かってきていた。
「炎裂刃!」
大輝は咄嗟に叫びながら横に振るうが、もちろん炎はでない。そして、切れたのは二匹だけ、もう二匹には右腕、左脚を噛まれそのまま押し倒された。そこにさらに先ほどの三匹のオオカミが向かって来る。大輝はその時愕然とした。魔力がなくなった自分の弱さに。今の自分は力の強いただの一般人と変わりない。その事実をまざまざと見せつけられた瞬間であった。
そして、こんな向かうべき所まで向かえてないのに、自分はここで死ぬ。そのことに大輝は顔を歪ませる。その時であった。
「紫電一閃」
一筋の雷光が全てのオオカミを焼き払った。そして、大輝のもとへ近づいてきたのは.......
「大輝、やっぱりここにいたのね」
香蓮であった。
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