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第128話 不幸は続く

この章は仲間の絆が試されますね


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「あ.....ああ......」


 大輝はしばらくして落ち着きを取り戻した。しかし、悲しみは堪えようもなく、腕を目元を覆うと肩を震わせながら悔しそうに唇を噛んだ。その唇からは強く噛み過ぎているのか血が流れている。そんな大輝の姿を見ながらも、香蓮達はかける言葉が見当たらなかった。


 親友の裏切り。それはあまりに唐突で、この場を現在も揺るがし続けている衝撃的な事実。その悲しみは、苦しみは大輝にしかわからない。香蓮達も同じような思いであるが、きっと比べ物にならないほどであることは確かだ。


「嘘だ......嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だあああああ!」


 大輝は唐突に叫びながら上体を起こすと荒い呼吸を繰り返した。大輝の顔は若干青ざめており、涙も拭わず流れっぱなしのまま。青ざめているのは、左胸の傷が僅かに開いて血が流れだしているせいだ。さすがに弱っていく大輝を見てられなくなったエミュは、大輝へと声をかけた。


「大ちゃん、落ち着いて。傷が開いているから、まずは塞いで寝ていないと」


「うるさい!今はそんな時じゃないはずだ!俊哉がいない!必ず何かあったはずだ!連れて帰らないと!なんとしてでも......」


 大輝の声は段々と尻すぼみになっていく。それは自分のことを心配してくれたエミュに対して言ってはいけないことを言ったからだ。そして、大輝はふとエミュの方を見た。すると、エミュは泣いていた。これまで見せたことのないような悔しそうな表情をしていた。


「エミュ、俺は――――――――」


「ごめんね、役に立てなくて」


「エミュ!」


 大輝は咄嗟に謝ろうと声をかけたが、エミュは大輝に目を合わせず、一言だけ告げるとエミュはこの部屋から出ていった。そのことに大輝は思わず頭を抱える。突然のことに頭が正常に働いていなかったとはいえ、あまりにも酷いことを言った。それに対して、エミュは怒ってしまったのだと。自分の浅はかな行動で、積み上げてきた信頼関係にヒビが入ったのだと。


 香蓮達はわかっていた。エミュがなぜこの場を出ていったのかを。それはエミュが言った言葉が全てであった。好きな人がこんなにも苦しんでいる。なのに、支えてやるような言動さえできない。そんな自分自身に怒りを感じているのだと。この現状を打破できないことが悔しいのだと。そんな怒りが大輝を見ているとどんどん湧いて来てしまうため、一度距離を取ったのだと。


 しかし、そんな思いが大輝に伝わっていないのは、火を見るよりも明らかだ。このままでは、大輝はずっと誤解し続け、エミュとの関係が修復できないぐらいに壊れてしまう可能性もある。それだけは防ぎたい。そして、香蓮が声をかけようとした時、大輝は気づいてしまった。


「......なあ、どうして俺の中に魔力を感じないんだ?」


 大輝は抱えていた頭から手を放すと思わず自身の手を見た。いや、その手に流れる魔力に意識を集中させていた。だが、これまで感じていた流れるような何かが全く感じない。何度も何度も何度も何度も、確かめても結果が変わらない。


 そのことに、思わず大輝は放心状態になる。ただただ涙が頬を伝って流れていく。そのことに絶望感が拭えない。。そして、同時に理解していた。どうして、大輝の左胸の傷が塞がっていなかったことに。これだけ深い傷だ。簡単には治らない。それこそ魔力が無いと。


「なあ、どうして、どうしてなんだ!」


 大輝は身勝手な質問だとわかっていながらも言わずにはいられなかった。この気持ちに答えて欲しかった。なんでもいい。なんでもいいからケリをつけたかった。もう耐えられそうにない無常感から解放されたかった。


 しかし、同時にこのままではいけないと思っている自分もいる。それは、このまま俊哉を連れ戻さないうこと。それだけはダメだ。俊哉は俺と一緒に異世界に来た唯一の男にして、親友。前の世界の時も、今の世界の時も何度も助けられた。そんな大事な存在を見捨てることなんてできない。


 すると、大輝の言葉にセレネが答えた。


「酷な話だけど、ちゃんと聞いて。今、大輝が感じてることは本物よ。明確な原因はわからないけど、おそらくはその左胸に傷をつけた短剣に何かあったはずよ。考え得る可能性とすれば、呪いとか......」


「呪い......そうか、呪いか!」


 大輝はその言葉を聞くと息を吹き返すように顔を明るくした。「呪い」それに関しては大輝には覚えがあった。それは海の国にいた時のこと、俊哉と一緒に温泉に入った際に俊哉は包帯をつけながら、浴槽につけていた。


 今思えば、もうすでに俊哉は呪いにかかっていたのかもしれない。そして、俊哉のことだから、自分達に迷惑かけまいとしてずっと一人でどうにかする方法を探っていたかもしれない。はあ、全く大バカ者だな。結局、迷惑かけていれば世話がない。仕方ない奴だ。ここは親友として、助けに行ってやろうではないか。


「それで、解呪方法とかあるんだよな?」


 大輝ははつらつとした声で言った。だが、その言葉に誰一人反応することはなかった。そのことに大輝は思わず怪訝な顔をする。それは仕方ないかもしれない。なぜなら誰一人として、言いずらそうな顔をしながら目を逸らしているのだ。


 その表情に大輝は嫌な予感を段々と抱き始めた。顔が強張り、自然と腕が震えてくる。額から冷汗が出て、それが頬を伝って顎まで流れていく。首を絞められたかのように呼吸が苦しい。呼吸の仕方を忘れたかのように口をパクパクとさせる。


「......おい、どうした?どうしたんだよ?答えてくれよ!なあ!」


 大輝は切羽詰まったような表情で、思わず香蓮達に怒鳴るように言った。すると、ミリアが苦しそうな表情をしながら答えた。


「解呪方法は......見つかりませんでした。今も尚、探していますが、まだ良い報告は聞いていません。本当にごめんなさい」


「......嘘だろ......」


 泣きながら謝るミリアに大輝は反応することが出来なかった。ただ頭が真っ白になり、愕然とした表情を浮かべるだけ。もうどうしようもない放心感が大輝を襲っていた。そんな希望が失われて弱っていく再起の姿が、香蓮達の胸を締め付ける。


「もうどうすればいいんだ......」


 大輝は思わず涙をこぼした。大輝と俊哉の実力差は当然役職柄、大輝の方が強い。とはいえ、俊哉の役職は精霊騎士。そこまで大きな差がある訳じゃない。なら、何で差が開くが、それは魔力の差。それに関しては、覆用もない差が出る。


 なら、今はどうか。大輝は魔力がなく、俊哉は呪いによって強化されている可能性がある。自分達パーティの内部崩壊を狙った敵の仕業だ。そう考えてもおかしくはない。しかし、そう考えてしまうなら、もう自分には俊哉を止められないと認めているようなもの。それだけはダメだ。


 だが、魔力がない状態でどう戦えばいいのか。多くの魔道具は魔力がある前提で、魔力を上手く使いこなせない人や補助的なものとして存在している。つまりは、魔力がないなど話にならないのだ。であれば、もうほとんどの魔道具は使えないということになる。


 もちろん、この世界にも稀に魔力を持たない人が存在するという。その人達のために、もともと魔力を内蔵した魔道具も存在している。しかし、補助をメインにした魔道具に比べれば、明らかに戦力として劣る。それは、仕方ない。なぜならそれらは、生活の一部とでしか使われないからだ。


 大輝の中にはもう絶望しか残っていなかった。助ける手段もなければ、どこにいるかもわからない。そして、記憶にいる俊哉の様子から察すれば、おそらく俊哉と戦うことになる可能性がある。なのに、それに対抗するための力がない。


「俺は無力だ......」


「そんなことないわよ。そんなわけ――――――――――」


「だったら、どうしてこうなるんだ!俺は俊哉が何かを隠していることを知っていた!なのに、見逃した!そして、起きた結果がこれだ!もうどうしようもないだろ!今の俺じゃ俊哉は止められない!魔力がない俺じゃ、ただの人と変わらないじゃないか!」


「......大輝、歯を食いしばりなさい」


「!」


 香蓮は泣きながら唇を悔しそうに噛むと右腕を大きく上げた。そして、大輝に一言だけ告げると思いっきりひっぱたいた。そのビンタによって、大輝は一瞬頭が真っ白になる。そして、普段には感じない心に響く痛みが大輝の頬から伝わった。


「......ごめん、一人にしてくれないか?今のままじゃ、俺はお前らを傷つけそうだ」


「......わかったわ。行きましょ」


 大輝の言葉にセレネが反応すると香蓮の腕を強引に引きながら、茉莉と共に部屋を出た。そして、現在この場にいるのは大輝とフランとドリィのみ。しかし、フランとドリィは大輝に何と声をかけたらいいかわからず悩んでいる。


 そして、また大輝は一人呆然としていた。そして、そのまま時間は過ぎていく。

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