第121話 愚弟
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二体の魔物を倒すと大輝はすぐさまカオスへと話しかける。
「カオス、なんとか説得して場所を移してもらえないか?おそらくカオスの言うことなら、あいつは聞くだろうから」
そう言いながら周りを見渡すとそこら中に散らばった瓦礫の数々。これは全て建物が魔物の攻撃で壊された残骸であった。そのことに大輝は思わず心を痛める。これは、この家々は人々が住んでいた証なのだ。それが破壊されるのは見ていても辛いことだし、その人達のためにも住む場所は壊したくない。それ故の言葉だった。
カオスは大輝の言葉の意味を察すると肯定するように頷いた。そして、グラムの方を向くと出来るだけ口調が悪くならないようにしながら言った。
「なあ、お前があたいのそばにいたいんなら、願いの一つくらいは聞いても問題ないよな?」
「姉さんが僕を求めている!ああ、どんなことでも構わない。ただ、この魔法を解除することは出来ないけどね」
「なに、簡単なことだ。あたいが要求するのは場所の移動だ。ここは少しの間しかいなかったが、あたいが気に入った場所だ。こうも壊されちまうとどうにも心に来るんだ。それぐらいはわかってくれるよな?」
「愚問だよ、姉さん。それぐらいできなくては、姉さんの弟であるという名が廃るからね。それで、どこなんだい?」
「ここの近くに開けた場所があるんだ。そこに行こうじゃないか」
そう言うとカオスは先導するように動き始めた。その後をグラムが追っていく。大輝達はミリアを安全な場所に待機してもらうよう言うとその二人を追いかけた。そして。辿り着いた場所は広大な草原。ここは大輝の記憶から引っ張り出した場所で、遮蔽物も何もない、戦うならピッタリの場所であった。
そして、全員がグラムに対して戦闘態勢を構えた。グラム一人に対して、こちらは多数。戦況的には有利どころか普通ならまず負けることはない。ただ、相手が相手だ。魔物ではない。故に何を考えているかなんてわかるわけではない。
すると、グラムは大輝達に向かって言った。
「うーん、どうしてついて来るのかね?これは僕と姉さんだけのやり取りだったはずだけど?」
「あたいがついてこいと言ったんだよ。それぐらいもお前は許容できないのか?あたいが言う言葉だぞ?」
「......本当に姉さんなのかい?」
グラムはカオスの言葉を聞くとそのような言葉を言い始めた。そのことに全員が嫌な予感を拭えなかった。グラムは別に怒っている訳でもなければ、先ほどのように恍惚とした表情を浮かべているわけでもなかった。ただ、考え込むような表情を浮かべているだけであったにもかかわらず。
「僕の知っている姉さんはもっと残酷だったはずだ。仲間を切り捨て、敵を討つ......そんな人であったはずだ。それに、自らわざわざ仲間を連れていくような人ではなかったはず。むしろ、付きまとっていた仲間を自らの手で殺すほどの狂気を持った人のはずだ。僕はそんな姉さんが好きだった。なのに今は、周りにそんなにもいるのに何もしない。これはどういうことなんだ?」
大輝はグラムの言葉を聞いて、咄嗟にカオスの方を向いた。すると、カオスはなんとも罰が悪そうな顔をしている。そして、大輝に顔を合わせることはしなかったが、それに関して話始めた。
「前に私達が捨て子だって言っただろ?そんで弟を生きさせるために行動していたと。だが、当然子供だった私達には、普通の職は与えられない。となれば、お金が稼げず、一日を生きるのもやっとになってしまう」
「その言い方だと他にお金を稼ぐ方法があったように聞こえるのだが?」
「簡単な理由さ、グラムの言葉を聞いた通りの意味で戦って稼いだだけさ。そこで、株を上げてけば、必然的に戦場に駆り出されることも多くなるから、より稼げるって意味さ。そんで、あたいには戦いの才能があったからここまでグラムを生かせたんだ。だが、どうやらあいつの記憶にはその時のあたいが色濃く残ってしまっているらしい。全く、愚弟と呼ばざるを得んな」
カオスはめんどうそうな顔をしながら頭を掻くと何かを閃いたように手を叩いた。そして、大輝の方を見るとその考えていることを言った。
「お前さん、その体を貸してくれ」
「.......は?」
この提案には大輝も思わずなんとも言えない感じの声が漏れた。「貸してくれ」、つまりは憑依させてくれということを言いたいのだろう。だが、その理由がわからない。なぜわざわざ体を使う必要があるのか。
すると、その大輝の思った疑問を察してかカオスは答えた。
「あいつのねじ曲がった感情を姉であるあたいが正したいんだよ。それに、あいつの心に届くのはきっと値の攻撃でしかないはずだ。だから、頼む。あたいに力を貸してくれ」
「......なるほど、そういうことな。いいぜ、ただ一つ確認したいことがある」
そう言うと大輝は聖剣と魔剣に話しかける。
「フラン、ドリィ、俺が憑依されても大丈夫か?契約うんぬんは問題ないか?」
「主様が承認しているのなら問題ないのじゃ」
「ドリィもそうなの」
大輝は二人から確認を得るとその二つの剣を一度鞘にしまった。そして、カオスに「問題ない」ということを伝える。すると、カオスは「行くぞ」と言うと大輝の中に入っていく。その光景はなんとも不思議なものであった。その瞬間であった。
「うぅ......!」
視界がぶれるようなめまいが起きた。そして、体も熱を帯びていく。それから次第に大輝の意識は暗い部屋の中に沈んでいった。
「さすが、勇者の体だな。凄まじいほど力が湧いてくる」
数秒後、大輝......いな、カオスは大輝の体の主導権を握ると感覚を確かめるように手を握ったり、開いたりした。それから、腕を回したり、脚の可動域を確かめたりとさまざまな部分の動きを確かめる。そして、問題ないことを確認すると拳を鳴らした。
「うし、問題ないな」
「ねえ......さん?何をしてるんだい?」
大輝に憑依したカオスを見て、グラムは絶望にも似た表情を浮かべる。それは自分が愛してやまない姉がどこぞの馬の骨の体内に入ったから。そして、その悲しみは次第に怒りへと変わっていった。やがて、怒りに唇を血が出るほど噛みしめると吠えた。
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!違う!違う違う違う違う違う!僕の知っている姉さんはこんなんじゃない!こんなことをしない!どうせ体を借りるなら僕の体のはずだ!おかしい!おかしいおかしいおかしいおかしいおかしい!こんなのは姉さんじゃない!」
その時、グラムのもとへと大量の魔力が収束し始めた。その魔力は魔物の魔力に近く、加えて聖霊国の方から魔力がグラムの方へ吸い寄せられていた。中には魔物の残骸も多くあった。そして、それらはある空中の一点で収束し、形を形成し始めた。
全身を黒く染め、大きな顎に、翼。鋭い爪のついた四つ足に、蛇のような尻尾。簡単に言えば、キマイラの姿であった。そのキマイラは大きく吠えるとその衝撃波だけで、周囲の木々をなぎ倒していった。当然、その衝撃波は香蓮達を襲った。だが、それを各々地面に体を固定して、吹き飛ばされないように耐えていく。
「クソ、この愚弟が!世話焼かせやがって!」
「愚弟.....時折、姉さんが言っていた言葉だ。だが、僕は騙されない。もう少し前に言っていれば、まだ多少の時間稼ぎは出来たであろうけど、もう無駄だ。僕の知っている姉さんは僕だけのものだ」
「はあ......気持ちわりぃな!」
カオスはグラムの方へと向かって行くとグラムを護るようにキマイラが立ち塞がった。だが、カオスはキマイラの姿を視界には入れてなかった。目指すべきところはただ一つ。グラムのいる場所のみ。なぜなら、そのキマイラには大輝の仲間が向かっているとカオスは分かっているから。
すると、カオスの前に白竜とかしたエミュがキマイラのもとへと突っ込んでいく。そして、キマイラの後ろに回り込むと尻尾を掴み、強制的に移動させた。
「グラムううううううう!」
「姉さんの振りをするなあああああ!」
カオスとグラムは互いに剣を抜くと一気に振って、互いの剣をぶつけ、甲高い金属を響かせた。
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