間1 明晰夢
父さんの言いつけ通りに生活拠点を山形に移した大学四年間。
週末は勇姫と共に帰省し、道場の手伝いをするというのは、四年間続けた習慣だったから、そのことを特別改めて思い出すことはない。
何か特別なことがあったとすれば、二つだけ。
父さんから卒業後の展望を尋ねられ、よどみなく道場を継ぐと宣言し、新庄夢想流における最後の型と心得を伝授された事。
もう一つは、
あれ、何だっけ?
最後の型、最後の心得、それが銃器を持った相手の対処法を伝えるものであることは、すぐにわかった。
しかし、なぜ今まで伝えられることがなかったのだろう。
江戸時代に興されたらしい新庄夢想流に、銃の対処法が伝えられていたとしても、不思議はない。きっと今よりも銃器の危険を身近に感じる時代だったのだろう。
けれども、高校卒業までの間におよそすべての型と心得を伝授され、皆伝と認められていたのに、どうして最後の一つだけ隠すようなことをしたのだろう。
どんな理由があったのだったか。確か、聞いた覚えがあるのだけれど。
「話しておこうか、良一郎も成人した訳だし、伝えておきたいと私も、思うしね」
やけに不吉な声色。
父さんの声に違いないのに、聞いたことがないような。恐ろしい響きを孕んでいる。
ああ、これは夢なんだと、唐突に理解した。
今日は20時に、もう一話更新されます。




