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サムライフローマ  作者: いぬっころ
第三章 ローマの錬金術師
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 ティベリアが日本語を学びたい理由を聞いて、僕は心底驚いた。

 生まれてから今まで、このような女性と会ったことがなかった。

 確かに女性の立場はどこの国でも弱いけれども、立場が弱いからこそ、女性と言う生き物は極め付きに強かなものだ。

 それは貴族の女性でも、平民の女性でも、貧民の女性でも変わらない。

 幼少時からウェスタの巫女と言う極めて特殊な特権階級に組み込まれているからか、生まれ持っての才覚かはわからないが、ティベリアと言う女性には邪気がない。

 その精神性は、この上なく清らかだ。

 皆程度は違えども同じように、誰かしらから教育や影響を受けて成長するのだから、ティベリアの内に邪気が育たなかったというのは、理論的に考えて不自然だ。

 ウェスタの巫女は皆そうなのだろうかと思って、他の巫女を観察してみても、明らかに異常なのはティベリアだけだ。

 彼女の善性には、欲が見えない。誰かを利用してやろうとか、自分だけは得をしてやろうとか、そういう考えが少しもない。

 日本語を覚えたい、などと言った話はその最たるものだった。

 日本語など覚えても、何の得もない。今ローマで日本語を使えるのは僕と、ローだけだ。

 けれどもティベリアは、文字も知らない、聞いたこともほとんどないような言葉を、覚えたいという。

 ローがラテン語を覚えようとしているのだから、日本語を覚える事には大した意義がない。

 何せティベリアがこれから日本語を学んでも、きっとローがラテン語を習得する方がずっと早いのは疑いようがない。

 そうなればラテン語で行う意思疎通の方が手間もかからないし、効率的だ。

 僕がそう言っても、ティベリアは納得しない。

 日本語で、ローの言葉で伝えたいことがあるのだと、ティベリアは言った。

 ただ一人を理解するためだけに、寄り添う努力をしたいと、思っているのかもしれなかった。

 なるほど、それはよく効く手段であろう。

 方々回っていろいろな言葉を学んできた僕がそう思うのだから、きっと間違いがない。

 異国人が自分の国の言葉を話してくれる。という事は、思いがけず嬉しく思うものだ。

 サウロスさんが僕を通訳に使って取引を行うのは、素早く相手に気に入られるため、と言う所が大きい。

 でもティベリアには、そういう狙いは、きっと無い。

 ローは、余るほどの金銭を蓄えているだろうか、何かしらの大きな権益を持っているだろうか、何かティベリアの利益になるようなものを持っているのだろうか、何も持ってはいないのだ。

 話したらすぐにわかったけれども、ローはとても良い人だ。

 性情は温厚で快活、思慮深く慎み深い、人情味もあって付き合いやすく、よほど良い師と環境とに恵まれたのだろうと察することができる。

 ローもティベリアに近い精神性を持っているように思うけれど、彼はティベリアよりもずっと現実的で合理的なように感じる。

 世の中には悪い人もいるのだろうと理解している。

 理解したうえで、誠実で、他人に優しくできる人なのだと思う。

 でもそれは、ティベリアの持っている優しさとは、違うものだ。

 ローの優しさは、強いからこそ、賢いからこそ持てる余裕のある優しさであって、ある意味では他者を下に見るが故の優しさだ。

 ティベリアの優しさは、言うなれば無差別な優しさだった。強いも弱いも賢いも愚かも関係がない。

 ティベリアの優しさと言うのは、精神の清らかさと言うのは、神から与えられた魂の清らかさ故のものなのではなかろうか。

 そうでなければ、説明がつかない。

 そうなのであれば



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