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シモン君が通訳としてウェスタ神殿に来てくれるようになった初日から、ローは止まることなく質問をし続けた。
今まで私では伝えることができなかったことが、シモン君に通訳してもらうことによって容易に伝えることができるようになったからだろう。
ローマの文化、信仰、風習など。ローは気になったことは何でも聞いてみることにしたらしい。
日を追うごとに、ローのラテン語はすごい速さで上達し始めた。
基礎的なことは、すでに身についていたのだから、当然だと思う。
そして私は、シモン君がやってくる日に時間があればできるだけ同席して、ラテン語の勉強の邪魔にならない程度に少しずつ、ローの事を尋ねてみた。
ニホンと言うずっと遠い、東の国から流れ着いた事。
そこでケンジュツという戦う方法を教える仕事をしていたこと。
歳は二十五歳で、私よりも年上だという事。
そういうことをシモン君に通訳してもらいながら、少しずつ教えてもらった。
シモン君は博識で、ローマの事情にも明るかったから、わざわざ通訳などせずに、そのままローの質問に答えることも多かった。
時には、私がいなくても全く問題がないときもあったけれども、それでも私はできるだけ同席した。
ニホンゴを覚えたかったからだ。
通訳のシモン君がいるのだから必要ない、とユリアは言うけれども、私はそうは思えなかった。
ただ、自分が満足したいだけなのかも知れないけれども。
もうニホンゴが話せるシモン君がいるから、余計なことなのかもしれないけれども。
それでもやっぱり私は、ニホンゴを覚えたいのだった。
シモン君がニホンゴは、とても奥深い言葉だと言っていた。
似たような意味合いの多様な言葉が呆れるほど多いのだという。
それはつまりきっと、そういう細やかな違いを日常的に感じ分ける、高い感受性がある民族の証拠なのだとも言っていた。
何となく、らしいなと思った。
辛いことも苦しいことも、きっと上手に隠してしまうような、繊細な言葉を使う民族なのだろう。
あの闘技場で見たローの事を、あの月夜に一人で泣いていたローの事を思い出す。
あの時に、私は声をかけてあげたかった。
もっと上手な言葉で、伝えたかった。私がついているから大丈夫と、胸を張って言ってあげたかった。ローがわかる言葉で言いたかった。
ローのラテン語はどんどん上達しているから、必要かと聞かれたならば、自信をもって答えることはできそうにないけれども、それでも、だ。




