↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サムライフローマ  作者: いぬっころ
第三章 ローマの錬金術師
73/122

73sim1

 

 華美な装飾に身を包み、誰よりも高い所に立つその者を、誰もがまるで神のようだと揶揄した。

 柔らかい言葉で罵倒されたその者は、笑うでもなく、怒るでもなく、さも当然のように、その言葉を受け入れた。

 高い所に立つ者が傲慢であれば、低い所にある者たちもまた、悪辣な性根をその身に宿していた。

 精神の清汚に、立つ場所の高低も、生まれの貴卑も、教育の多少すらも、何の関係もない。

 人は生まれながらにして悪性の塊だ。

 当然、僕もそうなのだ、と思うと体が震えた。

 なんて、恐ろしいのだろうか。

 口では皆一様に、善を説く。

 しかし、その身の内側は、誰しもが酷く醜い悪性で成り立っている。

 気持ちが悪い。

 そしてそう思っているのは、きっとこの場で僕だけだ。

 僕の父も、母も、一族の者も、この地に住まう者たちは、皆、自分は良いユダヤ人である、と確信してすらいるに違いない。

 誰しもが、自分だけは良き人間だと信じている。

 気持ちが悪い。

 そして、奇跡は起きた。

 高い所に立つ者が、その身を豪奢に着飾った悪性の老人が、崩れ落ちる。

 ある者は、重ねた悪行の重みにつぶされたと言い、ある者は、神の怒りに触れ命を失ったと賢しげに言う。

 されども、かの老人の死を悼む者は、この場には誰も居ないのだ。

 かの老人が、力ある者には頭を垂れ、力ない者の頭を踏みつけるような人物であることは、誰でも知っている。

 かの老人の内に、我らが神に向けられた、確かな信仰の心があったことも、誰もが知っていた。

 心の内に、善と悪とが同時にあることは、過ちなのだろうか。

 誰しもがそうなのに。

 ならば、人とは、そも不完全で醜悪な、そういう生き物なのではあるまいか。

 ああ、なんて救いの無いことだろう。

 自らは不完全で、醜悪で、なのに、いつかは清い存在になる事ができると信じている。

 そんなことは、人でいる限り不可能だというのに。

 言葉が聞こえる。

 醜い言葉はもう結構。

 しかし、耳を塞ごうが、大声を上げようが、その言葉は私の頭を殴りつけるようにして届いてきた。

 声は私の内から発しているように思えた。

 不完全で醜悪な私から、このような、完全に完璧な言葉が生じる筈はない。

 であれば、これは、神の声に違いなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。