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「さて、どうしましょうか」
とても難しいことを考えているような表情をしたクラウディア様が、私を見ながら言った。
「えーと、何をですか?」
私は、自分では気づかない内に、何かしでかしてしまったのだろうか。
「あなたは最近、ローを連れて毎日のように街を散策していると小耳に挟んだのですが」
「はい。言葉を教えるには実際に物を見せて教えるのが一番確実だと思いますし、ローも、テルティウスおじいさんには遠慮して欲しいと言いにくい物も、自分でお金を払うのであれば問題なく買うみたいなので」
「そういう話ではありません。いえ、ローの事も決してないがしろにして良い話ではなく大事な話ですが、今はあなたの事を話しているのですよティベリア」
「私の?」
一体何を。
勤めはきちんと果たしているし、ローと出かけるのは、私の勤めがなく、ローが薪運びを終えた後の午後だけだ。
何か問題があるとは思えない。
「あなたはローを何だと思っているのです?」
「ローは、ローです。ウェスタ神殿で新たに薪割りの勤めを担う者です」
他に言いようがない。
今では正式なローマ市民であるものの、ローマ人と言い切ってしまうのも、少し違うような気がする。
私が責任をもって言葉を教える相手ではある。
そして意思疎通ができる様になれば、聞きたいことがある相手でもあるけれど、それは今求められている答えではないのだろうとも思う。
どのような答えが正しい答えなのか今一つわからなかった。
ローの事をどのように認識しているのか、という質問なのだと理解できるのだけれど。
自分でもローという人の事を、というよりも、自分がローの事をどういう相手だと認識しているのかなんて、考えたこともなかったように思う。
艶やかな黒髪を持つ、童顔の、おそらくは年下であろう、剣の腕が立つ異装の人。
知性と教養を持ち、穏やかで、誠実な精神を持っている。
行動力と判断力は並外れていて、窮地に立たされても揺るがない強靭な精神力も持ち合わせている。
しかし、悩みもすれば、苦しみもする。それを隠すのが上手な人でもある。
改めて思い返してみても、私がローについて知っていることは、そのくらいだった。
私の心の内に、ローという大まかな人物像は確かにある。
しかし、それを言葉にしようとしても、正しく表現できる気がしない。
ローとはこういう人物である。というと、どこかに不足が出る様な気がするのだ。
心の内で考えるだけでも、果たして本当にそうなのだろうか、という疑問が次から次から湧いてくる。
やはりローは、ローなのだ。としか
「なるほど、今の答えでおおよその見当がつきました」
やはり、クラウディア様はすごい人なのだなと思う。
ウェスタ神官長は伊達ではないのだろう。
私自身でもわかりかねているところを、すぐに理解できてしまうなんて。
「ティベリア、ユリアを呼んで来てください。確かめなければならないことができました」
なぜユリアが呼ばれるのだろう。
疑問に感じながらも、私はユリアを呼ぶためにクラウディア様の執務室を後にした。




