9年目の始まり
今年の春は、馬の嘶きとともに始まった。
爺さんが用意した馬は番で10組20頭。
これはなかなかの数というより、「伝令の早馬に使う分」という名目を大きく逸脱した数だ。繁殖させて増やせと言う無言の圧力である。
「公爵閣下から手紙を預かっています」
手紙によると、馬を増やしておくようにと書かれていた。
無言じゃなかったよ、馬の繁殖。
手紙には馬の件とは別に、貴族の様子についても書かれていた。
水回りで失敗した連中は軒並み世代交代を強要され、冬の間には一掃されたようだ。命を賭けてまで権力にしがみつくほどボケた奴はいなかったようだ。
ちなみに、水回りで失敗した連中は口頭で説明を受けメモも取らなかった結果、注意事項を忘れていただけらしい。
貴族だからといって読み書きに慣れた人間ばかりではなく、普段はクワを持って畑を耕すような連中だと面倒がってわざわざ説明を記録しないという。そして大事な情報を忘れてしまうのも間抜けな話だが、人間だもの、しょうがないと笑っておこう。俺に実害は無かったし。
ついでに、妖怪爺2号のところで同じように失敗した奴がいたのは、主に金の問題である。
誰もが潤沢な予算を持っているわけではなく、ため池などを作るのに適した土地を持っているわけではない。金が無いから運を天に任せ、見事敗れた連中がいたという話である。
こんな連中であるが、公爵2家から連名でため池作りに協力するように要請があった。
いいけどね、それぐらい。恩を売るって思えば悪くない仕事だから。
ただ、この手の工事なら兵士の方に任せていいんじゃないかって思うんだけど?
昔、嫁さんらが来る前に兵士があっという間にため池を作っていたんだけど。それこそものの数日で。
俺に任せる意図が今ひとつ読めないが、お給金が出るなら仕事として頑張りますかね。
と、まぁ、そんな平和な話だけで春が過ぎていくと思っていた時期がありました。
「族長、俺。話、要求。王国、帰属、願う!」
蛮族スタイルの若い男が俺のグラメ村にやって来た。一族らしき連中を連れて。
片言の王国語で話し合いをしたいと言っている。
「支配、保護、願う!」
しかも、王国民にしてくれと頭を下げて。
見れば族長を名乗る若い男の他は女子供ばかり。他に若い男がいないし、年寄もいない。ついでに家畜なども連れてないな!
部族間抗争に負けた避難民かよ!
……見なかった事にしたいなぁ。
はぁ。
余計な仕事が増えた。




