懸賞広告
冬が訪れ、灰色の世界が広がった。
ついこの間まではまだ緑だった草も枯れてしまい、焦げた茶色のカーペットになった。
木々もほとんどが葉を落とし、重なり並ぶ黒いオブジェとなっている。
見上げる空は青さを失い、白く重い壁に支えられた灰色のドームのように見えてしまう。
こう見ると緯度が日本よりも北よりなのだなと考えてしまう。
その割に寒くないのは海流のおかげなのだが、その恩恵にホッとするより鮮やかさを失った景色の方が印象として強く残る。
何年経っても、この光景は好きになれない。
農地の方だが、カブの収穫が終わった後に大麦を蒔いてある。
秋蒔きの大麦は苗の状態で冬越しさせ、初夏に収穫することになる。このあとはクローバーで地力を回復させて小麦を蒔き、カブの収穫につながるのだが。1年で小麦、カブ、大麦を収穫できるというのは微妙に信じがたい話だ。
しかしできれば食糧生産チートとして生産量が上がる。とりあえず、やってみてから考えよう。
小麦が主食として扱われる食文化の中で、大麦がパン以外で一番使われるのはビールだ。古代のビールはスープの亜種で日本のビールとは違い発酵させた大麦を取り除いておらず、どろりとした喉ごしの、あまり美味しくないビールだ。細かいことを言えばビールの中でもエールと呼ばれるもので、日本のビールの様なラガーではない。この二つの違いは発酵に使われる酵母の差なのだが、俺もそれ以上の事は知らない。
ついでに言うと、この世界のビールの製法だって知らない。企業秘密的な扱いをされているので、合法的に調べる方法が無いのだ。そのうち業者を呼ぼうと思う。
生産方法の細かい点は小麦とほとんど変わらない。むしろ、小麦よりも生産難易度は低いとされる。
この辺りは生育に適していないと思うので探す事すらしていないが、米だと生産難易度はかなり高くなる。小麦の数倍の真水が要るので水の確保も難しくなるし、病気のリスクも大きい。ぶっちゃけてしまえばギャンブル好きが挑むハイリスクハイリターンな作物なのだ、米は。
新人農民しかいない今は手を出すべきではないだろう。
米よりも、探すべきはジャガイモたちだ。
大航海時代に南米より持ち込まれた、トマトと唐辛子とジャガイモ。
どれも高地に生息する植物で、ヨーロッパには生息していない。
しかし、ここは異世界で地球ではない。
よって、どこかの山脈によく似た物があるかもしれないと俺は期待している。
俺が旅をするわけにはいかない。俺は領主貴族なのだから。
しかし、探すように手配することは出来る。
有用な植物として、王都で懸賞広告を出すことにした。
俺の領まで苗を持ってきたら、それぞれ金貨10枚。金貨10枚は平均的な一般市民の生涯年収よりやや多いぐらい。命を賭けるにはやや少ないかもしれないが、南の方にあった山脈に住んでいる部族とは取引があったはず。そっちに縁のある一部の商人が頑張ってくれるかもしれない事は期待している。
トマトがあれば、ケチャップとかいろいろと作ることができる。
唐辛子があればペペロンチーノを作ってもいい。
ジャガイモは単純に新たな主食として活躍できる。
成功を思うと夢は大きく広がるが、現状でこの手の考えは妄想レベルのたわごとにすぎない。
夢が夢で終わるのか。
夢が叶って現実となるのか。
結果が出るのはこれより数年先の話である。




