はじめての町と約束の店③
やがて町の中心部から少し離れた通りへ出る。
人通りは多い。
市場も近い。
立地は悪くない。
「ここだ」
レオンが足を止めた。
目の前には空き店舗。
二階建ての石造り。
窓も大きい。
少し古いが綺麗に使われていたようだった。
「ここを?」
「気に入らなければ別を探す」
葵はゆっくり中へ入る。
広さは十分。
厨房も作れる。
二階は住居として使えそうだった。
そして何より。
理央が目を輝かせていた。
「あおくん!」
「うん?」
「ここすき!」
くるくる回りながら笑う。
窓から差し込む光が髪を照らした。
葵は思わず微笑む。
こんなふうに安心して笑う理央を見るのは久しぶりだった。
「……いい場所ですね」
「そうか」
「はい」
胸が温かくなる。
異世界へ来てから不安ばかりだった。
帰れる保証もない。
未来も分からない。
それでも。
ここなら。
ここから始められる気がした。
「レオンさん」
「なんだ」
「頑張ります」
葵は真っ直ぐ言った。
「この店を、この町で一番愛される店にしてみせます」
レオンは少しだけ目を見開く。
そして小さく笑った。
「期待している」
その言葉に葵も笑った。
◇◇◇
帰り道。
理央は歩き疲れたのか眠そうだった。
小さな頭がこくりこくりと揺れる。
「りお?」
「んー……」
限界だった。
次の瞬間。
ふわりと身体が持ち上がる。
レオンが抱き上げていた。
「れおんさん……?」
「寝ている」
「でも」
「問題ない」
理央はすぐにレオンの肩へ頬を寄せた。
「……れおんさんあったかい」
半分眠ったまま呟く。
その言葉にレオンの動きが一瞬止まる。
だが何も言わず歩き続けた。
葵はそんな二人を見つめていた。
厳しい騎士団長。
けれど理央には不思議なくらい優しい。
ありがたいと思う。
それ以上の感情はまだなかった。
ただ。
レオンの横顔を見ていると、なぜだか少しだけ胸が温かくなるのだった。
そしてその頃。
レオンは自覚し始めていた。
アオイとリオを守りたいという気持ちが、ただの責任感ではないことを。
けれどその想いを口にするには、まだ早すぎた。




