はじめての町と約束の店②
市場を歩く。
果物屋には色鮮やかな実が並んでいた。
赤いルーナの実。
紫色のセリアの果実。
星形のキラの果実。
どれも見たことがない。
パティシエの目が輝く。
「面白い……」
「何がだ」
「全部です」
葵は果実を眺めながら答えた。
「この世界には知らない食材がいっぱいある」
それだけで胸が高鳴る。
もしこれを菓子にしたら。
どんな味になるだろう。
どんな見た目になるだろう。
考えるだけで楽しかった。
レオンはそんな葵を見ていた。
厨房で菓子を作る時もそうだった。
食材を見ている時の葵は、驚くほど生き生きしている。
その横顔から目が離せなかった。
◇◇◇
「あおくん!」
突然理央が声を上げる。
視線の先には屋台。
丸い焼き菓子のようなものが並んでいた。
「食べたい!」
理央が期待に満ちた目で見上げてくる。
葵は思わず財布を探そうとして、はっとした。
そもそもこの世界のお金を持っていない。
「ごめんね、りお。僕、お金持ってなくて……」
しゅんとする理央。
その時だった。
「店主、それを三つくれ」
レオンが屋台へ声をかける。
主人はすぐに焼き菓子を包んで差し出した。
「はいよ!」
代金を払ったレオンが、そのうち一つを理央へ渡す。
「ほら」
「いいの!?」
「ああ」
「やったー!」
理央は満面の笑みになった。
葵は慌てて頭を下げる。
「すみません、レオンさん」
「気にするな」
短く答えるレオンだったが、その表情はどこか柔らかかった。
葵も一つ受け取り、理央と一緒に口にする。
生地は素朴だ。
甘味はほとんどない。
香草の香りがする。
「美味しいけど……」
「甘くないね」
理央も不思議そうな顔をする。
「そうだね」
葵は苦笑した。
やはり甘味文化は存在しないらしい。
すると屋台の主人が興味深そうに尋ねてきた。
「甘い方が美味いのか?」
「そうですね」
「へえ」
「今度作ってみせますよ」
そう言うと主人は豪快に笑った。
「楽しみにしてる!」




