表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/33

光の玉と騎士④



 厨房を借りた葵は腕まくりをする。


 用意したのはルーナの実。


 ミルカ乳。


 ピヨルの卵。


「今日は理央が安心できるように、甘いおやつを作ります」


 まずルーナの実を煮詰めて甘い蜜を作る。


 次にミルカ乳を鍋で温め、溶いたピヨルの卵と蜜を加えて丁寧に混ぜ合わせた。


「飲み物……ですか?」


 料理番の女性が興味深そうに尋ねる。


「いいえ。今日はプリンというお菓子です」


 葵は微笑む。


 卵液を器に注ぎ、蒸し器代わりの鍋でじっくり火を通していく。


 やがて表面がなめらかに固まり、甘い香りがふわりと立ち上った。


「すごい……」


 理央が目を輝かせる。


 仕上げにルーナの蜜をとろりとかける。


 異世界の材料で作った、優しい甘さのプリンだった。


「できたよ、理央」


 差し出されたお菓子を、理央は両手で受け取る。


 小さなスプーンでひと口すくい――。


「おいしい……!」


 ぱっと表情が明るくなった。


 もうひと口。


 さらにもうひと口。


 夢中で食べる姿に、葵の胸のつかえが少し軽くなる。


「プリン、またたべたい」


「もちろん」


 理央は嬉しそうに笑った。


 異世界へ来てから初めて見せる、心からの笑顔だった。


 その様子を見守っていた騎士達も自然と頬を緩める。


「子供があんな顔になるなら、菓子というのも悪くないな」


「確かに」


 すると一人の若い騎士が、おそるおそる手を挙げた。


「その……俺たちも食べてみてもいいですか?」


 葵は思わず笑う。


「もちろんです」


 追加で取り分けられたプリンを受け取り、騎士達は興味津々で見つめた。


「柔らかいな」


「卵料理なのか?」


「甘い匂いがするぞ」


 恐る恐るスプーンを入れた騎士がひと口食べる。


 次の瞬間、目を丸くした。


「うまい!」


 その声に周囲も次々と試食を始める。


「なんだこれは……口の中で溶ける」


「甘いのにくどくないな」


「食後にこんなものがあったら最高じゃないか」


 屈強な騎士達が真剣な顔で感想を言い合う姿に、料理番の女性まで笑い出した。


「皆さん、そんなに気に入ったんですか?」


「気に入るも何も、こんな食べ物は初めてだ」


「アオイ殿、これを毎日作れないか?」


「それはさすがに大変ですよ」


 葵が苦笑すると、騎士達から残念そうな声が上がる。


 和やかな空気が厨房に広がった。


 レオンも静かに差し出されたプリンを受け取る。


 無言でひと口食べると、その蒼い瞳がわずかに見開かれた。


「……美味いな」


 短い言葉だったが、素直な感想だった。


 葵は少し照れくさくなりながら頭を下げる。


「ありがとうございます」


 レオンは静かに理央を見つめた。


 不安で強張っていた小さな肩が、今は少しだけ力を抜いている。


「アオイ」


「はい」


「その菓子は特別なのか?」


 葵は首を横に振った。


「いいえ。もっと凝ったものも作れます。でも今日は理央が安心できる味を作りたかったんです」


 レオンは短く息を吐いた。


「そうか」


 そして珍しく柔らかな声で続ける。


「子供を大事にしているんだな」


「家族ですから」


 迷いなく答える葵に、レオンはしばらく何も言わなかった。


 やがて理央が駆け寄ってくる。


「あおくん!」


「どうした?」


「ここ、ちょっとだけこわくなくなった!」


 その言葉に葵は目を細めた。


 帰れる保証はまだない。


 未来も分からない。


 それでも。


 理央が笑ってくれるなら、きっとやっていける。


 そう思えた。


 こうして。


 異世界へ迷い込んだ青年と小さな男の子は。


 騎士団長との出会いをきっかけに。


 少しずつこの世界で居場所を見つけていくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ