表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/33

王都の菓子職人②


 その頃。


 理央はレオンの手を握っていた。


「あおくん、たのしそうだね」


「ああ」


「おともだちできたのかな」


 レオンは少しだけ眉をひそめる。


 友人。


 それならいい。


 だが。


 なぜだろう。


 胸の奥が落ち着かない。



◇◇◇



 その日の午後。


 ユリウスの工房へ招かれることになった。


「ぜひ意見を聞かせてください」


 職人同士の交流だ。


 断る理由はない。


 工房へ入ると甘い香りが漂っていた。


「すごい……」


 葵は思わず感嘆する。


 整然と並ぶ道具。


 広い厨房。


 保存庫。


 さすが王都の工房だった。



「こちらをどうぞ」


 ユリウスが差し出したのは焼き菓子だった。


 果実を練り込んだ生地。


 見た目は美しい。


 だが。


 葵は一口食べて考え込む。


「どうでしょう」


 期待と緊張が混じった声。


 職人の顔だった。


「美味しいです」


 まず正直な感想を言う。


 ユリウスがほっとする。


 だが葵は続けた。


「ただ……」


「はい」


「果実の香りが少し消えているかもしれません」



 そこから二人は夢中になった。


 温度。


 混ぜ方。


 焼成時間。


 果実の扱い。


 気付けば数時間。


 ずっと菓子の話をしていた。


「なるほど!」


「そうか!」


 ユリウスの瞳がどんどん輝いていく。


 葵も楽しかった。


 久しぶりに同業者とこんな話をした。


 前世でも職人仲間と語り合う時間は好きだった。



「アオイさん」


「はい?」


「本当に凄いですね」


 ユリウスが笑う。


「お会いできてよかった」


 その言葉は心からのものだった。


 だからこそ。


 レオンは余計に面白くない。



◇◇◇



 宿へ戻る道。


 夕焼けが王都を染めていた。


「今日は楽しかったです」


 葵が言う。


「ユリウスさん、すごい人でした」


「そうか」


「勉強になりました」


 嬉しそうだった。


 本当に。


 心から。




「アオイさん」


 後ろから声がした。


 振り返る。


 ユリウスだった。


 追いかけてきたらしい。


「これを」


 差し出されたのは小さな箱だった。


「?」


「南方の香果です」


 箱を開くと淡い金色の果実が入っている。


「祭りで使ってください」


 葵は目を輝かせた。


「いいんですか?」


「ぜひ」


 職人として使ってほしい。


 そんな純粋な好意だった。


「ありがとうございます!」


 葵は嬉しそうに頭を下げる。


 ユリウスも微笑む。


 その光景を見て。


 レオンの機嫌は過去最悪だった。



◇◇◇



 宿へ戻った後。


 理央はベッドの上で首を傾げていた。


「れおんさん」


「なんだ」


「きょうずっとむすっとしてた」


「していない」


「してた」


 即答だった。


「おなかすいた?」


「違う」


「ねむい?」


「違う」


「じゃあなんで?」


 純粋な疑問。


 レオンは答えられない。


 代わりに。


 理央はぽんと手を叩いた。


「あ!」


「?」


「やきもち!」


 部屋が静まり返った。


 葵が目を瞬く。


 レオンが固まる。


 理央だけが得意げだった。


「このまえ、おみせのおねえちゃんがいってた!」


 きゃっきゃと笑う。


「れおんさん、やきもちなんだ!」


 レオンは人生で初めて、本気で五歳児への対処に困ったのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ