王都への招待②
その夜。
騎士団本部へ戻ったレオンは執務室にいた。
だが書類は全く進まない。
「団長」
副団長が呆れた顔をする。
「なんだ」
「三回目です」
「何がだ」
「同じ書類を読むの」
レオンは黙った。
図星だった。
「王都ですか」
「……」
「心配なんですね」
「違う」
「そうですか」
副団長は全く信じていなかった。
◇◇◇
窓の外を見る。
夜空。
月明かり。
静かな風。
その中でレオンは考えていた。
アオイはきっと王都でも注目される。
菓子は素晴らしい。
人柄もいい。
放っておいても人が集まる。
それは分かっている。
だからこそ。
胸の奥が落ち着かなかった。
◇◇◇
翌日から準備が始まった。
王都へ持っていく菓子の試作。
保存方法。
移動中の管理。
考えることは山ほどある。
「これだと崩れるな……」
厨房で頭を抱える葵。
ケーキは難しい。
長距離移動には向かない。
なら焼き菓子か。
いや、それだけでは足りない。
何か王都の人々を驚かせるものを。
そう考えながら試作を繰り返した。
理央はそんな葵を応援していた。
「あおくん!」
「ん?」
「がんばれ!」
小さな拳を握る。
その姿に葵は笑った。
「ありがとう」
「おうとのひと、びっくりさせようね!」
「そうだね」
理央はすっかり祭りを楽しみにしているらしい。
ーー数日後。
試作品を食べてもらうためレオンを呼んだ。
テーブルに並ぶ菓子。
果実を煮詰めて作った新しいタルト。
香り高い焼き菓子。
そして。
まだ試作段階の果実の層菓子。
「どうです?」
期待に満ちた瞳。
レオンは一口食べる。
美味い。
文句なく美味い。
だが。
それ以上に。
王都で誰かがこの笑顔を独占するかもしれない。
そんな考えが浮かんだ。
「レオンさん?」
「……問題ない」
「本当ですか?」
「ああ」
声はいつも通りだった。
だが胸の内は違う。
離れてほしくない。
危険な場所へ行くわけではない。
ずっと会えなくなるわけでもない。
それでも。
そう思ってしまう。
そしてようやく理解した。
これは恋心などという穏やかなものだけではない。
もっと深い。
もっと強い。
アオイとリオが自分の日常になっているのだと。
◇◇◇
その夜。
店を出る前。
理央が眠そうな顔でレオンを見送った。
「れおんさん」
「なんだ」
「おうといっしょにいく?」
無邪気な質問だった。
レオンは一瞬固まる。
そして。
葵も目を丸くした。
「理央」
「だって!」
理央は真面目な顔で言う。
「れおんさん、さみしそうだから」
静寂。
レオンも。
葵も。
言葉を失った。
そして理央だけが首を傾げていた。
本人は何も分かっていない。
だが。
子供というのは時々、大人より鋭い。
レオンは小さく息を吐く。
そして初めて。
王都への旅に同行したいと本気で思ったのだった。




