王都への招待①
クラウスが王都へ帰ってから二週間ほどが過ぎた。
おひさまのおみせは変わらず繁盛していた。
朝は焼き菓子。
昼はタルト。
午後にはケーキ。
毎日忙しい。
けれど葵にとっては幸せな忙しさだった。
「いらっしゃいませ!」
理央もすっかり接客に慣れている。
最近では常連客から小さな贈り物をもらうことも増えた。
花だったり。
木彫りのおもちゃだったり。
皆に可愛がられている。
◇◇◇
そんなある日の昼下がり。
騎士団の伝令が店へやって来た。
「アオイさん」
「はい?」
「王都から書状です」
差し出された封筒には見覚えのある紋章。
クラウスの商会だった。
葵は首を傾げながら封を切る。
手紙を読み進め――
目を見開いた。
「え……?王都の……菓子祭り?」
◇◇◇
その日の夜。
店の二階にレオンが呼ばれていた。
理央は夕食を食べながら果実水を飲んでいる。
葵は手紙を差し出した。
「これです」
レオンが目を通す。
内容は簡潔だった。
王都で開催される大規模な祭典。
今年は初めて『菓子部門』を設ける。
ぜひアオイの菓子を出品してほしい。
そんな内容だった。
「こんな機会、滅多にないですよね」
菓子職人として断る理由はなかった。
新しい食材。
新しい人々。
多くの職人。
考えるだけで胸が高鳴る。
一方。
レオンは静かに手紙を見つめていた。
王都。
ここから馬車で十日ほど。
往復だけでもかなりの日数になる。
祭りの準備も含めればもっとだ。
「レオンさん?」
呼ばれて顔を上げる。
「どう思います?」
葵は期待に満ちた顔をしていた。
子供のように。
新しい世界を見つけた人のように。
その顔を見た瞬間。
反対できるわけがなかった。
「行くべきだ」
少しだけ苦しかったが、それでも言う。
「ありがとうございます」
葵は嬉しそうに笑った。




