王都からの客人③
「アオイさん」
クラウスが微笑む。
「もし良ければ王都で店を出す気はないかな?」
「え?」
葵が目を瞬く。
「もちろん支援は惜しまない」
店内が静まり返った。
王都への誘い。
普通なら断れない話だ。
実際、周囲の人々も驚いていた。
「王都だって?」
「すごいじゃないか!」
「アオイ君ならできる!」
歓声が上がる。
だが。
レオンの胸はざわついた。
もし葵が王都へ行ったら。
もし理央も連れて行ったら。
もう今のようには会えなくなる。
葵は少し考えた後、困ったように笑った。
「ありがとうございます」
「では」
「でも」
クラウスを見る。
「今はこの店が大事なんです」
優しい声だった。
「この町で頑張りたい」
その言葉にクラウスは目を丸くする。
そして。
楽しそうに笑った。
「なるほど」
残念そうではあったが、納得もしているようだった。
「ますます気に入ったよ」
◇◇◇
クラウスが帰った後。
店の片付けをしていると。
「アオイ」
レオンが呼んだ。
「はい?」
「王都へ行かなくてよかったのか」
どこか硬い声だった。
葵は首を傾げる。
「どうしてです?」
「条件は悪くなかっただろう」
「そうですね」
葵は微笑んだ。
そして。
「でも僕、この町が好きですから」
店内を見回す。
石釜。
厨房。
ショーケース。
全部大切だ。
「それに」
「?」
「理央もいますし」
理央はちょうど近所の子供達と遊んでいる。
毎日楽しそうだ。
「ここが今の僕達の居場所です」
その言葉を聞いた瞬間。
レオンの胸から重い石が落ちたような気がした。
◇◇◇
「れおんさん!」
理央が駆け寄ってくる。
「どうした」
「きょうね!」
理央は得意げに言った。
「おうとのひとにも、おかしほめられた!」
「ああ」
「すごいでしょ!」
なぜか理央が誇らしげだった。
レオンは思わず笑ってしまう。
「そうだな」
理央も嬉しそうに笑う。
その隣で葵も笑っていた。
夕陽が差し込む店内。
温かな空気。
レオンは静かに目を細める。
王都もいい。
だが。
今だけは。
この場所にいてほしいと思った。
そしてその願いが、ただの友人へのものではないことを、もう否定できなくなっていた。




