花冠と初めての休日② (挿絵)
翌日。
久しぶりの休日だった。
店も休み。
仕込みもない。
朝食を終えた頃。
「暇だな」
レオンが言った。
なぜいるのか。
葵はもう聞かないことにした。
「休みなんだからゆっくりしたらどうですか」
「……」
「レオンさん?」
「では出掛けるか」
「話聞いてました?」
聞いていなかったらしい。
◇◇◇
向かった先は町の外れだった。
緩やかな丘。
風が吹き抜ける草原。
遠くまで続く青空。
「わぁ……」
葵は思わず足を止めた。
美しい景色だった。
「きれー!」
理央は早速走り出す。
もちろん今度は見失わない距離で。
「ここ、好きなんですか?」
「たまに来る」
レオンが答える。
「考え事をする時に」
意外だった。
こういう場所を好む人だとは思わなかった。
◇◇◇
三人で昼食を食べる。
葵が作ってきた果実のサンド。
焼き菓子。
そして冷やした果実水。
「おいしい!」
理央は相変わらず幸せそうだ。
「アオイ」
「はい?」
「これも店で出せるな」
レオンがサンドを見ながら言う。
「確かに」
果実を使った軽食は珍しい。
面白いかもしれない。
仕事の話になると、自然と会話が弾む。
そんな自分に葵は少し驚いていた。
ーー食後。
理央は遊び疲れて眠ってしまった。
木陰で小さく丸くなっている。
穏やかな寝息。
葵は毛布を掛けてやった。
「寝ちゃいましたね」
「ああ」
二人だけになる。
静かな時間だった。
風が草を揺らす音だけが聞こえる。
「……」
「……」
沈黙が続く。
不思議と気まずくはなかった。
むしろ心地いい。
レオンは隣に座る葵を見た。
風に揺れる薄茶色の髪。
柔らかな横顔。
穏やかな瞳。
初めて会った時から綺麗な人だと思っていた。
だが今は違う。
もっと近くにいたい。
笑っていてほしい。
誰よりも。
そんな気持ちが胸の中にある。
もう誤魔化せなかった。
これは。
恋だ。
一方の葵は全く気付いていなかった。
「レオンさん?」
「なんだ」
「眠そうですよ」
「……」
「大丈夫ですか?」
本気で心配している。
鈍かった。
驚くほど鈍かった。
レオンは小さく息を吐く。
「問題ない」
「そうですか?」
「ああ」
しばらく無理そうだ。
そう思いながらも。
どこかその鈍さが愛おしかった。
◇◇◇
夕暮れ。
丘を下りながら理央が両手を繋ぐ。
右は葵。
左はレオン。
「またこようね!」
満面の笑顔。
その言葉に。
葵は微笑み。
レオンも静かに頷いた。
誰も口にはしない。
けれど三人とも同じことを思っていた。
この時間が続けばいい。
ずっと。
そう願うほどには。
三人はもう家族のようになっていた。




