開店初日と団長の焦り④
「何をしている」
低い声だった。
理央はきょとんとする。
「おはな!」
「……」
「きれいだったから!」
悪気は全くない。
ただ綺麗だったから摘んでいたらしい。
レオンは深く息を吐く。
そしてしゃがみ込んだ。
「勝手にいなくなるな」
思ったより強い声になった。
理央が肩を震わせる。
「ごめんなさい……」
しゅんと俯いた。
レオンは少し後悔した。
怒りたかったわけではない。
ただ。
ーー怖かったのだ。
そこへ葵が駆け込んでくる。
「理央!」
「あおくん!」
理央が飛びつく。
葵は強く抱きしめた。
「心配した……」
声が震えている。
理央も泣きそうになっていた。
「ごめんなさい」
「うん……」
葵は何度も頭を撫でる。
無事でよかった。
本当に。
それだけだった。
抱き合う二人を見ながら、レオンは静かに息を吐いた。
副団長が後ろで呟く。
「団長」
「なんだ」
「顔色戻りましたね」
「……」
「理央君がいなくなった時、今にも飛び出していく獣みたいでしたよ」
レオンは答えなかった。
だが否定もしない。
それが全てだった。
◇◇◇
その夜。
理央は反省したのか、葵へぴったりくっついていた。
「あおくん」
「ん?」
「もうひとりでいかない」
「うん」
「れおんさんにもおこられた」
しょんぼりしている。
葵は苦笑した。
「怒ったんじゃなくて心配したんだよ」
「……そうなの?」
「そうだよ」
理央は少し考える。
そして。
「こんどありがとういう」
真剣な顔で頷いた。
その様子を見ながら葵は微笑む。
だが気付かなかった。
レオンが理央だけではなく、自分のことも心配していたことに。
そしてレオン自身もまだ気付いていない。
アオイを失う想像をした瞬間の恐怖が、自分の想像以上に深いものだったことに。




