開店初日と団長の焦り③
昼を過ぎても客足は途切れない。
近所の老人が杖をつきながらやって来る。
「アオイ君、この焼き菓子は日持ちするかね?」
「はい。数日は大丈夫ですよ」
「じゃあ孫への土産にしよう」
別の女性が声をかける。
「今度、お祭りの時にまとめて頼めるかしら?」
「もちろんです」
そんなやり取りを重ねるうちに、葵は少しずつ町の人々との距離が近づいていくのを感じていた。
気付けば理央の姿が見えないことに。
葵はほっと息を吐こうとして、動きを止めた。
「理央?」
返事がない。
「理央?」
店の周囲を見回す。
いない。
二階かと思ったが違う。
裏口も開いていない。
胸がざわりとした。
「理央!」
声が大きくなる。
◇◇◇
同じ頃。
レオンは巡回中だった。
そこへ近所の子供が駆け寄ってくる。
「騎士様!」
「どうした」
「リオがね!」
嫌な予感がした。
「何があった」
「お花見つけたって走っていっちゃった!」
次の瞬間。
レオンは走っていた。
部下達が驚くほどの速度で。
理央はまだ五歳だ。
この町は比較的安全だが絶対ではない。
人攫いもいる。
魔物だって出る。
胸の奥が冷たくなる。
考えたくない想像が次々浮かんだ。
その時。
「あっ!」
聞き覚えのある声。
広場の噴水近く。
理央が座り込んでいた。
両手いっぱいに花を抱えている。
「れおんさん!」
無邪気な笑顔。
レオンは一気に力が抜けた。




