開店初日と団長の焦り①
開店初日。
まだ朝日が昇りきる前から、葵は厨房に立っていた。
二階では理央がすやすや眠っている。
静かな時間。
だが店内には甘い香りが満ちていた。
今日作るのは
果実の焼き菓子が数種類。
ルーナの実のタルト。
そして小さなクリームケーキ。
昨日の開店祝いで食べた人々の噂が、予想以上に広がっていたのだ。
だからこそ、絶対に期待を裏切りたくなかった。
まずはタルト生地を作る。
冷やしたバターを細かく刻み、ラル粉へ擦り込む。
指先で混ぜるたび、さらさらの砂のようになっていく。
そこへ卵を加え、生地をまとめる。
「生地は触りすぎない」
ぽつりと呟く。
誰に教えるでもなく、昔からの癖だった。
休ませた生地を伸ばし、型へ敷く。
重しを入れて焼く。
香ばしい香りが立ち始めた。
次はルーナの実。
皮を剥き、薄く切る。
鍋へ入れて少量の果実蜜と一緒に煮る。
透明感が出るまでゆっくり。
果実が艶を帯びる頃には、厨房中が甘い香りでいっぱいになっていた。
◇◇◇
「あおくん……」
眠そうな声が聞こえる。
振り返ると、理央が目を擦りながら階段を降りてきた。
寝癖で髪がふわふわになっている。
「おはよう」
「おはよぉ……」
とてとて歩いてきて、葵へ抱きつく。
まだ半分眠っているらしい。
その姿が可愛くて、思わず笑ってしまう。
「いいにおい……」
「朝ご飯の前に味見する?」
「する!」
即答だった。




