開店祝いのホールケーキ①
開店の日が近づいていた。
店内には新しい机や椅子が並び、窓には淡い色のカーテンが掛けられている。
二階の住居も生活できるほど整っていた。
「もうすぐだね」
葵が呟く。
ここまで長かったようで短かった。
異世界へ来た時は不安しかなかったのに。
今は胸が高鳴っている。
「あとさんにち!」
理央が指を三本立てる。
「そうだね」
「たのしみ!」
理央は毎日その話ばかりだった。
近所の子供達にも自慢しているらしい。
どうやらすでに有名になり始めているようだ。
◇◇◇
開店前日。
葵は朝から厨房へ籠もっていた。
「アオイ」
レオンが顔を出す。
「今日は随分早いですね」
「様子を見に来た」
もはや誰も信じない理由だった。
本人だけが真面目な顔をしている。
「何を作るんだ?」
「開店祝いです」
葵は微笑んだ。
「皆さんにお礼がしたくて」
そう言いながら材料を並べる。
卵。
ミルカ乳。
果実蜜。
ラル粉。
そして色鮮やかな果実達。
「いーっぱいあるね!」
「今日は特別だからね」
作るのは今までで一番大きなケーキだった。
◇◇◇
まずは卵を割る。
白身と黄身を分ける。
何度も泡立てる。
空気をたっぷり含ませながら。
白い雪のようになったところへ黄身を加える。
ラル粉をふるい入れ、潰さないよう丁寧に混ぜた。
「ふわふわ……」
理央が覗き込む。
「触ってみる?」
「いいの?」
小皿にわけて指先で少しだけ触れる。
ぷにっとした感触に理央が笑った。
「くもみたい!」
「そうだね」
以前レオンも同じことを言っていた。
思い出して少し笑う。
生地を焼いている間にクリームを作る。
冷やしたミルカ乳から取った脂肪分を泡立てる。
果実蜜を少し。
甘さは控えめに。
果実の味を活かすためだ。
次にルーナの実。
ミエルの実。
青紫色のシャルの果実。
それぞれを切り分ける。
色の組み合わせを考えながら並べる。
まるで花束を作るようだった。
「綺麗だな」
レオンが呟く。
「まだ途中ですよ」
「途中でこれか」
感心したように見つめている。
◇◇◇
焼き上がったスポンジは理想的だった。
ふわりと軽い。
きめ細かい。
ナイフで三枚に切る。
クリームを塗る。
果実を並べる。
また重ねる。
一層ずつ丁寧に。
最後に全体をクリームで包み込んだ。
そして果実を飾る。
赤。
金。
紫。
色鮮やかな果実が白いクリームに映えた。
まるで祝いの花冠のようだった。
「完成です」




