世界で最初のケーキ③
皆が集まっていた。
職人。
近所の住民。
そして騎士達。
「これが……」
「菓子?」
「綺麗……」
誰もが目を奪われている。
この世界には存在しない見た目だった。
葵は切り分けて配る。
「どうぞ」
静かになる。
一口。
そして。
「……っ!」
驚きの声が上がった。
「柔らかい!」
「溶ける!」
「甘いのに軽い!」
「果実がこんなに合うなんて!」
次々に感嘆が広がる。
理央も頬いっぱいに食べていた。
「おいしいー!」
幸せそうな顔。
その姿を見て葵も嬉しくなる。
◇◇◇
「アオイ」
レオンが呼ぶ。
「はい?」
「君は凄いな」
真っ直ぐな視線だった。
「そんなことないですよ」
「ある」
即答だった。
「君が来てから皆が笑うようになった」
葵は少し目を見開く。
「それは……」
「私はこういうことに疎い」
レオンは続けた。
「だが君の菓子を食べた人間が喜ぶことだけは分かる」
その言葉に胸が温かくなった。
嬉しかった。
認めてもらえた気がした。
◇◇◇
夕方。
皆が帰った後。
店の中には葵と理央だけが残っていた。
「ねえ、あおくん」
「ん?」
「ここ、ほんとうにおみせになるんだね」
理央が窓の外を見る。
夕陽が差し込んでいた。
「そうだね」
「ぼく、すき」
理央が笑う。
「ここ、おうちみたい」
その言葉に葵は一瞬だけ目を閉じた。
元の世界へ帰れるか分からない。
姉にももう会えない。
失ったものは大きい。
それでも。
この子にとって居場所になれるなら。
この世界でも生きていけるかもしれない。
「うん」
理央の頭を撫でる。
「きっと素敵なお店にしよう」
「うん!」
その笑顔を見ながら。
葵は知らなかった。
店の外で。
レオンがしばらくその光景を見守っていたことを。
そして。
自分の気持ちが想像以上に大きくなっていることを、レオン自身がようやく認め始めていたことを。




