第九話
三人が外へ出るとモントンの正規守備隊が来ていた。誰かが駆け込んだのだろう。
「ああ……」
三人の姿を確認したウェイミッドは膝をついて崩れ落ちた。
「困りますよ。ドレイクさん、バジルさん。ああもう本当に……」
「お前ここのフォンドがどれだけ糞な野郎か知っていたか?」
バジルが言うと、ドレイクが続けた。
「知らんだろう。よし報告書を書く手伝いをしてやる。飯を食いながらな」
「今回はそこらの喧嘩で済ませるようなものじゃありませんよ。フォンド家に殴り込んだんですよ?」
ウェイミッドは心底困りながら言った。彼の眼には涙も滲んでいる。
「俺達は誰も殺してないぞ? こっちは剣を抜いてもいないからな」
「そうだ、俺等はデジャルダンからの依頼で抜き打ち訓練をしてやっただけだ」
守備隊が中を確認している間、ドレイクは煙草を吹かしながら待った。怪我人がどんどん連れ出されていく。三十人、いや四十人ほどだろうか。
その後、今回ばかりはウェイミッドの手には負えないとして一晩かけて取り調べを受け三人は牢に入った。
翌日、どこからか知らせを受けたラービングがやってきて三人を引き取った。バジル達の知らないところでラービングは大忙しだったらしい。デジャルダンがドレイク達を訴える気がない様だったことも幸いした。
守備隊長であるウェイミッドは三人を釈放できたことに一安心した。
もし彼等を数日閉じ込めておかなければいけないとなればどうなることか。きっと彼等は二日もすれば飽きてきて、牢をこじ開けて出ていくだろう。そうなればウェイミッドの立場上、彼等を斬り捨てなければならない。斬り捨てる……? とんでもない。
そんなことができるのなら彼は今精神的な理由で腹痛を起こしてなんていない。彼等が嬉々として残していった本人陳述書の内容も又、彼の腹痛に拍車をかけていた。
〝フォンドは子供の命を盾に女を犯す糞である
ドレイク・ルブラン バジル・オーレリア 肉球〟
こんなものをおいそれと上に提出できるわけがない。チュワモント王家とフォンド家の争いの元にもなりかねない。フォンド本家に知られたらどうなることか。さんざん悩んだ挙句、ウェイミッドはこの陳述書を自身の机の一番下の引き出しにしまい混み、どこにも提出しないことに決めた。
自分が引退して、後任の守備隊長がきたのなら、そいつの初仕事はこいつをどうするかになるだろう。
三人はラービングと共にギルドへ戻り赤子と再会した。赤子の機嫌は良さそうだった。ギルド職員達がよく面倒を見てくれていたらしい。
「ラービング、手間をかけたな。ありがとよ」
ドレイクがぶっきらぼうに礼を言った。
「ええ、本当に。上手くいったからよかったものの、本当に本当に胆が冷えましたよ」
「上手くいったなら良かったじゃないか」
そう言ってバジルは笑った。
「全く……」
ラービングは落胆しているように言うが、その顔はどこか楽し気だった。
「じゃああとは任せる」
「もう行かれるのですか?」
「すっきりしたからな、ちょっくら孤児院に顔出してから帰るよ」
四人はそのまま孤児院へ向かった。
孤児院の扉を叩くと、イズが出てきた。後にはエステルもいた。
「またいらしてくれたんですね」
「ああ、赤子の世話の仕方を教えてくれないか」
ドレイクが頼んだ。
「もちろんです。その前にあの夜の謝罪をさせて下さい。不快な思いをさせてしまい大変申し訳ございませんでした」
イズとエステルは言いながら頭を下げた。
「いやその、不快というわけじゃない。むしろあれを堪えるのはものすごく難しかった」
バジルが笑いながら言うと、イズとエステルは頭を下げたまま頬を赤らめた。
「それでまあなんだ、この赤子はオールドークへ連れて行こうかと思う。オールドークまでは大分かかるからな、赤子の世話の仕方を教えてくれ」
ドレイクは少し照れ臭そうに言った。
「あそこなら誰かが引き取ってくれるだろうしな」
「分かりました。もし宜しければ又ここへお顔を出してはくれませんでしょうか。子供達も楽しみにしております。もちろんもう何も頂かなくて良いんです。ただ顔を見せに来ていただければ……」
イズが頭を下げながら、申し訳なさそうに言った。下を向いているので表情は見えない。
「北部にはあまり来ないんだが、近くにきた時はここに寄ると約束しよう」
「お前が道に迷わなければな」
ドレイクの答えにバジルが付け足した。
「あの、お名前を頂戴しても宜しいでしょうか」
エステルがそう言うと、ドレイクとバジルは顔を見合わせた。そういえば名乗っていなかったかもしれない。が、今更名乗るのは気が引けた。
「ああ、ここの食料がなくなる前に使いの者が来るからそいつにでも聞いてくれ」
バジルが言うと、イズは色々なものを飲み込んだうえで了承した。聞きたいことが山ほどあるのに上手く言葉が出てこない。
「あの……その子に名前をつけてあげてはくれませんか?」
イズは精一杯の思いを口にした。
「……いや、それはやめておこう」
少し悩んで赤子を見ながらドレイクが言った。赤子が見つめ返している。
「変に情が沸いても困るからな」
ドレイクは言いながら自然と口元を緩ませた。
そうして三人は孤児院で赤子への食事の与え方やおしめの替え方を学び、街を出た。
デジャルダンは言われた通り昨夜のフォンド邸襲撃は訓練の一環であるとして屋敷の者達に通達した。
怪我をした者達にはデジャルダンから特別手当が出されたが、その金はラービングから渡されたものである。元を辿ればギルドの、ドレイク達三人の竜種討伐報酬だった。ラービングはドレイク達のしでかしたことを知ると、迅速に収拾に動いていたのだ。
三人にやられた兵士達はというと、英雄に稽古をつけて貰ったと自慢するくらいであった。顎の外れた隊長は、大剣アイリーンと剣戟を繰り広げたのだと触れ回っていた。
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