第八話
兵士とは別に使用人が多くいた。抵抗の意思がない者は見逃し、手あたり次第扉を開けていく。屋敷の二階の左端、一際大きい扉が最後に残った。
「まあ、ここだろうな」
「じゃあ行くか」
ドレイクが扉を蹴って開け、バジルとBDが中に飛び込む。そこは寝室のようだった。豪華な寝台の陰に細かく震える影が見える。バジルは威嚇の意味も込めて、大きく低い声で言った。
「おい、お前がこの家の主か?」
その影は上ずった声で答える。
「ち、違う。私は使用人だ。お前達こそ何者だ? ここはモントン領主、デジャルダン・フォンド様の屋敷だぞ?」
バジルが火の玉を出して灯りにした。映し出されたのは震える小太りの男だ。領主が太っていることはままあるが、使用人が太っていることは珍しい。十中八九デジャルダン・フォンドで間違いないだろう。
「おい、こっちにこい」
バジルの指示にデジャルダンはきびきびと従った。三人の目の前に立たせると、バジルはアイリーンを抜く。そして尋問を始めた。
「俺達はこの屋敷の主に用がある。関係ないやつは皆殺しにするつもりだ」
小太りの男が悲鳴を上げながら身体を震わせ、小さくなる。
「もう一度聞く、お前はこの屋敷の主か?」
「そっ、そうだ! 私はデジャルダン・フォンドだ。お前達、誰を相手にしているのかわかっているのか?」
恐怖が一線を超えたのだろう。デジャルダンは顔を真っ赤にして叫ぶ。
「お前達は傭兵か冒険者くずれのならず者だろう! 私はチュワモント王国モントンの領主だぞ。お前達は今、チュワモント王国とフォンド家両方に喧嘩を売っているんだ。分かっているのか!」
「この街の孤児院のことは知ってるか?」
デジャルダンは予想外の質問に混乱しながらも必死に記憶を辿って答えを見つける。
「私が援助している施設だ。親のいない哀れな子供達を私が救ってやっているんだ」
バジルはデジャルダンの顔を覗き込む。デジャルダンは精一杯の作り笑顔で話し出す。
「ああ……そうか、まったく。お前達はそんな噂話を信じてここに来たのか」
「噂話?」
デジャルダンは会話の主導権を握りつつあると感じたらしい。饒舌に話し出した。
「ああ。モントンの領主であるこの私が、孤児院を援助する代わりに性的な奉仕をさせているという噂が立っているらしい。まったく迷惑な話だ」
「じゃあなんだ。お前は無償で孤児院の援助をしているだけだと?」
「もちろんだとも。民草を守るのが領主の役目だ。その領主が領民に手を出すなんてありえないじゃないか」
ドレイクが思案する中、バジルが不敵な笑みを浮かべながらこう言った。
「BD、領主というのは頭が良いんだ。お前の口の中を点検してもらえ」
ドレイクとデジャルダンはバジルの言っている意味がよく分からなかったが、BDは理解したようで、あんぐりと口を大きく開けた。
「は?」
デジャルダンも口がぽかんと空いている。
「領主様っていうのはなあ、学があるんだろ? 俺等の大切な相棒の口の中に病気がないか見てくれよ」
「いやっ、私は医者じゃ――」
バジルがデジャルダンの首根っこを掴んで差し出すと、BDが頭をかっぽりと咥えた。
「お前は本当に無償で援助しているのか?」
「わっ……わたしは……なにも求――」
「BD、喉がいがっぽくないか音を聞いてもらえ」
BDが喉を鳴らすとデジャルダンは悲鳴を上げ、跪いた足ががくがくと震えだした。
「正直に言わないと胃袋も点検させるぞ」
「やめてくれ! 出してくれ! 正直に話す!」
バジルとBDの尋問にドレイクは呆気に取られていた。確かに領主は武芸を嗜み、学問や芸術にも秀でていることが良いとされる。だが一般には歴史や地理、経済を学ぶものだ。そういう意味でフォンドの『私は医者じゃない』と言うのは至極真っ当な理屈なのだが、尋問に理屈を持ち出すのも野暮かもしれないとドレイクは自問自答していた。
BDの口から解放されたデジャルダンの顔はべたべただった。大半はBDの涎だが、少なからずデジャルダン自身の涙や鼻水も含まれているように見えた。
「私は……あの孤児院を援助している。その代わりに女に私の相手をさせている」
「最初から言えこの馬鹿野郎! 良いかよく聞け。お前は無償の援助なんざしちゃいない。お前はただ娼婦を抱くよりも安く二人の女をいいようにしているだけだ。せこい真似しやがって、何がフォンドだ! 何が名家だ! せめて相応の対価を払いやがれ」
バジルはそう言って再度BDにデジャルダンを突き出した。
「BD。お前の顎が健康かどうか心配だ。噛めるかどうか確かめてみよう」
BDはゆっくりと口を閉じていく。竜の肉を喰らった牙はデジャルダンの首など容易く引きちぎってしまうだろう。牙が首に触れ、ゆっくりと肉に食い込んでいく。
「やめっ、やめてくれっ許してくれっ」
その場に刺激臭が立ち込め、デジャルダンを中心に液体が染みわたっていく。失禁だ。
デジャルダンの失禁に最も動揺したのはBDだった。人間より遥かに優れた嗅覚を持つ上に、彼はこの液体が何に由来しているかをきちんと理解していた。それで思わず顔をしかめた拍子に口に力が入ってしまい牙が食い込む。そうするとデジャルダンがさらに失禁し、匂いがBDの鼻を襲う。この流れが出来てしまうとバジルとドレイクは彼の首が噛み千切られてしまう前に慌ててデジャルダンを吐き出させた。
この世で最も醜悪な物を口にしてしまった、そんな表情をしているBDを宥めながらバジルは言った。
「今後一切あの孤児院に関わるな。お前の屑みたいな寄付ももういらん。分かったな? もし孤児院の女がやって来ても何も言わず追い返せ」
「今日のことは訓練だったということにでもしておけ。怪我をした兵達には特別手当でも出してやれ。訓練の依頼は無償で受けてやる」
ドレイクが付け加えた。
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