第七話
フォンド家に殴り込みをかける。孤児院がエイトフレンズに連なるものとなれば、そのあとの問題はほとんど解決だ。まともな人間であれば御伽噺の英雄と喧嘩をしようとは思わない。今でこそ英雄と呼ばれてはいるが元はただの荒くれ者の集まりに過ぎないからだ。
「でもよお、もしクリス達が認めてくれなかったらどうするんだ?」
「その時はその時だ」
「それもそうか」
元より先のことを考えるのは性分ではない。そう思うと今回の行動自体、二人が成長している証であるとも言えた。
チュワモント王国モントン領主、デジャルダン・フォンドの屋敷は孤児院とは反対側の街の端にあった。石造りの二階建ての建物に所々装飾の施された着色硝子の窓が入っている。外周は塀で囲まれ、槍を持った兵士達が巡回していた。入口は鉄格子の門一つ、両脇に門番が構えている。
あたりは薄暗く、人影はまばらであった。露店が並ぶ通りから離れており、屋敷は周囲の建物から少し離れた所に位置している。騒がなければ襲撃が外に気づかれる可能性は低いように思われた。
「いいかバジル、BD。殺すなよ」
「殴ったくらいで死ななきゃいいけどな」
バジルの返事にBDも頷く。
三人は門の前で立ち止まった。門番達が静止してきたからだ。
「ここはモントン領主、デジャルダン・フォンド様のお屋敷である。許可のない者は立ち入ることは許されない」
若い門番だった。バジルよりも小さい身体で、彼は三人の前に立ち塞がった。
「許可は貰ってないんだが、用はあるんだ」
「用?」
「お前らのご主人様にな!」
バジルは門番の胴を思い切り殴った。小柄な彼は容易く吹き飛び、門扉にぶち当たる。
「てっ! てきしゅ――」
もう一人の門番はドレイクが沈黙させる。
門番を二人とも気絶させてしまった二人は顔を見合わせた。
すると、BDが少し呆れた素振りを見せたあと、高い塀をひょいと飛び越えて消えた。
がこん、という音とともに閂が外され門が開き、中からBDが出てきた。その背後には数名の兵士が倒れているのが見えた。
「なあドレイク。やっぱり俺達はこういうのが一番性に合ってる」
「そうだな」
バジルとドレイクは笑いながら屋敷へと向かっていく。
BDは庭の兵士を無力化するために、薄暗がりに消えていった。
屋敷の扉を開けるとそこは広間で、十五名ほどの兵士達が槍を構えて並んでいた。
「おお、よく訓練された兵士だ」
バジルは感心しながら槍の隙間を縫って一人の兵士を殴り倒した。ドレイクもそれに続いて、別の兵士の膝関節に的確に蹴りを入れ骨折しない程度に痛めつける。
相対している兵士達は何故自分達の懐に入り込まれているのか理解できなかった。
槍の長所は間合いの長さだ。素手や剣よりも長い間合いは敵を攻撃が届く範囲まで近づけさせない。短所は狭い場所での扱い難さだが、こうして槍衾を作ってしまえば相手は少なくとも、正面からの突破を躊躇するはずなのだ。だからこそ弓や魔術のような遠距離攻撃が必要となる。はずなのだが……二人はいとも簡単に兵士の懐に入り込んだ。
十五本の槍の隙間はほんの僅かしかなく、それぞれが意思をもって敵を入り込ませまいとしている。ましてや襲撃者は大男。槍を恐れずに距離を詰めてきて、槍に触れることなく兵士を倒していくなんて誰も想像できていなかった。兵の混乱は槍衾の乱れを生んだ。こうなるともう陣形は意味をなさない。
バジルの前では兵士が吹き飛び、ドレイクが通った跡には苦悶の表情で膝を抱える兵士が転がっている。BDが到着する頃には立っている兵士はいなくなっていた。
「外は片付いたか」
ドレイクの問いにBDが頷きで返す。
「なんだ、なかなかやるじゃないか」
正面の大階段から、一人の兵士が降りてくる。肩には徽章、隊長か何かだろう。バジルと同じくらい大柄で、背中には長剣を背負っていた。
「俺はこの屋敷を任されている者だ。侵入者はお前ら三人か」
「ああそう――」
バジルが返事をするよりも早く、兵士は剣を抜いて階段を駆け下りた。勢いのまま横薙ぎに一閃、標的はバジルだ。
兵士は素早かった。元々の体格に加え、自己マナによる身体強化も加わっていると思われた。よく鍛えられて統率の取れている兵士達、少なくともデジャルダン・フォンドは兵士の運用には長けているようだった。
バジルは兵士の攻撃に対して、半歩身体を引くことだけしかしなかった。兵士の剣を背中の大剣〝アイリーン〟で受け止める。
金属と金属がぶつかる甲高い不快な音が響く。
「は?」
アイリーンの硬さとバジルの圧倒的な体幹により、兵士の攻撃の勢いは全て兵士自身に跳ね返された。兵士の手はそれに耐えることができず剣を落とした。
「なんだ……お前!」
「うるせえ! アイリーンに傷がついたらどうしてくれる」
驚愕している兵士の顔面にバジルは拳を叩き込んだ。がつんという鈍い音とともに、兵士は呻きながら倒れ込む。顎の位置が少しずれていた。
愛剣に名前をつける者は少なくない。ドレイクの愛刀にも名前はある。だがドレイクの愛刀はリトルアジアの名匠が打ったもので、その名も鍛冶職人がつけている。バジルの大剣には誰が名前をつけたのだろう。なぜあのような無骨な大剣に女の名前がつくのだろうかとドレイクは不思議に思っていた。
屋敷の中の兵士はそれほど多くなかったようで、今倒れた大柄な兵士が最後のようだった。仕方がないので三人は一部屋一部屋回ることにした。
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