表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アーカー大陸:楔 活躍するやつほとんどジジババ  作者: 一戸雄基


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
43/44

第四十三話

 地下牢で眠り続けるマイクの元へ蝋燭に火を灯しながら皇帝がやってきたのは、マイク達が大暴れした日の夜だった。


「マイク。私だ」

「陛下?」

「ああ。私しかいない。こんなことになってすまない」

「色々上手くいっていないようですね」

「ああ……もう知っているとは思うが、君の師は一人で三千の遊撃隊に挑み、二千以上の兵を倒してみせた。正確には二千五百。私の憧れた御伽噺に嘘はなかったようだ」

「御師様には敵いません。私はほら。ご覧の通りです」

マイクはそう言って小さく笑った。


「広場では百人以上の兵が死んだそうだ。そんなことができる人間がこの世にどれほどいようか」

 イノスは悲しそうな瞳をマイクへ向けた。


「バラバドは二千の兵で英雄を殺せると言った。士気を下げぬための言葉遊びに過ぎぬが、あの場ではまずまずの効果があった。しかしだ、一人の首を取るのに二千もの兵が必要になるとはなんとも馬鹿げた話だとは思わんか?」

 マイクとイノスは笑い合った。


「領土が増え、民も兵も増えた。なのに友人と呼べるものは減るばかり。マイク。これ以上、友を失いたくはない。もう一度私の隣へ立ってはくれないか?」

「……孤児である私にとって、我が師は父に等しき存在。陛下の望みではなかったとしても、父を殺した国のために父の剣を振るうことはできません」

 イノスは幼い頃のイエイレスを思い浮かべた。あの子の父を殺したのは自分なのだ。マイクの言葉が胸に刺さる。何度も何度も。


「……君と、君の副官であるアンが、あの英雄達との懸け橋になると信じていた」

「私もそう願っていましたよ陛下。あなたの夢に賛同した。だから私もアンもずっと考えていたのです。どうすれば御師様達を説得できるのかと」

「そうか……」

「ですがもう無理でしょう。話をする相手を殺してしまったのだから」

「……望まぬ決断を選ばざるを得ない時がある。そういう立場になってしまった。その数がどんどん増えていっているように思う」

「陛下。これはあなたの夢に賛同した友人としての願いです。私を友と言ってくれるのなら、私を殺して頂きたい」

 イノスは黙った。


「このまま生きていても人質として師匠達の負担になることしかできない」

「お前も、私に望まぬ決断を強いるのか……」

「残念です。でも、分かるでしょう? 皇帝としてではなく友として考えて下さい。誰かの負担になるためだけに生かされるのがどれほどのことか……」

 イノスの胃がぎゅっと縮んだ。


「頼む。イノス」

 そう言ったマイクの瞳を見る。顔は晴れ上がり、体は痛々しく傷付いている。それでも瞳だけは輝いていて、イノスをじっと見つめている。どうしてこうなってしまったのだろう。


 イノスは目に滲んだものを落とさぬよう上を向き、少ししてから顔を降ろして言った。


「分かった。お前の友として、友の願いに応えよう」

 そう言って、イノスはマイクを繋ぐ鎖の鍵を外し、彼を連れて地下牢の奥へ進んだ。鎖の鍵を受け取ってここへ来たのは、このためではなかったのに。


 地下牢の奥には誰も入れない古い扉があった。


 この扉を開くためには、皇帝執務室にある思案の間を開くための物と同じ鍵が必要だった。イノスはその鍵を差し込んで回し、扉を開けて、マイクを連れて中へ入った。


 扉の先には長い階段が下へ下へと続いていた。


 イノスは友を連れて降りていきたくはなかったが、マイクは堂々とその足を下に進めた。


 降りる階段が無くなった時、イノスは友人を失うことになる。


 階段は深く続いていた。いよいよ最後の段を降りてしまうと、そこには広い空間が広がっている様だった。イノスの持つ蝋燭の小さな火では、とても見渡せない。


 水の音が聞こえる。


 マイクは何かの気配を感じ取っていた。


 その気配の元が何かを理解したマイクは驚愕した。


「竜……か」

 巨大な瞳がそこにあった。


その辺の竜種ではない、これは……。


「ヴァシュタール。この者の命を出来るだけ安らかに終わらせてやって欲しい」

 イノスがそう言うと、巨大な竜の首が持ち上がり、マイクに近づいた。


 ヴァシュタール? 名前を持つ竜の一体だ。何故こんなところに……マイクがそう思案していると、抗い難い睡魔がマイクを襲った。


マイクの意識が消えていく。


眠りに落ちるように、苦しむことなくマイク・オーレリアはその命を終えた。





 帝国の声明は各地に広がっていた。


 その報を受けて大陸各地からオールドークへ向かう者達がいた。


 アンとフランシスとマットはバジルの首を持ち、帝国領から脱出すべく南へ走っていた。


 道中三人はバジルの乗っていた馬、カンダチと出会い共に南下したが、それがバジルの愛馬であったことは知る由もなかった。


 ルールー・ルークウェットはアナフア地方のオンソウで遊び歩いていたところ、バジルの死を知った。彼女は怒りに燃えてオールドークへ向かった。


 ノウサ連邦の小さな街で娘と孫と静かに暮らしていたエマ・グリーンは娘を連れてオールドークへ向かった。 


 三十年以上前、大陸を恐怖に陥れた狂竜(くるいりゅう)を討伐した者達が、今再び集まろうとしていた。



ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!


kindle出版しているアーカー大陸:楔の本編をこれから毎日最後まで公開していきます。


少しでも面白いと思っていただけましたら、ページ下部の【ブックマーク】や【☆評価】を押して応援していただけると、本当に嬉しいです!よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ