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アーカー大陸:楔 活躍するやつほとんどジジババ  作者: 一戸雄基


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第三十九話

 帝国の声明を受けて商業自由都市オールドークは大混乱に陥った。


 アーカー大陸の南西に位置するオールドークは特定の領主や権力者が存在しない。大陸で唯一、自治組織による統治が行われている都市である。


 税は存在せず、自治組織と自警団を維持できるだけの納付金を定期的に納めればこの街で暮らすことができる。


 街は海に面しており海上輸送に適しているほか、南大陸と呼ばれるアーカー大陸の南に位置する大陸との玄関口としても機能していた。


 商売に介入する法も存在しないため多くの商会が乱立するようになり、商業自由都市と呼ばれるようになった。


 大陸全土に支部を持つ組織、ギルドの本部もオールドークに置かれている。〝困っている者に国境はない〟を信条として掲げるギルドにとってオールドークは、この大陸で最も公平な場所であった。


 アーカー大陸では遠距離間の情報のやり取りは主に伝書鳩が利用されている。鳩が記憶した巣に戻ろうとする習性を利用するもので、文書や小さな小包であれば運ぶことができる。帰巣本能を利用する関係上、鳩をあらかじめ輸送しておく必要があり、ギルドはその鳩の輸送業務も担っていた。


 様々な規模の商会が集まっていることからオールドークは伝書鳩の中継地点として用いられていた。発信元から各地へ送るにはそれぞれの目的地に合わせた鳩を用意しておかなければならないが、オールドークを一度経由することで支部に備えておく鳩は一羽で済む。


 大陸内のほとんどの国が伝書鳩をオールドークの商会から買い付ける。自国で訓練するよりも費用が削減できるという利点があったからだ。訓練が行われた鳩は大陸中に出荷されていた。


 その鳩達が一斉に、帝国の声明を伝えるためオールドークへ飛んできた。それを受けてオールドークからも返信のための鳩が飛び交った。帝国の各国へ向けた宣戦布告とも取れる声明、御伽噺の英雄達との争い、鳩を飛ばすには十分な内容だった。


 食料、武器、鳩、馬を扱う商会は特需に向けて在庫を確保しようとした。訓練された鳩は速度が速く、飛行距離も長い。だが稀に猛禽類に捕食される等して、目的地に辿り着かない事はある。戦時では伝書鳩は積極的に攻撃する対象となることもあった。そのため特に重要な情報を扱うときには複数の鳩が用いられた。


 大陸中の組織が伝書鳩を大量に飛ばした結果、オールドークには日が陰るほどに鳩が集中した。空中衝突して死亡した鳩を届ければ報奨金が出るという噂が流れる程であった。


 ギルドも他の商会同様に、情報収集のため各地の支部に鳩を飛ばしていた。有事の際には正規軍が担当していた魔物の討伐依頼がギルドに回ってくることもある。各地の冒険者の数を把握し治安維持に努める必要があった。


 ギルド本部特別顧問クリス・ロジャースの元に帝国の声明が届いたのは発布されてから七日後の事であった。クリスの元には別の手紙も届いていた。


 旧コンパルド共和国の首都タリオン、現在は帝国領となっているその地から脱出したギルド職員からの報告書である。



 声明の報が届くとほぼ同時に帝国兵がギルドの施設を掌握しました。ギルド職員は国外退去を命じられました。即時退去とのことだったので、家族と最低限の荷物を持って避難しています。



 クリスは部下に少し一人にして欲しいと伝えて執務室に籠ったが、その扉は早々に叩かれた。

「僕は一人にして欲しいと言ったはずだ」

 今は整理しなければいけないことがたくさんある。自分の感情を押し殺すのだって大変なことなのだから。


「申し訳ありません。アーノルド様がお越しで、その、大分お怒りのようでして……」

 職員が申し訳なさそうに言った。


「……わかった。通してくれ」

 クリスが言い終わる前に扉を開け放ちアーノルド・バーストンがどかどかと入ってきた。クリスやバジルと共に狂竜ザハクを討伐した一人である。


 バジル同様大柄な体格で、肌は黒い。アーノルドは執務室に入るなり、クリスに詰め寄った。

「あいつらやってくれやがった! 行くぞクリス」

「アーノルド、まずは落ち着こう。僕等の持っている情報が、本当のこととは限らない」

 クリスはアーノルドに比べると随分と小柄であった。彼等の中でも最年長であったが、一線を退いて尚、引き締まった体を維持している。


 クリスはアーノルドを椅子に座らせ、自身も対面に座った。

「アーノルド、君が知っている情報を教えてくれ」

「バジルが晒し首にされている」

「それだけか?」

「それだけだと? それで十分だろうが!」

 アーノルドは目の前にあった机に拳を叩きつけた。置いてあった筆が宙に浮く。


「バジルだぞ!? あいつの首が晒されてる!」

「アーノルド、落ち着いてくれ」

 クリスは冷静を装った。その様子がアーノルドを逆撫でした。


「この腰抜けがっ、仲間を見捨てるのか! 悔しくないのか!」

 クリスは目を細めた。彼等を纏めて約四十年。血の気が多すぎる人間ばかりで本当に苦労した。


「くそおっ!」

 アーノルドは立ち上がりながら机を投げ飛ばした。


「僕が怒っていないとでも?」

 クリスも立ち上がる。身長差のせいでクリスはアーノルドを見上げる形になった。クリスの青い瞳が、アーノルドの茶色の瞳を見据える。


「僕にも怒りはある」

 クリスの青い瞳の奥に燃え上がるものをアーノルドは見た。


「だったら何故そんなに落ち着いている?」

「これでも動揺しているよ。アルファルのラービングから手紙が来た。ドレイクは生きているが会話はできないそうだ。シーリーが向かっている」


 そのシーリーの帰りが遅いことがクリスの不安を煽っていた。シリウスもしばらくその姿を見せていない。


「なんの冗談だ。ドレイクが?」

 クリスが頷くと、アーノルドは言葉を失った。


 糸が切れるようにして、クリスは椅子に座り込んだ。


「クリス、俺は今何をするべきだ」

 アーノルドも座る。


「そうだね。とにかく一度、全員集まる必要がある」



ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!


kindle出版しているアーカー大陸:楔の本編をこれから毎日最後まで公開していきます。


少しでも面白いと思っていただけましたら、ページ下部の【ブックマーク】や【☆評価】を押して応援していただけると、本当に嬉しいです!よろしくお願いいたします。

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