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アーカー大陸:楔 活躍するやつほとんどジジババ  作者: 一戸雄基


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第二十二話

AC歴七百五十八年


 アンダーノースはとある話題で持ちきりだった。事の発端はBDが雌のダイモンウルフを連れて帰ってきたことである。


 ダイモンウルフは〝群れない狼〟として知られ、アーカー大陸の獣の中ではオーガボアと並んで上位に君臨する獣であった。非常に大きな体格で、立ち上がった時の大きさが大人二人分に達する個体も少なくない。


 かたやBDは狂竜ザハクを喰らうことで熊と見紛うほどに大きく成長したものの、犬である。彼はいつか番いとなる相手を見つけたいと常々思っていたのだが、同種の犬では体格があまりにも違っていた。


 その点、BDが連れてきたダイモンウルフはBDよりも一回り大きいくらいで、相手としては申し分なかった。アンダーノースの住民もバジルもドレイクも皆がBDを祝福した。


 十五歳となったカエンも表向きは祝福し、ダイモンウルフにレディと名をつけた。


 レディには兄弟がいるようで、アンダーノースには二匹のダイモンウルフが出入りするようになった。レディはBDと共にこの集落で暮らすことになり、レディの兄弟は時折集落に顔は出すものの、基本は森の中で生活しているようだった。そのためカエンはレディの兄弟をシャイと呼んだ。


 ダイモンウルフが小さな集落を出入りする光景は異様なものであったが、この集落で生活している者達はBDと暮らしていたことも手伝ってか、すぐに受け入れた。集落の者が気軽に接してくるので、レディも徐々に人に慣れていった。


 ところが不思議なことにレディとカエンの間には溝が出来ていた。


 孤児院の子供達はレディの背に乗ることもあったが、レディはカエンだけはその背に乗せなかった。カエンが近づくと、レディはそそくさと離れていった。


 カエンはレディとの距離を縮めようと彼女の世話を進んで引き受けたが、いずれも失敗に終わっていた。その都度BDはレディに何かを伝えているようだったが、BDが間に入ることが余計二人の間に溝を作る原因となっている様に見えた。


 そんなことが続いていたある夜、カエンはレディに毛繕いをさせて欲しいと頼んだ。レディはいつもの様に何も言わずその場を離れようとしたが、BDに諭され渋々カエンと共に外へ出た。


 星の綺麗な夜だった。


家の横に設けられた切株を利用した椅子に腰掛け、片手に櫛を持ったカエンはゆっくりとレディの毛を梳かしていった。

「私のこと、嫌いなんだよね? 正直に言うと、私も、貴方のことを好きになれなかったの……だって、パパが貴方のことばかり見るようになったから」


 レディは人の言葉を凡そ理解してきていたが、まだこのような会話を全て理解できるほどではない。彼女の理解が及ばない部分は少し離れたところにいるBDが通訳した。


「だからもしかしたら、貴方もそうなのかなって……私は今悲しいのと嬉しいのがごちゃごちゃになってて混乱してるの。パパを取られちゃったみたいで、悲しくて悔しくて。でもパパに貴方みたいな素敵な人が出来て嬉しいのもある。本当よ」


 心の中を打ち明けようとすると、目頭が熱くなってくる。月明かりに照らされた真っ白なレディの毛が滲んで見える。


 バジルとドレイクは家の二階の窓を開け放ち、二人から見えないように座り込んで聞いていた。今二人の父に出来ることは何もないだろう。


「私のパパは、パジーもパレーもだけど、誰より強くて優しいの。だからきっと……貴方といても私を蔑ろになんてしない。パパは私と貴方のどちらも大事にしてくれる」


 レディが顔を上げてカエンを見る。

「だから……パパを、宜しくお願いします」

 言いながらカエンの瞳から零れ落ちた涙をレディは舐めた。





同年


 アンギルダンはチュワモント王国を占領した。チュワモント陥落の直前にコンパルド共和国が降伏を受け入れたため、アンギルダンはほぼ同時に二国を落とすことになった。



ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!


kindle出版しているアーカー大陸:楔の本編をこれから毎日最後まで公開していきます。


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