第十九話
AC歴七百五十三年
帝国軍の再編成を果たした皇帝イノスはアンギルダンに北部地域攻略を命じ、その命を受けたアンギルダンはコンスティテューション周辺の中小都市を次々と占領していった。
アンギルダンは指揮下の兵に民への略奪行為を徹底的に禁止した。その結果、アンギルダンの軍が近づくと、自ら帝国の傘下に収まる街もあった。
これはアンギルダンの戦法だと言う者もいれば、元コンスティテューション将軍としての情けだと言う者もいた。北部最大の都市コンスティテューションは最後まで抵抗を続けるも、帝国軍に包囲され、援軍も望めない状況であった。コンスティテューション陥落は時間の問題となっていた。
オールドークのギルド本部はコンスティテューションの職員に避難を呼びかけ、職員はそれに応じた。
都市を包囲していたアンギルダンは、非戦闘員である者の避難を推奨していたので、彼等は無事に都市を脱出できた。
コンスティテューションはそれから約一年に渡って籠城を続けた。この間、一向に攻めようとしないアンギルダンに対して批判の声が多く挙がったが、アンギルダンはそれら全てを一笑に付した。
やがてコンスティテューションは降伏を宣言し帝国軍の傘下となった。
アンギルダンは最後までコンスティテューションには攻め込まず、包囲するだけで降伏させたので、帝国は北部最大の都市を無傷で手に入れることとなった。
一時アンギルダンを批判していた者達も手を翻し、アンギルダンを褒め称えた。
北部地域を傘下に収めたラルゴン帝国は国土だけ見ればアーカー大陸一大きな国となった。
同年
フランシスとマットはそれぞれ二番弟子として認められ、アンダーノースを旅立とうとしていた。バジルとドレイクは共に、この二人には何かが足りないと感じ、最後の試練としてオールドークにいるアーノルドの元へ向かうよう指示を出した。
アンダーノースの孤児院は数名の子供達を迎え賑やかになっていたが、二人の旅立ちに子供達は悲しんだ。
十歳となっていたカエンも他の子と同様に悲しみ、マットの服を掴んで離さなかった。
「カエン、僕達はいなくなるわけじゃないよ。今度来るときはお土産をたくさん持ってくるから、楽しみにしていて」
マットのその言葉はカエンには響かなかったようで、結局彼女は大泣きしてしまった。
「お土産なんていらない。一緒にいて一緒にご飯を食べたい」
泣きに泣くカエンをドレイクは半ば無理矢理抱きかかえて家の中に入った。これだけ長く共に過ごした者との別れは彼女にとって初めてのことだった。
「それでは行ってきます」
フランシスとマットは名残惜しそうに言った。
「クリスに宜しくな。アーノルドにも。それから……前にも言ったと思うが、メイガンに会ったら下手に話しかけるなよ。向こうが話してきた時だけ返せばいい。いいか? 分かったな? あと、ルールーには気をつけろよ。あいつは年下が好きだし、見た目は若くて良い女に見えるかもしれんが、年は俺達と変わらないんだからな? おい分かったか?」
フランシスとマットは苦笑しながら言った。
「分かってますって。もう何回も聞いてますよ」
そうして二人は歩き始めた。集落が見えなくなる辺りまで進んだ時、BDが背にカエンを乗せてやってきた。二人の前でBDから降りたカエンが話す。
「フランシス、マット、挨拶はきちんとしないと駄目だから、わたし、泣いちゃってさっき言えなかったから、きちんと言えなくてごめんなさい。わたし、二人と離れたくなくて、わたし。ちゃんと言えるから」
二人の顔を見た瞬間彼女はまた泣き出してしまい、嗚咽交じりに話す言葉は聞き取り難い。それでも必死に何かを言おうとしていることが分かると、二人はカエンが話せるようになるまで腰を屈めて彼女に目線を合わせて待った。
「いってらっしゃい。ちゃんと帰ってきてね」
マットはカエンを優しく抱きしめ、フランシスはカエンの頭を撫でた。
「お土産楽しみにしてて」
マットが言うと、カエンは頷いた。
BDとカエンに見送られながら二人は商業自由都市オールドークへと向かった。
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