第十八話
AC歴七百五十年
バジル達の住む丘の家から少し離れると、険しい森が広がっている。
マットはこの森を訓練場に見立て、駆け回っていた。その後をフランシスが追いかける。
「お前さ、本当は見えてるんだろ」
湧き水を見つけた二人は休憩しながら話した。マットは木の間を縫うように走り、フランシスがマットを捕まえそうになると、一瞬だけ信じられない早さで動いてフランシスの手を躱していた。
「いいや、僕に何も見えてないことは君が良く知ってるだろ」
「じゃあなんで美人を見分けられるんだ?」
「それって、今関係あるかな?」
二人は笑った。マットは女性に言い寄られることが多かった。
「マイクさんが帝国の将軍になったな」
フランシスが言った。
マイク・オーレリアはフランシスの兄弟子にあたる。バジルの元で剣を学んだ彼は、今や帝国の将軍となっていた。彼はバジルに決闘を申込み、完膚なきまでに叩きのめされたあと弟子入りを志願したのだという。元は孤児であった彼が将軍となったことは庶民の間で専ら評判となっていた。
「そうだね。だけどソウズさんはもっと前にディエイカーの騎士団長になってるよ。ディエイカーの騎士団長と言えば、他国の将軍と同じ地位だよ」
ソウズ・カデラックはマットの兄弟子にあたり、ドレイクの元で剣を学んだ男だ。カデラック家の人間として忠義に厚く礼節を重んじる騎士団の一人だった彼は、野盗との戦闘中、たまたま通りがかったドレイク達に助けられた。圧倒的に不利な状況を個の力で覆したドレイクに彼は魅せられた。そのあと彼は騎士団を除隊してドレイクに弟子入りし、再度騎士団に戻って騎士団長の位についた。
いずれもフランシスとマットの憧れであり、目標となっていた。
「ああ、でもさ、帝国が大陸統一するっていってるんだろ? そうしたら、俺達はいつかマイクさんと戦うことになるんじゃないか?」
「北にはまだシスバーガリもチュワモントもあるんだ。帝国がくるとしてもLAまでくるのなんて、いつになるかわかったもんじゃないよ。それにコンスティテューションだってまだ落ちてないんだから」
マットは笑いながら返した。
「それもそうだな。それはそうと〝雷〟は大分使えるようになったのか? 森の中で何度か捕まりそうになった時に使ってたのはそれだろ?」
雷はドレイクの使う術式だ。自身の体に電流を流すことで、筋肉を無理矢理動かし、常人には到達できない速度に至ることができる。その動きを何通りも組み合わせることで戦闘に利用する。術式で定めた動きしかできず、一度組み込んで発動した術は終わるまで止められない。幾重にも重ねて発動すれば瞬きする間に何度も相手を斬りつけることもできる。だが、万が一にも初撃を躱されることがあれば、隙が生まれる術でもある。そのため先の動きを読む洞察力も必要とした。多くの場合は一つか二つの動作に絞って発動することが多い。
「うん。そうなんだけど、実はまだまだなんだ。正直に言ってこの術式は僕とあまり相性が良くないのかもしれないって思ってる」
マットが小さな声で答えた。
「そうなのか? なんで?」
「うん。例えば師匠はさ、その気になればここから家まで〝雷〟を使ってすぐに帰ることができるんだけど、僕が認識できるのは精々ここから、向こうの大木まで。だからもし僕が〝雷〟を使って家まで帰ろうとしたら、ちょこちょこ止まって回りを認識してから使っていかなきゃならない。この術式を活かしきれないんだ」
「広い場所では不向きってことか?」
「まあそうだね……」
落ち込むマットにフランシスは大笑いしながら返した。
「それなら心配いらないな。お前は俺の背中を守ってくれればいいんだ。俺が遠くを見るから、お前は俺の周りを見てくれればいい」
マットに光は見えない。けれどフランシスの言葉はいつも光のように思えた。
「それかさ、お前も〝炎舞〟教えて貰うか?」
「いや僕、そんな大剣持てないから」
二人は笑いあった。
同年
オールドークのギルド本部にラルゴン帝国帝都から飛んできた一羽の鳩が降り立った。
クリスへ
アンギルダンの孫、ネイ・クレイムが帝国に囚われている。彼がコンスティテューションを離脱して帝国についた原因はこれだろう。情報元は信頼できる。万が一のため名前は書かないが、分かるだろう?
彼女の居場所、警備の詳細はこれから探る。
ギルドは恐らく動かないだろうが、いつでも彼女を助け出せるよう、用意はしておく。
帝都管理人
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kindle出版しているアーカー大陸:楔の本編をこれから毎日最後まで公開していきます。
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