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アーカー大陸:楔 活躍するやつほとんどジジババ  作者: 一戸雄基


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第十七話

AC歴七百四十九年


 集落から少し離れた丘の上に、二階建ての家が建っていた。村の長の家ほどではないが、そこで暮らす人々の家の中では大きい。家の脇には切株を利用した椅子と、大木を斬って磨いた卓があり、焚火ができるようになっている。向かい側には井戸があった。


 バジルとドレイク、BDの三人は開拓が始まったばかりのこの、リトルアジア北部にある小さな集落アンダーノースに定住することにした。


 家を建てている途中、アルファルのイズとエステルが運営する孤児院からフランシスとマットが手伝いにやってきたが、彼等の目的は二人に弟子入りすることであった。モントンで出会った少年二人は十六歳を迎え、逞しく成長していた。フランシスはとても以前の痩せた少年とは思えないほど大きくなっており、バジルの元で〝炎舞〟を習得するべく励んだ。盲目のマットはシーリーから譲り受けた立体知覚術式を使用することで不自由ない生活を送れるようになっていて、ドレイクは彼に自身の術式を教えていた。


 この集落に吹く風はまだ冷たいが、差し込む日差しには熱がこもってきている。


『煙草は外で吸ってください』

 そう言われてからドレイクは外で煙草を吸うようになった。


 冷たい風と熱い日差しの丁度よい心地よさを感じながら、ドレイクは切株の椅子に座り煙草を吸っていた。


 小さな丘で少女が熊のように大きな犬に追いかけられている。ドレイクの方へ向かって走って来る少女の足元は不安定で、いつ転んでもおかしくない状態だ。けれどこの村の住人なら誰もが知っていた。少女はよほどのことがない限り怪我をすることはない。少女の近くには常に大きな犬が張り付いている。もし少女が転ぶようなことがあれば、この大きな犬はすぐさま身体を滑り込ませて緩衝材になるだろう。豊かな毛並みは少女を傷一つつけずに受け止める。BDにはそれが出来るだけの俊敏性と優しさがあった。


 少女、カエンはBDから逃げることがまるでこの世界で一番楽しいことであるかのような笑顔と声を振り撒きながら走ってくる。


「パレー! パレー! 助けてー」

 ドレイクの頬が思わず緩む。

 煙草はまだ半分ほど残っていたが、カエンが来る前にドレイクはもみ消した。


「パレー! 助けて! パパに食べられちゃう!」

 そう言いながらドレイクの胸に飛び込んできた。言葉とは裏腹に、満面の笑みだった。その後ろからBDがゆっくりと歩いてきていた。


「そおら」

 ドレイクは彼女をひょいと持ち上げて、自分の肩に座らせて立ち上がり、少し演技気味にこう言った。

「この姫のほっぺたはドレイク・ルブランが頂いた。返して欲しくば捕まえてみよ」

「きゃー! パパたすけてー」

 そうしてドレイクはカエンを肩に乗せたまま家の中まで走っていき、BDはそれを追って家の中へ入っていく。


 カエンの笑顔と喜びに満ちた叫びが止まらない。いつもの追いかけっこだ。彼女にとっての鬼はころころ変わる。


 カエンが疲れるまで遊びに付き合い、大人しくなった頃に昼寝をさせる。起きればすぐに又どこかへ遊びにいくだろうが、BDがついているのなら心配はいらない。この少女の守護神は彼女から離れることはないし、彼はドレイクの知る中で誰よりも強い。カエンは丸まったBDの腹の上で眠った。


 起きている時のまん丸の綺麗な瞳と笑顔がどうしようもなく愛おしく感じるが、寝顔の愛おしさはそれとは又、別物だとしか言えない。ドレイクは眠りについたカエンの頭を撫でながら自然と口元を緩ませた。

 

 ほんの少し前まで冒険に明け暮れていた。それが今ではこの丘の家で過ごす長閑な日々が何よりも心地よく感じられる。カエンと、この地の人々と共に過ごす穏やかな時間が、刺激的な冒険よりも価値あるものとなっていく。

 

 アンダーノースへ移り住んですぐBDはあたり一帯の獣を配下に収め、自身の縄張りとした。それ以降この集落に獣が現れることはなく豊作が続いている。


 名前を持つ竜を討伐した者達が移り住んだことが知れ渡ると、三人に仕事を回すためギルドの支部ができた。ギルドの支部が、小さな集落にできることは珍しいことだった。クリスかシーリーあたりが手を回したのかもしれない。


 ギルドができると情報が届くようになり、仕事も生まれた。仕事があると人も増え、人が増えるとそれらを客とする宿屋や酒場もできた。今では常にどこかで新しい家を建てている。ドレイクとバジルに決闘を申し込みにくる者もいたが、そういった者もこの街の宿屋と酒場は快く受け入れていた。


 三人はここに孤児院を作るつもりだ。孤児院の運営費はバジル・ドレイク・BDがギルドからの依頼を引き受けることで捻出する。子供達をただ育てるのではなく、自立できるように支援していく方針でいた。自分達が永遠に孤児院を運営できるわけではないのだから。


 とはいえ子供達の将来の負担になるつもりも、恩着せがましくするつもりもない。孤児院の長期存続という課題についてはこれからも考えていく必要がある。


 幸い、バジルやドレイク、BDの受けるギルドからの依頼は報酬がかなり良い。他の冒険者が複数名で挑むような依頼を彼等は一人か二人でこなせたからだ。


 頭には白いものが目立ち始めたが、この目が黒いうちはまだ何とかなるだろう。

 三人ともそう思っていた。


 もう一度カエンの頭を撫でた後、ドレイクもその隣で眠りについた。



ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!


kindle出版しているアーカー大陸:楔の本編をこれから毎日最後まで公開していきます。


少しでも面白いと思っていただけましたら、ページ下部の【ブックマーク】や【☆評価】を押して応援していただけると、本当に嬉しいです!よろしくお願いいたします。

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