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要するに、この透明立方体って魔法を扱うための練習をするための道具らしい。初学者向けの基本トレーニング教材みたいな感じ?
ミケちゃん、調薬師ギルドがお子様たちに頼んでる薬草摘みでお小遣い貯めて、それで剣を買いたいんじゃなかったっけ? だから剣で戦う人になりたいのかなーって思ってたのに、魔法職志望なのかい君。
いや、魔法使えるようになりたいってだけで魔法士目指してますと決めつけたものでもないか。日々の暮らしに役立つちょっとした魔法を使えるようになりたいだけかもだし。灯り出したり水をお湯にしたり便利だよねー、あれ。
そして、現在ミケちゃんは魔法学習の基礎編序章あたりで早速つまずいてるような状態のようです。これが基礎の基礎ですよー、ってところで足踏みするはめになると凹むよねー、わかるー。
まあこういうのって数ヶ月とか半年とかしばらく距離を置いてから再挑戦したらすんなり先に進めることもあるし、いまできなくてもふてくされることないんじゃないかなー。なんて、他人事なので適当なこと言ってるけど、どうせわたしの言ってることはミケちゃんにもジルドナート青年にも理解できないので、それがどれだけ的外れなアドバイスであろうとも問題はなにもない。猫って気楽。
「…………あのさー、なんかコツとかねえのこれ」
なんかものすごーいイヤそうな顔をジルドナート青年に向けながら、ミケちゃんが言う。一応は教えを乞うようなことを言ってるけど、表情が人にアドバイスを求めるときの顔じゃない。そんなに先人に頼るのイヤなのかミケちゃん。
「コツっつってもなあ……。お前の場合、まず白点も出せてないだろ。そうなると魔力の扱いにまだ慣れてないのが原因なんじゃね? それか、単純に集中力の不足」
「はぁあ? 集中はしてるっつーの」
「あっそ。じゃあやっぱ慣れの問題だろ」
「慣れってなんだよそれ。兄ちゃんも毎日欠かさず練習しましょうね、とかつまんねーこと言うわけ?」
「そりゃあ、初心者相手なら俺でも誰でもとりあえずそう言うだろうよ」
「そういう誰でも言いそうな当たり前のことじゃなくてさあ」
ミケちゃんははぁーっと大げさにため息をついた。
「もっと具体的になんかねーのかよ」
ジルドナート青年も、ミケちゃんに対抗するようにわざとらしいため息をつく。
「ねえよ。……お前、これの前段階はちゃんとできてるんだろ。魔力を込めるだけのやつ」
「は? もしかして疑ってんの?」
「いや別に。そこはヴェルゼン様がしっかり見てるだろうし」
ジルドナート青年がそう言うより先に、それまでテーブルにだらんと懐いていたミケちゃんがぱっと立ち上がり、設置されている大きな黒板のそばにあるデスクに向かっていった。引き出しの中からなにかを取り出し、すぐに戻ってくる。ところでその引き出しって勝手に弄っていいやつなんです?
「ちゃんとできるっての! 見てろよ」
ミケちゃんは手に持った立方体――いまジルドナート青年の手にある金属枠つき透明キューブと見た目がほとんど同じもの――をジルドナート青年に突きつけた。
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