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ミケちゃんが放り出してテーブルの上に転がった金属枠つき透明キューブを、ジルドナート青年の手が拾い上げた。そしてミケちゃんに向かってちょっとからかうような口調で言う。
「簡単な定型魔法程度は魔法書に頼らず使えるようになりたいっつったの誰だったかなー。これができないうちは最初の一歩を踏み出す日すら遠いぞ。せいぜい頑張っとけ?」
そのジルドナート青年の手の中で、透明立方体に変化が発生していた。
透き通ったキューブの中に、ぽつんと白い点が現れた、と思ったら点はじわじわと一本の線になり、線が枝分かれし、五秒ほどかけて直線で構成された立体的な形が完成すると同時に、白かった線が青く変化しほんのり光を発しだした。
なにこれ。どうなってるの? どういう仕組みですか。
興味を惹かれ顔を近づけた途端、立方体の中に一つだけだった図形が増殖する。驚いたわたしは思わずぴょんと跳ねて後ろに下がり、テーブルに投げ出されたミケちゃんの手を踏んづけてしまった。ごめんミケちゃん。でもわたしの体重なら痛いとかないよね、軽い仔猫だもん。
ええと、最初は幅高さどちらも二センチくらいのが一つだったんですよ。それが一気にぶわっと、同じ形をした小さいのがたくさん。えー、ほんとになにこれ、ちょっと面白いけどどういう意味があるやつ?
「けっ、嫌味かよ。自分は優秀だからこんなの簡単ですってか」
顰めっ面のミケちゃんに、ジルドナート青年はため息を落とした。
「こんなもん初歩の初歩すぎて多少構築が速いぐらいじゃ自慢にもならないんだよ。自力で魔法を扱いたいならこの程度はできて当然ってやつ。ま、自前の魔力があるんなら、構築能力が皆無でも魔法書を使えばいいだけだ、そう悲観しなくても大丈夫だぞー」
後半、励ますというより煽ってるような言い方だ。案の定、言われたミケちゃんは最高にぶすくれた顔になっている。
ジルドナート青年が手に持った立方体をくるっと九十度回転させると、一瞬にして中に浮かび上がっていた図形がきれいさっぱり消えてなくなった。そしてまた白い点、点から線、線から図形、最後はまた白線からほんのり光る青い線へと変化する。今回の完成形は、最初の図形とはまた異なる形のものだった。
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